琥珀色の戯言

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【読書感想】金魚はすごい ☆☆☆☆

金魚はすごい (講談社+α新書)

金魚はすごい (講談社+α新書)


Kindle版もあります。

金魚はすごい (講談社+α新書)

金魚はすごい (講談社+α新書)

内容紹介
人間よりも温度差に強く、超平和主義、長生きで、病気予防にも役立つ、これ全部、金魚の話!


お祭りの縁日などでおなじみのキュートな魚、金魚。一度は飼ったことがあるという人も多いはず。最近、50~60代はもとより多くの世代で金魚人気が高まっています。夏の風物詩と思われていますが、最近は「アートアクアリウム」などの人気で、季節を問わず楽しむ人が増えています。


たかが金魚、されど金魚。その知られざるディープな世界を江戸時代創業の金魚屋の当主で「金魚界の生き字引」ともいえる「金魚の吉田」の吉田社長が、「へぇ」と思う面白くて人に話したくなるような雑学的要素のある「金魚にまつわるあれこれ」を詳細に紹介します。


ちょっとマニアックだけど、そのマニアックさが興味をかえって湧きおこす「金魚のことが面白深く分かる本」です。


 癒されますよね、金魚。僕も大好きです。
 ただ、最近の僕にとっては、金魚は鬼門というか、「好きなんだけど、心をざわめかせる存在」でもあるのです。
 小学生の長男は、お祭りなどに出かけると、金魚すくいをやりたがります。
 まだ下手なので、自分ではすくえずに、おじさんに、「じゃ、これ持ってっていいよ」と、「おまけ」の金魚を何匹かもらって、帰ってくることになるのです。
(というか、僕も金魚すくいで自分ですくえた記憶がほとんどないし、すくえるような金魚はかなり弱っているのではないか、とも思うのですが)
 「ちゃんとお世話をするんだよ」と言い聞かせ、水槽に放す。
 ああ、金魚、かわいいねえ、とか言いつつ、水槽を眺めているのだけれど、翌朝、起きてみると、一匹死んで、逆さまになって浮かんでいる。
 何かの病気が蔓延しているのではないかと、水を替えてみるのだけれど、翌朝になると、さらにもう一匹死んでいる。
 この「連続死状態」になると、水槽がものすごく気になるのと同時に、「また死んでいるのではないか」と、見るのが怖くなっていくのです。
 次々と死んでいく金魚の最後の一匹が死んでしまうと、悲しいのと同時に、「ああ、これでもう、『いつ死んでしまうのだろう……』と心配しなくてもよくなるのだな」なんて、少しホッとしてしまっている自分に気がつきます。
 うまく飼えば、大きくなるし、長生きするみたいなんですけどね、金魚。
 我が家は、「水が合わない」のだろうか……


 この新書は、江戸時代から続いているという老舗金魚屋『金魚の吉田』の社長さんが、金魚の歴史や種類、飼い方などをまとめたものです。
 さまざまな種類の金魚の写真をみているだけでも、けっこう癒されます。
 

 日本人にとって金魚は、愛らしいペットというだけでなく、どこか郷愁を覚える、不思議な魅力をもった存在のような気がします。
 そんな金魚は、意外にも日本原産ではなく、もともと中国で誕生しました。3~5世紀頃、中国南部の揚子江流域に生息していたフナの仲間(ジイ)が突然変異して、ウロコが赤い「緋ブナ」が生まれ、これがのちに金魚の原種であるフナ尾の金魚ができたといわれています。これがのちに1810年頃から「和金」という名称で呼ばれるようになります。
 和金というと、まるで日本の金魚のような名称ですが、生粋の中国生まれの金魚です。
 中国では、和金をもとに、長い年月をかけて突然変異の繁殖をくりかえし、また別の品種をかけ合わせたりしながら、フナとはまったく異なる色や模様、体型の金魚をいくつも作っていきました。その過程で日本に金魚が伝えられ、今度は日本独自の技術で、さらに別の新しい金魚を作成し、たくさんの種類の金魚が生まれました。


 金魚は室町時代(1502年、といわれているそうです)に日本に伝わり、最初は高価なものでしたが、養殖の広まりによって、江戸時代中期頃には、江戸の庶民も金魚を飼うことができるようになりました。
 そして、金魚というのは、ずっと品種改良が続けられてきている魚でもあるのです。

 すでに述べたように、日本で公認されている金魚の品種の数は31種類で、残りの100~200種類は主に中国の品種です。日本がずいぶん少ない印象がありますが、これには理由があります。日本と中国では、金魚の品種の認定の仕方が異なるのです。
 日本では、突然変異でできた金魚でも、人工的に交配させてできた金魚でも、一代限りのものは品種として認められません。何代にもわたってかけあわせて、その種同士の金魚をかけあわせると、同じ色や形の金魚が生まれますよ、ということで固定されれば、そこで初めて新しい品種として認可されるのです。
 たとえば、桜錦という種類は、弥富の深見光春氏が江戸錦とランチュウを交配させて、14年かけてやっと固定された品種です。昭和56年(1981年)に21番目の品種として認定されました。
 なぜ14年もかかったかというと、体表に江戸錦由来の墨(黒色)が出なくなるまで、とことん交配し続けたのおです。
 墨が出るたびに、墨の薄い江戸錦とランチュウを交配させて、墨を抜いていくのですが、何代目かでまた墨が出てしまう。結局、江戸錦とランチュウの交配などで7世代を経て、色がほぼ安定し、体型も良好となりました。そして8代目の昭和56年、形、肉瘤(頭頂部などの隆起)、色の3要素が確定し、ようやく美しい桜色をした桜錦ができあがったのです。
 これに対して中国では、一代限りのものでも品種として認めています。


 日本の金魚屋、金魚愛好家の品種改良や、より美しい金魚をつくろうという執念は、本当にすごい。
 相手は生き物ですから、急に死んでしまったり、思ったような色や体型にならないことも多いはず。
 にもかかわらず、彼らの品種改良への情熱は、衰えることはないのです。
 著者によると、こうして苦労してつくられた新種も、人が手をかけずに自由に繁殖させると、あっという間にフナに近い形に「先祖返り」してしまうそうです。

 ちなみに、日本と中国では、人気の柄模様も異なります。中国では赤と黒のトラトラが好まれますが、日本では更紗といって赤と白の柄が好まれます。それぞれ、国旗に近い色が好きというのが、またオモシロイところです。

 金魚といえば、なんとなく日本のイメージが強いのですが、最近は世界の市場に出回っている金魚の大半は中国産となっていて、日本からの輸出は激減、日本で出回っている金魚も、約4分の1は中国産なのだとか。
 金魚の世界でも、日本はやや斜陽なのは、ちょっと寂しい。

 家庭で金魚を飼っているお父さん、お母さんにアンケート調査を行った結果をみても、およそ8割の親御さんが「子どもによい効果があった」と回答しています。具体的には、命の大切さを知ってくれた(1位)、責任感や習慣を身につけてくれた(2位)、世話をすること、育てることを学んでくれた(3位)ということでした。


 そんなに簡単に死なないでほしい、とは思うけれど、その命が失われることによって、伝わることもある。
 とはいえ、僕自身は、毎朝、「今日は死んでいませんように」と、怖々水槽を見るのはつらい。
 『アートアクアリウム』という、金魚とアートを融合したイベントが大人気なのですが、僕は「人が多すぎる」ことに辟易し、「毎日何匹ここで金魚が死んでいるんだろう……」とか、つい考えてしまっていたんですよね。

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