琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密 ☆☆☆☆


女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密 (文春新書)

女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密 (文春新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
難関大学に合格者を多数輩出しながらも受験勉強に特化した教育とは対極の個性豊かな六年間を謳歌する彼女たち。その強さの秘密はどこにあるのか?最高峰の女子校の真実に迫る!


女子御三家」か……
 僕は男子校で高校生活を送った地方在住者ですので、桜蔭、JG(女子学院)、雙葉と言われても、正直、まったくピンとこないんですよね。
 子どもはふたりとも男の子だし(仮に女の子だったとしても、こんなハイレベルな学校には無縁だったとは思いますが)。
 まあ、だからこそ、気軽に読める、というところもあるのですけど。

 東京は女子校だらけである。
「東京私立中学高等学校協会」のウェブサイトのデータによると、全182校ある私立中学校のうち、79校が女子校であるという。男子校は34校、共学校は69校であることを考えると、女子校の占める割合が格段に高いことが分かる。
 そんな中で、「女子御三家」と呼ばれる女子校がある。
 これは東京にある私立女子高「桜蔭」「女子学院」「雙葉」を指し示す。三校とも長い歴史をもつ伝統校であり、東京、いや日本に数多く存在する女子校の中で屈指の難関校だ。これらの学校に入学するには中学入試で狭き門を突破しなければならない(高校からの募集枠はない。ただし雙葉のみ附属の幼稚園や小学校から入る道も用意されている)。だからこそ、女子御三家の各校は中学受験を志す小学生や首都圏の中高生だけでなく、巷間で羨望や憧れの目を向けられる対象である。


 著者は、進学塾の講師として、たくさんの生徒をこの「女子御三家」に合格させており、その人脈を駆使して、これまであまり取材を受け入れてこなかった、これらの学校の「内側」を生徒・先生の両面から描いています。
 「校風」みたいなものに対して、漠然としたイメージはあるものの、結局のところ、「偏差値が高い学校から順番に」みたいな基準で受験校を選んでしまう親も少なくないはず(中学受験ですからとくに、親の影響は大きいと思われます)。
 「桜蔭は東大合格者数がずっと全国の高校のなかでベスト10以内!」というような「受験的なデータ」だけではない、「学校の雰囲気」や「先生たちは何を身につけさせようとしているのか」というのは、親にとっては、なかなかわかりません。
 いやまあもちろん、「東大に合格できる女子校」という基準であれば、桜蔭がいちばん良いのではないか、とも思いますが、東大を出ても、人生は続くわけですし。


 著者は、各校の校風について、こんな喩え話をしています。

 わたしが考える三校の在校生や卒業生の典型的なキャラクターを「空き缶」の話に落としこむと次のようになる。


 もし道端に空き缶が落ちていたら?


 桜蔭生→すぐさま拾い、ゴミ箱へ捨てにいく。(理系・医系の生徒は、捨てにいく途中で缶に記された原材料や成分をチェックする)


 JG生→考え事にふけっていたため、缶が落ちていることにそもそも気づかない。


 雙葉生→誰が捨てにいくのかを決めるジャンケン大会が始まる。(ただし、他人が通りかかったら、その人に見せつけるようにそそくさと捨てにいく)


 数十年語り継がれたたとえ話を大胆に書き換えてみたが、本書を読み進めていくうちに「なるほど、そういうことか」と納得してもらえるにちがいない。


 この女子御三家は、それぞれ、各界で活躍している人を大勢輩出しているのですが、僕の独断と偏見で、ひとりずつ象徴的な卒業生をあげていくと、桜蔭菊川怜さん、JGは辛酸なめ子さん、雙葉は高橋真麻さん(小説家の川上弘美さんも雙葉の卒業生なんですね)。


 この「女子御三家」は、それぞれ個性的な学校であるのと同時に、「女子校」という大きな共通点を持っています。

 JGの田中前院長は女子繁育の持つ意味を次のようにまとめて話してくれた。
「彼女たちにとって人生の多感な時期に女性だけで学ぶ意味は、男性の目を意識しないで伸び伸びと飾らずにありのままの自分を出せるという点がまず挙げられます。たとえば、容姿に劣等感を持っている子、男性の前だとそれに引け目を感じている子であっても、女性の中だけだと自分が身に纏ったものをすべて剥ぎ取って『良いところ』も『悪いところ』もさらけ出せる。自分の持つ『光るもの』を周囲に評価してもらえる環境があるのです」
 そのような評価を受けた子は、その先大学や社会に進んだ際に、周囲が評価し認めてくれたその自分の内なる部分に自信を持って堂々とふるまうことができるという。
 彼女たちが自分たちの中高生活が何かに守られていたように感じたのは、田中前院長の発言内容をみると容易に理解できるのではないだろうか。


 以前、男子校に取材した新書を読んだときも、その名門校の校長先生が同じような話をされていたんですよね。
 同性だけで学ぶことによって、「恋愛市場」みたいなものから(多少なりとも)隔離され、異性にモテない、というようなコンプレックスを肥大させることなく、自分の好きなことに打ち込めるというメリットがある。
 僕も男子校に通っていて、「こんな男ばっかりの偏った世界では、人間として偏ってしまうのではないか」と当時は思っていたのだけれど、いまから考えると、あの時期に「何をどうやってもモテない自分」に向き合わなくて済んだのは、結果的に良かったのかもしれません。
 

