琥珀色の戯言

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【読書感想】巨人軍「闇」の深層 ☆☆☆☆

巨人軍「闇」の深層 (文春新書)

巨人軍「闇」の深層 (文春新書)


Kindle版もあります。

巨人軍「闇」の深層 (文春新書)

巨人軍「闇」の深層 (文春新書)

内容(「BOOK」データベースより)
現役投手が複数関与し、ドン渡邉恒雄も退陣に追い込まれた野球賭博事件。大スター清原和博元選手のシャブ逮捕事件。原辰徳監督を襲った1億円恐喝事件…。栄光の読売巨人軍に何が起きているのか?野球選手を狙う反社会的勢力の巧みな手口とコンプライアンスの陥穽に鋭く迫る!


 うーむ、巨人の選手たち、ここまで「反社会勢力」に食い込まれているのか……
 そう思うのと同時に、『週刊文春』の調査力のすごさに驚かされます。
 どうやってこんなやりとりを「見てきたように」書けるんだろう。
 もちろん、書かれていることが100%の事実とは限りませんし、当事者のコメントにしても、主観的な見解、というのもあるんですけどね。
 ただ、練習中の「賭け」については、巨人だけの話ではないみたいだし、野球賭博とか覚せい剤はさすがに他のチームの選手はやっていないとは思いたいけれど、「巨人だけ」とも言いきれないな、とも感じています。

 巨人の選手寮の生活は厳格で規則正しい。午前9時半から練習が始める日は、7時半までに起きなければならない。朝食は午前6時から8時まで。試合の日はさらに起床時間が早まる。基本的に食事は寮で食べることになっており、夕食は18時から20時の間。起床時間や夜10時の門限に違反すれば、罰金が加算される。
 そうした厳しさの反面、寮内での生活には賭け事が日常に入り込んでいたという。
 松本(竜也・元投手)証言の圧巻は、巨人軍の選手が練習中も毎日のように現金を賭けていたことだった。それぞれのポジションの選手が一ヵ所に集まって順番にノックを受ける”ファンゴ”と呼ばれる練習の際、エラーをした選手は同じ組の選手に一万円ずつ払うという賭けだ。練習が”ファンゴ”モードに入ると、「じゃあ、今日は”ヘビ万”いきますか」との掛け声で賭けが始まるのだ。 ”ヘビ万”とはレートが一万円という意味で、これが千円なら”ヘビ千”となる。ジュースを賭けるときは”ヘビジュー”と称していた。
 巨人軍では昔から行なわれていた慣習だというが、一般の感覚からすれば、それはチーム内に賭け事が蔓延している実態そのものだった。
 松本本人にとっては、野球賭博もこうした日頃の賭けの延長の感覚だった。笠原から「面白くて、稼げるものがあるぞ」と誘われた時には、何の躊躇いもなかったという。一回の賭け金も十万円から最高額は三十万円になり、一時は毎日のように賭けに参加し、トータルで約六百万円は野球賭博に注ぎ込んだ。そして、彼はすべてを失った。


 こういう「練習中の賭け」に関しては、巨人以外のチームでも行なわれていたことがその後の調査で明らかになっています。
 これを読むと、ジュースくらいなら、かわいいものじゃないか、とさえ思えてくるのですが、ここまで賭け事が蔓延していると、お金やギャンブルに対する感覚が麻痺してくるのもわかるような気がします。
 選手寮では、選手に対して学生寮のような厳しい時間の管理が行なわれている一方で、賭けトランプや賭け麻雀が日常的に行なわれていることも告発されています。
 綺麗事ばかりの世界じゃない、ということは承知しているつもりでも、やっぱり、「なんだかなあ……」と思うところはあるのです。
 「だから巨人は……」というよりは、「みんな、多かれ少なかれやってるんじゃないか」と考えてしまうので。


 そして、清原選手への処遇についても、こんな話が紹介されています。
 清原選手が巨人にFAで移籍後、2004年の出来事。

 球団創設70年の記念すべきシーズンはV奪還どころか三位に沈み、球界一の資金力にものを言わせた”史上最強の補強”に批判が集まった。そのしわ寄せは当然、清原にも向けられた。そしてシーズンオフに巨人軍との四年契約の三年目を終えた清原にとって屈辱的な出来事が起こる。
 清原はその時の様子を自著『男道』でこう綴っている。

