琥珀色の戯言

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【読書感想】馬券裁判 ─競馬で1億5000万円儲けた予想法の真実─ ☆☆☆


内容紹介
(本書「はじめに」より抜粋)

私は、2007年から2009年の3年間で馬券で得た所得を申告せず、単純無申告の罪で刑事裁判にかけられました。3年間で私が馬券で得た利益は約1億4千万円でしたが、それに対する課税額は約5億7千万円という異常な金額でした。課税額が実際に得た利益の4倍にもなっているのは、馬券の払戻金の合計額のうち、的中した買い目の購入額しか控除されない計算だったからです。


刑事裁判において、私は、競馬で得た所得を申告しなかった点については認めていましたが、課税額については、外れた買い目の購入額も控除されるべきだと主張しました。そして、地裁、高裁、最高裁のすべてにおいて、私の主張の通り、外れ馬券が経費として認められるとの判決が出されました。その結果、課税額は大幅に減額されることになりました。


しかしながら、私が馬券で得た利益のうちの約半分はリーマンショックの際に投資信託での損失として消えてしまっており、また裁判費用も必要だったため、本税に相当する金額分はすでに納付済みですが、無申告加算税と延滞税に相当する金額分については、すぐには納付できない状況です。そこで、少しでも納税資金に充てたいという思いから、本書を執筆しようと考えました。


第1章では、私の競馬歴について。
第2章では、裁判に興味がある方向けに、国税局の査察を受けてから最高裁に至るまでの経緯について。
第3章では、私の馬券の購入方法に興味がある方向けに、私がどのようなツールを用いて日々どのように馬券を購入していたかについて。
第4章では、馬券でプラス収支を目指している方向けに、過去データをどのように分析すればプラス収支が達成できるのかについて。
第5章では、馬券で億万長者を目指している方向けに、競馬資金を短期間に大きく、しかもできるだけ安定して増加させていくためのコツについて書きたいと思います。


本書は、さまざまな読者の方を想定して、できるだけたくさんの読者の方に満足していただけるような内容にすることを目標にして執筆しました。


 この事件のことを知ったとき、僕は2つのことに驚愕しました。
 ひとつめは、「競馬の儲けに、こんなに巨額の課税が行われることがありうるのか」ということ。
 そして、ふたつめは、「競馬で3年間に1億5000万円も儲けるのが可能なのか」ということ。


 馬主になれば、ごく低い確率ながら、ジャスタウェイのオーナ―・大和屋暁さんのように、所有馬が大活躍して億単位の収入、ということもありえるのかもしれませんが、馬券で勝ち続けるというのは、本当に難しいことなんですよね。
 そもそも、JRA日本中央競馬会)は、馬券に投じられた金額の25%〜30%もの「テラ銭」を抜いたあと、的中した人に配当を与えるので、馬券というのは、買った時点ですでに負けているようなものです。
 堀江貴文さんや林修先生のような、名だたる天才たちが競馬にハマり、それで食べていくことを目指していたけれど、みんな挫折しています。
 競馬予想家にも、東大卒の人だっている。
 確実にプラスになるような「プロ馬券師」がいれば、予想を公開して儲けるのではなく、自分で馬券を買い続けるはずです。
 まあ、そういう人が実在したとしても、表に出てくることは、まず無いだろうけれど。


 あの「馬券裁判」の話を聞いて、僕は「この人、すごいな!」と素直に感動したのです。
 何をどうやったら、馬券でそんなに勝てるのか。
 僕などは、勝ったり負けたりしながらも、トータルでは、ほぼ確率通りのマイナスだから。


 この本は、その「卍」さんが、最高裁まで闘った「馬券裁判」の経過と、自らの「馬券で儲けてきた方法」を語るということで、けっこう楽しみにしていたんですよね。
 これを読めば、僕も馬券で生活できるようになるのではないか、などと夢想しつつ。


 読んでみると、裁判に関しては、検察側との詳細なやりとりや裁判の経過については、あまり詳しく触れられていませんでした。
 読者にはわかりづらいだろう、という配慮なのか、裁判の詳細は「書けない」ということなのか。
 それにしても、裁判の結果、だいぶ減額されたものの、儲けた金額以上に税金で持っていかれるというのは、馬券を買う側からすれば「じゃあ、何をどうやっても勝てないのかよ!」とか言いたくもなりますね。
 いやまあ、卍さんの実際の馬券の買い方をみていると、これは「予想して馬券を買う」というよりは、「ビッグデータに基づいた投資」みたいなもので、こういう買い方をする人ばかりになると、ゴール前でハズレ馬券紙吹雪をつくる競馬オヤジたちが絶滅してしまうことを危惧した行政側が「見せしめ」にしたのかな、とも思えてきます。

 その次は、『西田式スピード指数』や『ミラクルボックス』というスピード指数系の本に興味を持ちました。
 月曜日発売の『週刊競馬ブック』に、すべてのレースの馬の過去5走のスピード指数を電卓で計算して書き込み、その過去5走のスピード指数をグラフ化し、購入するレースでどの程度の能力を発揮しそうかを考えながら勝ち馬を予想しました。


