琥珀色の戯言

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【読書感想】とことん板谷バカ三代 オフクロが遺した日記篇 ☆☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
オフクロがこっそり遺した闘病日記とともに、
板谷家の大ピンチと相変わらずのバカぶりを板谷節炸裂で描いた、
大ヒット「板谷バカ三代」シリーズ史上、最高に笑っちゃうのに涙が出ちゃう感動エッセイ!


バアちゃん(著者の祖母)、ケンちゃん(著者の父)、セージ(著者の弟)という、メガトン級の三バカによる戦慄のバカ合戦が描かれ、日本を揺るがす笑撃の大ヒットとなった『板谷バカ三代』『やっぱり板谷バカ三代』。そのバカ家族を支えてきたのが、しっかりもののオフクロ(著者の母)でした。
そのオフクロは残念ながら肺癌で2006 年に亡くなりましたが、実は亡くなる直前まで、家族に内緒で4 年間も日記を書いていたことが発覚。最初はどうしても読めなかった著者が七回忌を機にページを開くと、そこには家族への愛情がいっぱい……。しかし、思い切りバカ家族を罵倒する言葉も……!
本作品はその日記をダイジェストで取り上げ著者が感想を添えた、笑って泣ける感動作。もちろんバアちゃん、ケンちゃん、セージらの相変わらずの日々のバカっぷりもエッセイで紹介しています。
自身の命を見つめながらバカ板谷家を支え続けたオフクロと、オフクロを今こそ支えねばと思いながらも騒動ばかり起こす板谷家の面々の愛あふれる日々……笑いと感動で涙と鼻水が止まりません!


 『板谷バカ三代』シリーズを読み続けてきた僕としては、なんというか、ものすごくせつない気持ちで読みました。
 もちろん、破天荒な板谷家の人々のエピソードもたくさん紹介されているのですが、「終わり」がどうなるのかわかっているだけに、『銀河英雄伝説の8巻』を読んでいるような。
 板谷さんのお母さんの闘病、そして家族についての日記を追っていくと、癌で亡くなった自分の母親のことを思い出してしまうんですよね。
 日記らしきものを書いていたのを見つけたのですが、僕自身は、それを自分が読んでよいのかどうか判断がつきかねるまま、実家にしまってあるのです。
 自分の死後、読まれることを望んで書いていたのか、それとも、自分自身のために、ただ綴っていたのか……

 お父さん、クレストホテルの飲み会に行き、夜中の12時にデロリロになりながら西武信金の人に送ってきてもらう。結婚して42年くらいかな。とにかく、ズーッと酒癖が悪い。とことん飲んで人に送ってもらうのは、きっとこれからも一生直らないであろう。いつも出かける前、飲み過ぎないようにと言うが、どうしてもダメだ。もう言わない。あの人は無理だから。あの人の最期は、私の予想通り事故死とか即死であろう。もう情けないのを通り越した。

 僕自身にとって、この闘病記は、なんだかとても身にしみるものだったのです。
 板谷さんのお母さんは、家族のことや自分の病状のことについて、けっこう率直に「思い」を書いています。
 それは、プロの作家の文章のように端正なものではないし、日々揺れ動いていて、ゲッツさんのお父さんである「ケンちゃん」が飲みに行っては仲間に運ばれて帰ってきたり、周りに気配りができず、自慢することばかり考えていたりする(でも本人に悪気はない)ことに対して、ある日は辛辣に罵声を浴びせ、別の日には、「こうして二人で温泉旅行をして過ごせるのは幸せだ」と書かれているのです。
 僕は、それを読んでいて、すごく「腑に落ちる」感じがしたのです。
 ネットの世界では、人と人との関係って、「白と黒」というか「この場合、夫と妻の、どちらが悪いか?」みたいな議論になってしまいがちなのですが、人と人との関係って、そんなにシンプルに決着がつくようなものじゃないんですよね。
 いがみ合ったり、憎み合ったり、惚れなおしたり、感謝したりしながら、日々は続いていく。


 読んでいると、「自分は家族や周囲の人から、本心ではどう思われているのだろう?」と怖くなってくるのです。
 その一方で、どんな人だって、ずっと愛されたり、100%嫌われたりしてはいないのかもしれないな、と、ちょっと安心するところもあります。
 どの家庭も、そんなに「理想郷」じゃないんだな、とも思う。

