琥珀色の戯言

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【読書感想】「スーパー新幹線」が日本を救う ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
新幹線の整備が日本の命運を分ける!


東京や太平洋側への一極集中を解消し、ふるさとの人口減少に歯止めをかけて、もう一度、活性化させる。マイナス金利の今だからできる究極の公共事業。それが新幹線だ!


目次
第1章  新幹線のディープインパクト――金沢、函館からの報告
第2章  新幹線は「日本復活」の最優良プロジェクト
第3章  日本復活の「切り札」――リニア新幹線
第4章  「関西復活」の即効薬――北陸新幹線関空へつなぐ
第5章  四国を救う特効薬――四国新幹線
第6章  「九州は一つ」を実現せよ――九州新幹線
第7章  日本海側に活力を取り戻す――日本海新幹線構想を実現せよ!
第8章  「第二期・整備計画」の策定を急げ!


 著者は本当に新幹線が好きなんだなあ、と感心しながら読みました。
 僕自身は、九州新幹線が開通してからも、新幹線は年に数回利用する程度なので、「とはいえ、みんなそんなに新幹線に乗らないんじゃない?」という気もするんですよね。
 九州新幹線が開通してから、博多と鹿児島はものすごく近くなって、日帰りが十分可能になったというのは実感しますし(それは、熊本や鹿児島への観光客の増加というメリットとともに、多くの人が地元ではなく博多に買い物に出かけてしまう、という地方都市の空洞化というデメリットを生んでいます)、北陸新幹線が金沢まで伸びたことによって、金沢があらためてクローズアップされていることにも驚いています。

 平成27年の3月、北陸新幹線が金沢まで開通した。
 それまで「4時間弱」もかかっていた東京と金沢の間が、「2時間半」で行けるようになった。
 東京方面から金沢に大量の人々が訪れるようになり、北陸新幹線の利用者は半年で「482万人」へと一気に増えた。これは、新幹線ができる前は特急に乗っていた利用者の実に「3倍」の水準。
 これらは事前の関係者の予想を大きく上回る変化だた。例えば北陸新幹線を運営しているJR西日本の眞鍋精志社長は、「当初は2.2倍とみていただけに想定以上だ」と率直に述べている。石川県も、北陸新幹線が開通した場合、石川県と首都圏との流動は「5割」程度しか伸びないだろう、と推計していたのだが、そんな予測は超絶に控えめなものに過ぎなかったわけだ。
 中でもとりわけ目覚ましい伸びを示しているのが、観光客だ。
 実際、9月のシルバーウィークの鉄道利用者は、先に述べた「3倍」を上回る前年の「4倍」以上にもなった。そして、楽天トラベルが選定する「2015年春、人気急上昇旅行先ランキング」で、石川県は堂々の1位となった。
 こうして大量の人々が訪れるようになったのだから、当然、さまざまな経済効果が、金沢にもたらされた。


 いまさら、新幹線なんて言ってもねえ……と言いつつも、開通してみれば、乗ってみたくなるのが人情というものなのでしょう。
 少なくとも短期的な経済効果は、予想以上のものがあったようです。
「ガラガラ」なんて揶揄されることもあった北陸新幹線なのですが、それでも十分な成果をあげており、これまでよりも圧倒的に多くの旅客を東京から金沢まで運んでいます。


 新幹線っていっても、飛行機のほうが所要時間が短いし、そんなに変わるものだろうか……と思っていたのですが、著者はこの本のなかで、「乗り換えという行為の心理的な障壁」について紹介しています。

 そもそも「心理距離」は「乗り換え回数」に甚大な影響を受ける。
 一般に人々は同じ時間で行けるのなら、飛行機よりも新幹線を圧倒的に好む傾向がある。飛行機だと乗り換えが何度も必要で、これが面倒なのである。空港でバスや電車から飛行機に「乗り換え」、飛行機が着いた後も飛行機からバスや電車に「乗り換え」なければならない。
 東京から広島に行く場合を考えてみよう。その場合、飛行機の方が新幹線よりも格段に早い。飛行機で行けば約3時間だが、新幹線でいけば4時間以上かかってしまう。しかし、東京―広島間の飛行機と新幹線のシェアはほぼ同じ、というよりもむしろここ数年では新幹線の利用者が伸び、そのシェアが6割近くまで達している。つまり新幹線の方が1時間以上も余分にかかるにもかかわらず、人々は新幹線の方をより好んでいるわけだ。このことは、人々がどれだけ「乗り換え」を忌避しているかの証左だ。「心理距離」の視点で言うなら、空港で乗り換えることの抵抗感は、時間にして少なくとも「1時間」以上に相当する、ということを示している。
 実際、新幹線を作ったときの需要予測では、「心理距離の点から言えば、1回の乗り換えは、おおよそ30分の時間増加に相当する」という前提で数値計算がなされている(その意味において、飛行機に乗るには、乗る前と降りた後の少なくとも2回の乗り換えが必要であることから、1時間以上の心理距離に相当することとなっているわけである)。
 いずれにせよ、北陸まで新幹線で乗り換えなしに行けるようになったことで、北陸と東京との間の「心理距離」は、移動時間が1時間半短縮されたというインパクト以上に短縮されたのである。


