琥珀色の戯言

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【読書感想】Fランク化する大学 ☆☆☆☆

Fランク化する大学 (小学館新書 お 17-1)

Fランク化する大学 (小学館新書 お 17-1)


Kindle版もあります。

Fランク化する大学(小学館新書)

Fランク化する大学(小学館新書)

内容紹介
学生、教員、経営者、すべてが劣化!


教員は見た! 学生、講師、大学経営者、全てが劣化(=Fランク化)する大学の裏側!
「ヨーロッパ」を国の名前だと勘違いする学生、授業中に友人とハイタッチしまくる女子学生、うるさすぎる教室…。学生の質の低下が叫ばれて久しい。しかし、劣化しているのは学生だけではない。
プロジェクトX」のDVDを流すだけの授業をする講師、学生同士の名ばかりディスカッションでサボる教員。大学経営者は、低賃金で非常勤講師を雇い、浮いたカネで有名人を教授にしたり、有名アスリートを運動部監督に迎えたりする。
2016年3月まで3つの大学で教鞭を執っていた著者が、大学が抱える問題を浮きぼりに。 さらに、よい大学の見分け方も掲載。大学のパンフレットやウェブサイトの見方まで紹介する。


※「Fランク」…元々、大手予備校がつくった言葉で「ほぼ無試験で入学できるランク」を意味する(現在、この予備校では使われていない)。本書では、「Fランク化」を「劣化」の意味で使っている。


 「Fランク大学」って、ネットではよく見かける言葉なのですが、僕は最近まで、その意味を正しく理解していませんでした。
 Aランクから、B、Cとあって、Eの次がFランクなのだと思い込んでいたのです。
 実際は、ある大手の予備校が(偏差値が低いのは間違いないのですが)、「受験すれば誰でも合格する大学を、フリーの意味を込めて『Fランク』としていた」のです。
 あまりにも侮蔑的なニュアンスで使われることが増えてしまったため、この予備校も現在は「Fランク」というのは使っていないそうですが。


 著者は、大学から大学院、博士課程を経て、そのまま大学教員になるというコースを辿った人ではなく、商社マンとして15年以上働き、その後、独立を意識して博士号を取得するために大学院へ通い、大学の非常勤講師として5年間を過ごしておられます(現在は起業のため、大学教員は辞めてしまったそうです)。
 そんな著者からみた「Fランク大学」の実態が、この本には書かれています。
 いや、酷い酷いとは聞いていたけれど、こんなことになっているとは。

 残念ながら今まで紹介してきたように、日本の現在の首相の名前を知らなかったり、ヨーロッパを1つの国の名前だと思っていたりする大学生が、存在することは事実だ。このような類例には、枚挙にいとまがない。学生を茶化したいわけではないが、英語ではbe動詞と一般動詞の違いがいまだに理解できていない者は、かなりいる。「三単現のS」といってもピンとこない者も相当いる。関係代名詞が出てくると、途端に英文が読めなくなってしまう者は、私が教えた大学では多数派だった。
 日本語の文章を書かせれば、書き言葉と話し言葉の区別がまったくついていない者が、ほとんどである。おそらくメールやスマホの影響もあると思う。期末試験の論述では「ゆえに」「つまり」「したがって」という接続詞をまったく使わずに、すべての文章を「なので」「なので」「なので」とつないでいく。まるで小学生の作文を読んでいるようだ。
 一般常識では、バブル経済の崩壊という言葉が通じない。「1990年代初めにバブルが崩壊して日本の経済は傾きだした」と説明すると「日本史はよく分からない」という。また、ベンチャー企業の話をすると、「ベンチャー」という名称の企業があると思っている者もいる。このような笑い話にもならない話は、たくさんある。一部の大学生の学力は、世間一般の人々が思っている以上に危機的な状況にあるかもしれない。


 これを読むと、大学で、中学校レベルの「授業」をやらなければならないのも致し方ないようです。
 もっとも、著者は、そんな「Fランク大学」の問題点ばかりを挙げ、学生たちのレベルの低さを嘲笑しているわけではないのです。
 「どうせFランク大学なんだから」と、手抜き講義をしたり、学生をまともに指導しない教員たちに対しても、容赦はしていません。
 お金のために、とにかく学生を集めることばかり考えている大学の経営陣にも言及しています。
 