 この本のなかでは、それぞれの学校の雰囲気や教育方針、生徒たちの日常についても紹介されています。

 彼女(桜陰の卒業生のひとり、現在医学部の1年生)の二つ年上の卒業生三人に桜陰内での友人関係を聞いてみた。
「クラス内は自然と幾つかのグループに分かれますが、正直はっきりとしない感じです。帰宅するときも、グループ内でというよりも、自宅の方向が同じ人と途中まで帰りますね」
「トイレに行くときは基本ひとりで、誰かが付いてくるなんてことはありません。下校時は駅くらいまでは一緒に帰るけれど……という人が何人かいました」
「いつも一緒にベタベタする……というような雰囲気はありません。帰宅前に話があんまり弾まないときは、ひとりで帰りました」
 同調圧力など無縁の学校生活を送っていたことが分かる。
 また、桜陰の卒業生たちに取材をしていて判明したのが、桜陰内では勉強面で順位を争うようなことなどないという点だ。成績優秀者の掲示や公開も学校側では全くおこなっていない。卒業生が証言するところによると、クラス内で数人授業に付いていくのに苦しんでいた子がいたらしいが、勉強ができないことが原因で仲間外れになるような雰囲気は桜陰には一切ない。「勉強至上主義」であると勘違いされやすい桜陰生ではあるが、そもそもトップレベルの学力を備えている彼女たちは、勉強の出来不出来で人を評価するなど下らないことだという価値観を持っているのだろう。


 僕は現在の女子学生の生態については、まったくわからないのですが、桜陰生たちは、ベタベタしないし、グループ内で固まってしまう、ということもあまり無いようです。
 こんなに東大にたくさん合格している学校なのだから、学内での成績競争も激しいのではないかと思いきや、みんな勉強ができる世界だからこそ、かえって、「人間はテストの点数じゃない」と考えることができるのかもしれません。
 こういう「自立心の強さ」とか「群れない」というのは、JG(女子学院)にも共通しているようです。
 ただ、JGは、桜陰よりもさらに、個性的というか、「自分の生きかたを貫く」生徒が多そう。
 逆に、雙葉はやや保守的というか、「良妻賢母的」「他者への気配り上手になる」傾向がある。
 生徒にもそれぞれ個性があって、「自由」だからJGが良いかというと、「クールな人間関係に耐えられない」と感じる人もいるのです。
 こういうのはもう、「相性」だとしか言いようがない。
 ただ、彼女たちは、勉強ができる、賢いからこそ、「テストの成績で人間を評価しない」のだなあ、と。
 それこそ「エリートの特権」なのかもしれないけれど。


 子どもの親としては、たいへん身につまされる「親の問題」についても言及されています。

 慶應義塾大学に在籍している卒業生は、いまでも尊敬しているという担任の次のような発言を強烈に覚えている。
「先生が保護者会でこんなことを言ったそうです。『親が医者だからといって、それを子に押し付けるのはやめなさい』と。あと、『お母さんにベルトで叩かれた』といって怪我をしてくる子がいたんです。虐待なのかは分かりませんが、そのときに先生が親に連絡をして『次に同じことがあったら警察に通報します』と毅然と言い放ったみたいです」
 桜陰では子ども以上に親がヒートアップしてしまうことが多いのだろうか。
 傍から見ていると教育熱心が行き過ぎている親が散見されたと卒業生のひとりは語る。
「友人は母親にゴミ箱まで漁られたみたいです。ちゃんと勉強しているか、彼氏などいないか、何から何まで親が管理したかったんじゃないですかね。その親は、ゴミ箱の中から娘が男子と写っているプリクラを発見して、そのことを保護者会の場で、他の保護者たちがいる前で暴露したらしいです。信じられないですよ。子の面目など全然考えていない」
 そして、彼女はこんなエピソードも打ち明けてくれた。
「わたしはある友人から『わたしは探偵が付けられているんじゃないか。本気でそう思う』と相談されたことがあります。母親が自分の行動のすべてを把握しすぎているって言うんですよ。また、別の子では、母親に包丁で脅されたケースがあります。やはり桜陰に入る=東大に入ってもらわなければ困る、なんて親は追い詰められてしまうんですかねえ。この点、うちは親が良い意味で無関心だったので、本当によかったです」

 子どもに無関心すぎる親は問題だけれど、あまりに干渉しすぎる親というのも……
 しかし、自分が親という立場になってみると、「やりすぎ」も、あまりに酷ければわかりそうだけど、「ちょうど良いところ」に着地するのって、けっこう難しい。
 「期待しているから」「子どものために」と、本人は思っているのでしょうし。

 
 正直、この「御三家」を、どこにしようかと「選べる立場」の人って、あんまりいないと思うのですが、僕だったら、娘をどこへやろうかな……なんて妄想を膨らませながら読みました。
 自分に娘がいないからこそ可能な、無責任な想像。
 うーん、桜陰かな、僕の好みとしては。


 本当にこれらの学校への進学を考えている人は、一度読んでおいて損はしないと思います。
 偏差値だけじゃなく、学校の校風との相性って、けっこう大事なことだから。


男子校という選択 (日経プレミアシリーズ)

男子校という選択 (日経プレミアシリーズ)

アクセスカウンター