琥珀色の戯言

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【読書感想】カープ魂 優勝するために必要なこと ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
針の穴を通すコントロールで「精密機械」と呼ばれ、3度の日本一と5度のリーグ優勝に貢献した元エースが、20年以上も優勝から遠ざかる今のチームに活を入れる!球数制限で投手は完投しなくなり、練習でも投げ込まない。打つほうも甘い球は逃さないが、大きな変化や内外のコースに対応できるような好打者が減少。これはカープに限った話ではないが、野球スタイルは昔と今とで全く変わってしまった―。優勝するために必要なものとは何なのか。愛するチームに今こそ伝えたい熱きメッセージ。年代別・名投手トップ5&ベストナイン、学生とカープを語る座談会つき。

  今年は黒田復帰+前田健太残留、さらにセリーグのチームは全体的に低調というなかで、見事に期待を裏切りまくり、CSがかかった最終戦でほぼ消化試合だった中日に地元で敗れ、甲子園では痛恨の誤審で勝ちそこね、ファンを失望させたカープ
 「カープ関連本」も腐るほど出ているのですが、「景気のいいことばかり言っているけど、結果がこれじゃあね……」という感じです。
 まあでも、カープに対して、愛着とともに、常に厳しく見守ってもいる北別府さんの新書ということで読んでみました。
 オビに「選手は揃っている。あと何が足りない?」と書いてあるのを読んで、「監督だろ、あと、本気でこれで選手が揃っていると思っているの?」と毒づいてしまったんですけどね。


 北別府さんといえば、「精密機械」と評された絶品のコントロールで有名なのですが、達川さんの著書などをみていると、とにかく「こだわりの人」だったそうです。
 ブルペン捕手もいつも同じ人で、自分が満足できる捕球音を出してくれないと納得しなかったそうですし。
 でも、プロって、そういうものだし、それで結果を出せれば正しい。
 イチローが毎朝同じカレーをたべている、という話も、「あのイチロー」だからありがたく感じるだけで、隣のおっさんがやってたら、「身体に悪いんじゃない?」「よく飽きないね」としか思わないだろうし。


 これを読みながら考えていたのは、「古いやり方は間違っている」と言い切って良いのだろうか?ということでした。
 北別府さんは、走り込みによる下半身の強化と投球フォームをしっかり固めること、投げ込みをして「疲れた状態で自分がどうなるかを体験しておくこと」などを重視されています。

 開幕に向けた調整として必ずやっていたのが、キャンプの最終週に300級を投げ込むこと。これは一つの恒例行事にしていた。
 これをやりきると、「ああ、今年も大丈夫だ、いける!」と手応えを感じることができた。この300球の投げ込みは、200球ぐらいまでは本来のフォームでいける。しかし、200球を超えてからの残りの100球は、もはや「力」では投げられない。
 その段階の疲労状況で「力」で投げると、ボールはどうしてもお辞儀する(軌道が垂れる)。普通、完璧なフォームというのは疲れていない時にできるものと思うかもしれないが、実は違う。疲れてからが勝負だ。
 力で投げられない時にいいボールを投げるにはどうすればいいか。それは、できるだけ力を抜いて無駄な動作を省き、そしてボールの回転を良くすること。それを達成できるのが、すなわち理想的なフォームである。
 これを体験したくて毎年、この投げ込みをやっていた。大野さんも同じことをやっていて、それを佐々岡真司が引き継ぎ、最近では高橋建もやっていた。
 やはり、理想のフォームで投げたいというのはピッチャー誰しもが思うこと。だが当然、理想はすぐに手に入るものではない。練習し、投げ込むから体に染みついていく。

 「投げ込み」に関しては、「投手の肩は消耗品である」とも言われますし、カープの選手のなかでも「投げ込みすぎて肩を壊した」とされる選手(大竹投手・現巨人など)もいます。
 最近では、「過度の投げ込みはよくない」と考えている選手やファンが多いのではないでしょうか。
 それに対して、北別府さんは、「ある程度自分が疲れている状態を知っておかないと、試合で対応できない」と考えているのです。
 まあ、プロ野球生活で、ほとんど故障知らず、筋肉もすごく柔らかかったそうなので(逆に、大野投手は筋肉が硬かったそうです)、万人向けではないのかもしれませんが。


 昭和の野球ファンにとっては、懐かしい話が満載です。
 北別府さんは「昔の選手のほうがすごかったのではないか?」と仰っています。
 間違いなく最近の投手は球種が多くなったし、それに対応する打者の技術も向上したのでは?と思うのですが、こればかりは、実験しようもない。
 今、全盛期の王貞治がいたら、果たして活躍できるだろうか?