 ジャイアンツとの契約がまだ1年残っているというのに、ある人から事実上の戦力外通告を受けていた。
「来季の巨人軍に、清原君の居場所はない」
 ある人は、僕にそう言った。
 ある人であって、球団の人ではない。
 それが、読売巨人軍という球団の妙なところだ。
「西武の堤さんが君のことを心配していて、そんな扱いをするなら、清原君を西武に戻してくれと言ってきている」
 そう言われたけれど、聞く気にはなれなかった。
 僕が契約を結んだ相手は、あくまでも球団なのだ。


 この時、清原に戦力外通告を行なったのは、ある巨人軍OBだとされている。彼は球団の人間ではないにもかかわらず、「この話は私が巨人軍から預かっている」と言い張った。しかし、球団側の姑息なやり方に我慢ならなかった清原は、真意を質すために球団本部に乗り込んだ。当然、マスコミは蜂の巣を突いたような大騒ぎで、清原の進退問題を巡る報道はますます過熱して行ったのである。


 ちなみに、この騒動の結末は、「一選手の立場でありながら」球団に直談判した清原選手が、その「越権行為」について謝罪する、というものでした。
 でも、これがその経緯の事実であるならば、そりゃ清原も球団に乗り込むだろう、と僕は思います。
 プロ野球選手だし、結果を出さなければ、クビになることはあるでしょう。
 契約が残っていれば、トレードに出されたり、「干される」場合もあるかもしれません。
 ただ、いずれにしても、球団の人間ではない人に、こんなふうに伝えられるというのは、「それ、本当なの?」って言いたくなりますよね。
 クビならクビで、ちゃんと球団の責任者が「通告」するのがスジのはず。
 なんかよくわからないというか、魑魅魍魎が跋扈する世界だなあ。

 清原にとってドラフトで巨人に裏切られた”トラウマ”は一生消えることはないのだろう。その後、清原と桑田は幾度となく仕事で共演しているが、根っこの部分では決して相容れることはなかった。清原逮捕後に桑田が発した「(清原には)逆転満塁ホームランを打って欲しい」という言葉の空虚さが二人の関係性を物語っていた。
 清原にとっては家族との距離感もまた微妙で、愛情表現も不器用そのものだった。
 野球を始めた小学生の息子と一緒にキャッチボールをしたい気持ちはあっても、どうしていいか分からない。事務所を通じて、キャッチボールのためだけに平日の朝8時半から神宮球場を借りきってもらったこともあったという。その後、成長した二人の息子は清原にとってかけがえのない存在になるが、子育てを妻任せにしていた当時の清原には、愛情は空回りするもどかしい思いもあったに違いない。


 巨人の特徴というのは、さまざまな「偉い人」がいて、汚れ仕事に球団が直接手をくださない、というのがあるみたいなのです。
 それによって、「巨人軍」そのもののイメージをクリーンに保とうとしているのでしょうが、問題に対する追及が曖昧になったり、強引な解釈で組織を守ろうとしたり、ということが起こっています。

 野球協約を含むあらゆる法令に知悉したコンプラ軍団いにとって、”反社会的勢力”という言葉は、非常に使い勝手のいい言葉だ。明確な定義付けが難しいだけに、自らの立場や都合に合わせていかようにでも解釈を変えることができる。
 原監督の一億円恐喝事件では、恐喝犯の旅行経営者を「元暴力団員だが、二十年以上前に足を洗った」として反社会的勢力ではないと庇い、焼鳥屋のトラブルでは過去に暴力団関係者としての登録もない一般人を「新たな反社会的勢力」という定義に当てはめようと必至になる。こうしたことを平然とやってのける図太さが、今の読売グループの強みでもある。


 法律に詳しい人が必要なのはわかりますし、組織を守りたい、という気持ちもわかる。
 しかし、あまりにも巨人は大きすぎ、さまざまな人の利害が入り乱れすぎていて、伏魔殿になっているというのが現状のようです。
 いまの野球界は、「巨人戦だけがテレビ中継」という時代から、地上波での野球中継そのものが減ってしまったことや地道な経営努力が実を結び、巨人一極集中ではなくなってきています。
 パリーグや地方球団の人気が上がってきており、巨人も「人気球団のひとつ」でしかない。
 とはいうものの、「腐っても巨人」でもあるんですよね。
 そして、アンチ巨人である僕が思い込んでいるほど、巨人は「特別」ではないのかもしれません。


 ここまでの裏事情を取材しているのか、と文春の取材力に圧倒される新書です。
 巨人ファンにも、ぜひ読んでみていただきたい。
 どんな暗部を知っても、やめられないのが「ファン」ってものだとは思うけれど。