 オフクロは口に出さなかったが、和江(ゲッツさんの奥様)が宏平を預けに来ると1〜2時間ではなく、時には5時間も6時間もそのままにしておくことがあり、そのことに対しては明らかに少しイライラしていた。で、オレも人が時間と闘いながらヘロヘロになって仕事をしているというのに、和江がまるで当然のような顔をしてゲームをしているのと見るとハンパなくムカムカするようになり、やがて仕事の僅かな空き時間を見つけると他の女たちと浮気をするようになったのである。
 そう、ここにきて板谷家は一見まとまってるように見えて、実はバラバラになっていた。いや、バラバラというより、オフクロは肺癌、バアさんも脳梗塞を何度も起こして入退院が続き、上の世代がそんなことになっているにもかかわらず、オレは仕事と浮気、和江も相変わらずゲーマーな日々、セージもいきなり大変な仕事をやるようになってソレ以外には1ミリも余裕が無くなり、麻美(ゲッツさんの妹さん)も自分の娘が自閉症だということがわかって茫然自失。つーことで、板谷家の雑用の類はケンちゃんがやるようになったが、当然のごとく彼はその仕事を却って増やしたりして、結局はお酒を飲み、ベロベロになりながら町内会の者や元同僚の人たちに担がれてくるのである。そう、板谷家は大ピンチに立たされていたのだ。

 この後、ゲッツさん自身も、さらに大ピンチに陥ってしまうのです。
 大人になってあらためて感じるのは、子どもの頃に「普通」だと思っていた「円満な家庭」というのは、全然「普通」じゃないのだな、ということなんですよね。
 最終回直前の「宇宙戦艦ヤマト」みたいにボロボロになって、なんとかイスカンダルに向かっている家庭が、なんと多いことか……
 でも、世の中というのは「そういうもの」で、多くの人が「そういう営み」を繰り返して、今があるのかな、などと、これを読みながら考えてしまいました。


 この日記を読んでいると、ゲッツさんのお母さんは、本当に「ちゃんとした人」で、弱音を吐かない、吐くことができない人だったのだな、ということが伝わってきます。

【2005年4月16日 土曜日】
 神田の三省堂西原理恵子さんのサイン会へ行く。お父さん、西原理恵子と書いた木彫りとチョコレートとクッキーを渡す。三省堂はとても大きい本屋であった。9階でサイン会。西原さん、ていねいにサインしてた。偉い人ほど、努力と人に対しての対応はもの凄いと感じた一日でした。
 
(以下はゲッツさんのコメント)
 この日、オフクロがケンちゃんとサイバラのサイン会に行ってくるって言うから「じゃあ、並ばなくてもいいようにオレが電話しといてやるよ」って言ったら、「いいよ、いいの! それじゃあ行く意味が無くなっちゃうから」って答えてたっけ。もちろん、後でサイバラから「何で言ってくれないの!?」って電話で怒られたけど、今、冷静に考えるとあの時、オフクロはサイバラに”ありがとう&さようなら”を言いに行ったんだよな……。


 抗がん剤の治療中で、体調が万全ではなかったはずなのに、「他の人と同じように並ぶ」ことにこだわったお母さん。
 こういうのを読むと、なんのかんの言っても、親というものに、見えないところで支えられてきたのだろうな、と考えずにはいられません。


 人の目に触れやすくて、自分に結びついてしまうSNSなどでは、どうしても「よそ行きの感情」が書かれやすい。
 あるいは、「他者の目を意識した上での、露悪的な言葉」が並ぶ。
 でも、ここに書かれているのは、「ふつうの人が、ふつうに生きていく上での揺れとかブレ」なんですよね。
 もちろん、癌の治療中というのは、精神的に不安定な状態になりやすいのだけど、それを差し引いても、こんなふうに、誰かの「素の内面」みたいなものに触れる機会は、そんなに無いのです。

 宏一の初小説『ワルボロ』発売。
 どう反響が来るのか少し、いや、とても恐ろしい感じがするが、本屋に出るということだけでもいいとしなければね。私は腹が据わっているつもり。ここまでくればそんな気持ちだから平気。しかし、宏一は他に書くことがないのかね。自分の親の恥さらしばかり書いて、お父さん、私は少しガッカリだからね。

 
 板谷家の他の家族のなかには「もっと自分の活躍を描いてくれ!」という人もいたそうなのですが、お母さんは、至極真っ当な反応だったのだな、と。
 ゲッツさんは「殆ど事実だからしょうがないやね。腹を括ってください(笑)。」とコメントされています。
 まあでも、こうして本になることによって、「家族の記録」を遺すことができた、とも言えるのかもしれません。


 人間って、家族って、一筋縄じゃいかないよな、と、笑いながらしんみりしてしまう、そんな一冊でした。


板谷バカ三代 (角川文庫)

板谷バカ三代 (角川文庫)

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