 すさまじい教員になると、図書館にあるDVDを学生に見せて、その感想を書かせて、それで講義が終わる。ときに教員による解説らしきものが入るが、基本的に映像を見てそれで終わりという内容である。最初、この話を学生から聞いたとき、私は冗談だと思った。ちょうどこの講義の時間帯は、私は自分の講義の合間の休憩時間だったので、教室までその模様を見に行った。あからさまに教室の中に入るわけにはいけないので、廊下から中の様子をうかがうと、有名なビジネス系ドキュメント番組のテーマソングが聞こえてきた。この番組自体をとやかくいうつもりはない。良い番組だったと思うが、ここは大学である。一般視聴者向けのテレビ番組を見せて、少し話をして、大学の講義と呼ぶなど、言語道断だといいたい。これが大学における経営学講義の、実態の1つである。


 そんな講義だったら、僕にだってできるのではなかろうか……
 でも、こういう手抜き講義に、「単位がとりやすいから」と多くの履修者がいることも少なくないのです。
 そして、大学教員、とくに非常勤講師は「生活のため」に多くの講義を抱え、まともに準備の時間をとれなくなっている、という現実もあります。

 前章で非常勤講師の薄給には触れた。ベテランの教員といえども、1つの講義で支給される月給は3万円程度である。週に10コマ(1コマの講義は90分)の講義をやって、ようやく30万円。年齢が40代、50代ともなれば配偶者や子供もいるだろう。生活費は相当な額となる。
 私の知っている範囲では、週に18コマもの講義を担当している非常勤講師がいた。給料は月に50万円強。前述の通り、非常勤講師にはボーナスがないので、週に18コマもの講義をこなしている教員の年収は、おそらく650万円程度であろう。これは高く聞こえるかもしれないが、正社員である専任教員のうちの准教授の年収よりも低い。


 しかも、ひとつの大学ではなくて、さまざまな大学で、たくさんのコマの講義をしていることが多いので、移動時間も含めると、平日はほとんど講義をして寝るだけ。
 準備は土日にやるとしても、講義のコマ数が多いほど、本来準備に使うべき時間は長くなるはずです。
 これでまともな講義なんてできるわけがない、少なくとも、「Fランク大学」に合わせて、わかりやすく内容を噛み砕くなんてことは難しい。
 結局、学生たちは「講義はわからないし、まともに扱ってもらえない」ので、やる気をなくしていってしまうのです。
 まさに悪循環。
 著者は、「Fランク大学」にも優秀な学生はいるが、彼らは環境に不満を持ち、大学からドロップアウトしてしまったり、他の大学を再受験したりすることが多いと指摘しているのです。
 

 ただし、著者は講義でもさまざまな工夫をして、学生のやる気を引き出そうとしています。
 名前だけを書けばいい「出席カード」ではなくて、講義に対するメモを提出させる。
 そこまでは、けっこうよくありそうなのですが、著者はそこで、学生たちのメモに書かれている感想や提言に対して、次の講義でフィードバックをきちんと行なっているのです。
 それだけでも、かなり反応が違ってきたことが紹介されていて、「ああ、こういう方法があるのか」と僕は感心してしまいました。
 教える側も「Fランク大学だから」と小馬鹿にするのではなくて、歩み寄るというか、伝わるように工夫すれば、けっこう、「デキる学生」もいるのです。
 そして、「ゼミ選びの大切さ」についても、繰り返し述べておられます。
 どんな大学でも、ゼミ選びで「大学生活を充実させる」ことは可能なのだ、と。
 これを読むかぎりでは、かなり厳しく指導されているようなのですが、そのハードルを乗り越えれば、実力がつくように考え抜かれているのです。
 月給18万円で、ここまで責任を持ってやっている非常勤講師がいるというのは、感動的ですらありました。


 Fランク大学の話を聞くたびに、日本人は大学に行きすぎなんじゃないか、と僕は思っていたんですよ。ところが、2012年の日本の大学進学率52%というのは、OECD経済協力開発機構)の平均値58%よりも低いのです。
 アイスランドポーランドニュージーランドの大学進学率は80%前後で、韓国69%、イギリス67%、フィンランドは66%なのだとか。
 進学率が高ければいい、というわけでもないのでしょうが、少なくとも「日本人は、世界各国と比べて大学に行きすぎ」なわけじゃないんですね。
 そうなると、海外にも「Fランク大学」的なところはあるはずなのですが、そこでは、どんな教育が行なわれているのだろうか。


 イメージや宣伝文句に振り回されずに大学やゼミを選ぶコツなど、これから大学を受験する人、あるいは、子どもが大学受験をする親、そして、いま、大学で教えている(あるいは、教えようとしている)人にも、読んでみていただきたい新書です。

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