トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016
- 作者: 町山智浩
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/05/25
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016 USA語録 (文春e-book)
- 作者: 町山智浩
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/06/03
- メディア: Kindle版
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内容紹介
世界のバカはアメリカをめざす!過激で“使えない”新語・失言がてんこ盛り!
サブカルから政治まで、マッドなアメリカがほとばしる、
週刊文春の人気連載「言霊USA」単行本化、いよいよ第四弾に突入!アメリカ在住映画評論家の町山智浩さんが、いまアメリカで起きているおバカな出来事、日本では考えられないハチャメチャなニュースを、現地で流行ったスラング、失言、名言をもとに面白おかしく、かつ歴史的な背景も絡めながら解説します。
シリーズ本第四弾にして、町山さんの鋭い毒舌、切れ味抜群のギャグが、よりいっそう過激に炸裂しています!澤井健氏の爆笑イラストもあわせて、ぜひお見逃しなく!
町山智浩さんが『週刊文春』に連載しているコラム『言霊USA』の単行本第4集。
今回も、アメリカの「極めてバカバカしいけれど驚くべき、本当の話」満載です。
これを読んでいると、日本のメディアを通じてのイメージしかなかったハリウッド・スターたちの「アメリカでの評判」に驚かされます。
グウィネス・パルトロウさん、アメリカでは「嫌われセレブ」だったのか……『アイアンマン』の秘書、ペッパー・ポッツさん大好きなのに……
でも、ここで紹介されている内容を読むと、嫌われるのも致し方ないかな、と。
夫クリス・マーティンとの別れを発表した時も「アンカップルしました」と書いて、「普通に離婚って言えばいのに、いつも勝ち組でいたいパルトロウは離婚という言葉が悔しくて使えなかったのよ」などとさんざんな言われよう。
テレビで「私は信じられないほど、普通の人に近いんです」と言ったのも普通の人々を怒らせた。「信じられないほど」って自分で言う? 「普通の人に近い」って普通の人じゃないって意味だろ!
まあ、「離婚しました」って言いたくない気持ちは、わからなくもないんですけどね。このくらいアクが強くないと、ハリウッドでやっていけないのかもしれないしさ。
ラッパーのカニエ・ウエストさんネタは、もう「鉄板!」って感じです。
もともと、自己評価の高さは尋常じゃない。
「俺の人生で一番辛いことは、カニエ・ウエストの生演奏が観れないことさ」との名言に始まり、「ライバルは誰かと考えると、思い浮かぶのは過去の人ばかりだね。ミケランジェロとかピカソ、あと、ピラミッドだな」ピラミッド(笑)。「俺はウォルト・ディズニーだ。ハワード・ヒューズだ。スティーブ・ジョブズだ。俺と並べて彼らも光栄だろう」ってのもすごい。「俺はアンディ・ウォーホルだ。同世代で最も影響力のあるアーティストだから、俺はシェイクスピアだ。ナイキだ。グーグルだ」途中から人じゃないのが混じってるが。
確かに、超人気アーティストではあるんですけどね、カニエ・ウエストさん。
これって、誇大妄想が行き着くところまで行ってしまっているのでは……
ただ、ここまで突き抜けていると、「ネタとして面白い」のも事実で、これはこれで、みんなが喜んで「消費している」ところもありそうな気がします。
わざとやっているわけでは、なさそうだけど。
町山さんは、カーダシアン一家についての回で、「何一つ成し遂げたわけじゃない彼らは『有名であることで有名』としか言いようがなかった」と書いておられます。
こういう人たちが登場してきたことが「情報化社会」の象徴なのかもしれません。
なにはともあれ、「有名であることそのものに価値がある」というのは、一面の真実ではあります。
有名だから、その言動が注目され、そしてその言動が面白おかしく採りあげられることによって、さらに有名になるのです。
このコラム集、スターや政治家のスキャンダルやバカバカしい行動だけではなく、アメリカの社会問題に言及している回も多いんですよね。
コメディアンのエイミー・シューマーさんは、自らの番組のなかで、こんな「ネタ」をやったそうです。
「わたしはフェミニストよ」と言うエイミーは、最も笑えないネタに挑んだ。レイプである。
自宅でリアルな戦争ゲームをプレイしているエイミー、プレイヤーとして、女性兵士のキャラを選んだ。すると兵舎で上官にレイプされてしまう。
コマンドには「本当に上官を訴えますか?」と出る。「はい」を選ぶと大変なことになる。膨大な書類とややこしい法的手続き、軍隊内の嫌がらせ、セクハラまがいの取り調べ、男ばかりでレイプ犯をかばう軍事裁判に勝てるはずもなく、結局泣き寝入りするしかない。これはゲームじゃなくて、アメリカ軍で本当に起こっていることだ。
米軍内では2013年だけで5061件もの性的暴行事件の報告があり、そのうち、裁判に進んだのはわずか484件。有罪は376件だから、全体の7%にすぎない。逆に被害者の9割が除隊処分を受けている。
アメリカの、軍隊の闇は深い。
でも、これを「ネタ」として告発するコメディアンもいる。
『アメリカン・アパレル』という人気ブランド(だった)の社長のヘンタイっぷりに呆れ返る一方で、工作クラブのためにつくった時計を爆弾と間違われて警察官に逮捕された(その背景には、アメリカの「イスラム恐怖症」があるのだと町山さんは推察されています)14歳の高校生、アーメド・モハメドさんには、SNSで、こんな言葉がかけられました。
「カッコいい時計じゃないか、アーメド君」オバマ大統領はツイートした。「ホワイト・ハウスに持ってきてくれないか?」大統領からの招待状だ!「我々は、君のような子どもたちに科学を好きになってほしい。科学がアメリカを偉大にするんだ」
フェイスブック社、ツイッター社、MITからもアーメド君に「ウチに見学においで」との招待状が届いた。そして、アーメド君あこがれのNASAからは、ボバック・ファードーシが「いつか電話してくれ」とのツイート。ファードーンは無人探査機キュリオシティ号を火星に着陸させた管制官で、世界に中継された映像での、カラフルなモヒカン刈りが注目された。イラン移民二世であるファードーシはスーダン移民二世のアーメド君をこう励ました。「NASAはいつでも好奇心あふれる若者を求めているよ」
アメリカという国には、いたたまれなくなるような悪意があるけれど、それに負けないくらいの善意や希望も存在しているのです。