 ああ、これはよくわかるなあ。
 飛行機の場合は、そう簡単に乗る便を変えるわけにはいかないし、早めに搭乗口に着いていなければならないし、手荷物検査もちょっとめんどくさい。
 新幹線なら、駅まで行って切符を買って、そのままホームで列車に乗り込めばいいわけで、飛行機よりも「乗りやすい」んですよね。僕が飛行機をちょっと苦手としている、というのもあるのかもしれませんが。


 著者は、新幹線がこれまでもたらしてきた大きな経済効果を示し、いまこそ「地方創生」のために、地方にも新幹線を積極的に整備していくべきだ、と仰っています。いまなら金利も低いし、これ以上時間が経てば、どんどん地方は荒廃していくだろうから、と。
 著者が整備を奨めている路線のなかには、博多と大分を結ぶ「大分新幹線」というのもあって、九州に住む僕の感覚からすれば、「採算的には、いまの博多から熊本、鹿児島への新幹線でギリギリくらいで、人口や利用者数を考えれば、大分はちょっと厳しいのでは……」と思うんですよ。
 ところが、著者たちの試算では、経済効果も含めると、やっていける路線になるようです。
 博多と大分との間にこんなに特急が行き来している、ということも、この本を読んではじめて知りました。
 なんのかんの言っても、地方都市と、その地方の中核都市を結ぶニーズというのは、けっこうあるんですね。


 また、リニア新幹線によって、東京から名古屋、大阪の三大都市圏が短時間で行き来できるようになり、一つの大きな巨大都市圏が誕生するとも書かれています。
 リニア新幹線では、東京と大阪の間の500キロを1時間で結ぶとされています。
 現在2時間20分だったのが、一気に半分以下になるのです。
 大阪と名古屋の間は20分、東京と名古屋の間は40分。
 料金の問題はあるせよ、この東京と大阪の所要時間以上をかけて、毎日都心に通勤している人が、たくさんいるはずです。
 これによって、どこにでもすぐ行ける東京への一極集中化がさらに進むのか、「だったら、大阪に住んで、必要なときに東京に行こう」という人が増えることになるのか。
 いずれにしても、この巨大都市圏への一極集中は、さらに強くなってきそうです。
 料金を考えると、普通に暮らしている人が、そんなにしょっちゅうリニア新幹線を利用するのか、とも思うんですけどね。
 このくらいの時間なら、ちょっと気になる美術展やコンサート、スポーツの試合などで行き来するのにも、かなりラクにはなるはずです。

 本書の議論では、北海道から九州に至るまで、それぞれの地域で求められる具体的な新幹線路線を論じ、その実現のために求められている具体的な戦略を、財源論や技術論も踏まえて多面的に論じた。
 その最大のネックとなるのはもちろん、数千億円から数兆円規模の「予算」であるが、本書では全国各地に、投資金額が直接的な運賃や税収増等で十分に「回収」できる優良な路線が多数存在していることを明らかにした。しかも、政府が徹底的な金融政策を展開している平成28年現在、長期的な資金調達コスト(つまり長期金利)は、日本の近代が始まって以来、最も低い水準となっている。このタイミングを逃せば、(金利払いも含めた)新幹線の投資コストは増大する一方となることは間違いない。だからこそ、「予算論」の意味において言えば、今こそが新幹線を抜本的に整備していく、最大のチャンスなのである。
 しかも、ここまで拡大し続けてきた都市部と地方部との「格差」は、本書で述べた各地の新幹線の整備を贈らせれば遅らせるほど、増大していくことは間違いない。だからこそ、地方部の新幹線は、「今」作るのと、10年後、20年後に作るのとでは、全く意味が違ってくるのである。手遅れにならない内に「今」、あるいはそれが難しいなら一日でも早く地方に新幹線を作っていくことは、「地方創生論」において極めて重大な意味を持っているのである。


 この新書で、新幹線に関する景気の良い話をたくさん読むと、「片っ端から作ればいいのに」と思ってしまうのですが、今後の日本が直面する最大の課題は「人口減にどう対応していくか」なんですよね。
 東海道新幹線は、日本の経済と社会に大きなインパクトをもたらし、現在でもJRのドル箱なのですが、それは「日本の人口がどんどん増えていく時代」のおかげでもありました。
 人が増えていけば、経済の規模も大きくなりますし、地方都市も発展していきます。
 これから、「縮小していく日本」のことを考えると、地方都市に多額のお金をかけて新幹線を通し、東京をはじめとする都会への利便性を上げるとしても、コストに見合った効果が期待できるのか?」と僕は疑問に感じるのです。
 むしろ、便利なところに住みたい人は、すでに便利になっているところに移動していくのではなかろうか。
 いま、この時代に経済発展や人口増加を前提とした拡大政策というのは、次世代に赤字路線と借金ばかりを残すことになるのではないかなあ。
 少なくとも、いまは東京オリンピックもあって建設資材も人件費も高いのに、新幹線をどんどん作るメリットがあるのだろうか?
 そもそも、インターネット社会になって、人の移動というものに対する概念がどんどん変化してきています。
 会議や出張で移動しなければならない機会は、どんどん減っていくかもしれません。


 新幹線移動は乗り心地はいいし、適度に旅を楽しめるし、大好きなんですけどね。
 個人的には、北海道新幹線を札幌まで伸ばすのと、長崎新幹線までで打ち止めというのが現実的なラインではないか、と思うのですが。
 これだけ新幹線の速度も上がっているのに、リニアが必要なのだろうか……東京と大阪を頻繁に移動する人にとっては、やっぱり「早く完成してほしい」のかなあ。

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