 しかしながら、どの馬も「スピード指数」は毎回変動し、「スピード指数」の思考では絶対に来ないと思われる馬が馬券に絡むことが何度もありました。
 そのような現実を目の当たりにして、この頃から、「競馬は強い馬が必ず勝つとは限らない」という事実をようやく実感するようになりました。その結果、今までの「強い馬を買う」という予想スタンスから、「過小評価されている馬を買う」という予想スタンスへ変化していきました。


 「勝つ馬を予想する」から、「勝つ可能性に比べて、高配当が期待できる馬を買い続ける」というスタンスへ。
 3回に1回は勝つ、単勝2倍の馬ではなく、50回に1回は勝つ可能性がある、単勝100倍の馬を買う。
 1レース単位では外れることが多くなるけれど、試行を積み重ねていけば、トータルではプラスになるはず。
 ああ、なるほどなあ、と。
 もちろんその「過小評価されている馬を見つける」のが難しいし、人間の手では、その予想を各レースでやって馬券を買うには時間がなさすぎる。
 それを、卍さんはパソコンを使った「自動購入システム」で、すばやく購入し、試行を積み重ねられるようにしたのです。
 それでも、スランプの時期には、かなり資金が減ってしまうこともあったそうなのですが。

 なぜ馬券を買うのか。人によってその答えはさまざまだと思います。
 例えば、「自分の予想がズバリ的中するのが快感だから」、「小遣いを少しでも増やしたい」、「万馬券を的中させたい」、「好きな馬を応援したいから応援馬券として」など、いろいろな人がそれぞれの思いで馬券を購入しています。
 私の考えでは、回収率が100%を超えることを目指す場合には、的中させることや万馬券をとること、好きな馬のことなどは一切忘れるべきです。
 的中させるのが目的であれば、馬券を全通り買えば必ず的中しますが、回収率は絶対に100%を超えません。

 回収率を高めるために必要なのは、的中しそうな買い目を探すことではなく、適正オッズよりも高いオッズがついている買い目を探すこと。つまり、過小評価されている買い目を探し出すことです。
 そして、もしそのような買い目を探し出すことができるようになった場合には、その買い目が的中するように祈りながら馬券を買うのではなく、外れて当然という気持ちで馬券を買うことが必要です。
 なぜなら、的中しそうな馬券を買っているわけではないからです。的中することを期待するのは矛盾しています。

 この買い方、僕にはちょっとできそうにありません。
 というか、競馬というものに対して、ドラマとかロマンを求める人は、こういう「データ重視で、馬の顔は見ない」というのは「楽しくない」はずです。
 ただ、「投資」として考えるのであれば、まちがいなく、卍さんのほうが正しい。
 馬券的には、むしろ、「背景にあるドラマや血統でみんなが期待していたり、人気が集中している馬は評価を下げる」ほうが合理的なんですよね。確率が収束するくらいまで試行を繰り返すこと前提であれば。


 行政側としては、「愚かなギャンブラーどもが一発勝負で稼いだお金にまで、いちいち追徴課税する」というわけでもなさそうです。そもそも、高額払い戻しに並ぶ機会でもなければ、自動発売機、払い戻し機を利用すれば、誰が買ったかなんて、わからないし。
 卍さんが、あまりにもシステム化して「投資」をしていたので、目をつけたのかもしれません。

 この本のなかでは、さまざまなデータが紹介されているのですが、このくらいマニアックにデータと向き合わなければ、「常勝」は難しいのだな、と愕然とします。
 

 下のグラフは、単勝人気別回収率です。
 グラフをざっと眺めると、1番人気から8番人気あたりまでほぼ横ばいで、それよりも人気薄になると右肩下がりで回収率が低くなっています。
 つまり、回収率の向上を目指す場合には、あまりにも人気薄は狙わないほうが無難だということが分かります。


 闇雲に「高配当を狙って、試行を繰り返す」のではなく、データに基づいて、「いちばん回収率が高くなりそうな買い方」をしていくのです。
 人気薄の馬が来ると、「単勝万馬券か……こういう馬を100回買い続けたら、100回に1回は来そうだから、儲かるんじゃないかな」なんて考えてしまうのですが、あまりにも人気薄な馬は、やはり、それなりの成績だということなんですね。
 いくら「ハズレ前提」だとしても、全く勝たなければ回収しようもないわけで。


 それにしても、これはもう、競馬好きというよりは、統計学・確率論の世界です。
 競馬よりも、「データを整理するのが好きでしょうがない」という人じゃないと、ここまでのことは、できないと思います。
 そんな卍さんの競馬の稼ぎを吹き飛ばしたのが「投資信託」とかいう話を聞くと、お金の世界っていうのは、どれだけ魑魅魍魎が跋扈しているのか……と考えずにはいられません。


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