 北別府さんは、落合博満さんとの駆け引きについて、こう語っておられます。

 私が対戦したバッターの中で最高の職人で、読みが抜群だった。
 一番の印象は、私が追い込んで勝負すると、ほとんど負けたこと。落合さんの頭の中には私のデータが全て入っている。ストレートで追い込んできたら、決め球はこのボールが来る。このカウントならスライダー系、この時はシュートが多い、といった具合に。
 私にとって決めたいカウントであるワンボール・ツーストライクとかツーツーで勝負すると、だいたい打たれてしまった。
 私が勝つシチュエーションというのは、逆にカウントが不利な時だった。「まあ、歩かせてもいいかな」といった気持ちで、厳しいインコースのボール球で攻める。結果、スリーボールくらいになる。
 すると、落合さんの中で、「勝負するのかな、歩かせるのかな」という迷いが生じる。そのため、むしろカウントが不利な状況のほうが落合さんを倒すことができた。
 その勘所が分かり始めた頃、私は逆にボールを先行さっせて、それから勝負することが多くなった。こんな対戦の仕方は落合さんだけだった。スリーボールから本気で勝負するバッターなんて後にも先にも彼しかいない。
 しかし、やはりこれにも落合さんは対応してくる。ある対戦でスリーボール・ツーストライクにしたら、カットされて何球も粘られた。こちらは投げるボールがだんだんなくなってくる。勝負を超えて、さすが落合さんだなと感心してしまったほどだ。
 同じような状況になった対戦で、最後に苦し紛れのスライダーを投げた。しかも、ど真ん中に。
 投げた瞬間、「あっ!」と声が出るような甘い球だった。打たれると身構えたが、なんと落合さんは空振りした。私は驚いた。

 なんだかもう、妖怪「さとり」みたいな話だなあ、と思いながら読んだのですが、いかにも落合さんらしいエピソードでもあり、「わざとボール先行させる」というのは、コントロールに自信がある北別府さんだからこそできたのだろうな、とも感じます。
 こういうことを知っていて、二人の対戦を観ていたら、もっともっと野球が面白かったんだろうなあ。


 あと、北別府さんは、津田恒美投手との思い出も語っておられます。

 その津田とのよく語られるエピソードがある。
 優勝が決まる試合で、最終回で先発の私から津田に交代した時の話だ。今でも多くのファンは、私が監督に「津田に代えてください」と言ったと思っているが、本当は違う。
 シーズン終盤で少しずつ優勝が見えてきた頃、新聞記者から、
「もし胴上げ投手になったらどうしますか」
 といった質問を受けたのだ、
「多分、津田に代わると思いますよ」
 と答えていた。
 この記事を読んでいた監督から、八回が終わったところで、
「おお、ご苦労さん」
 と言われたというのが真実だ。
 実は私も、胴上げ投手に興味がないわけではなかった。何回か優勝しているが、胴上げ投手にはなったことがなかった。
 監督のこの言葉を聞いて、「やっぱり代えるんだ」と思ったが、すぐに「津田ならまあええわ」と開き直った(笑)。
 だが、あの場面、津田にマウンドを譲って本当に良かったと思う。津田は本当に努力していたし、それまでの苦労を陰ながらずっと見ていた。


 「胴上げ投手に興味がないわけではなかった」という、大変まわりくどい表現が、北別府さんの気持ちをよくあらわしているのではないかと。
 「胴上げ投手になりたかった」のですよね、そりゃそうだ。北別府さんほど栄光に満ちた選手でも、胴上げ投手になる機会なんて、そうそうあるもんじゃない。
 「墓場まで持っていけばよかったエピソード」なのに、ここに書いてしまうところが、未練でもあり、北別府さんの面白さでもあるのです。
 ただ、その後の津田投手の運命を考えると、結果的に、あのとき胴上げ投手にしてあげられてよかった、という思いは、北別府さんも、カープファンも同じなんですよね。


 往年のカープファンにとっては、懐かしい話の数々。
 話し上手で露出も多い達川さんと、その親友の大野さん側からみたエピソードは比較的多く紹介されているのですが、不世出の大投手でありながら、あまり「しゃべる人」のイメージがなかった北別府さんの言葉を読むことができて楽しい時間でした。


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