琥珀色の戯言

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【映画感想】海賊とよばれた男 ☆☆☆

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あらすじ
敗戦後の1945年、東京。石油会社・国岡商店を率いる国岡鐡造(岡田准一)は、日本人としての誇りを持ち復興に向け突き進もうと従業員を激励する。戦後の混乱期にもかかわらず誰も解雇せず、独自の経営哲学と行動力で事業を広げていく。やがて欧米の石油メジャーも国岡を警戒し、その強大な包囲網により同社の石油輸入ルートは全て封鎖されてしまうが……。


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2016年23作目の映画館での観賞。
平日の夕方(通常料金)の回で、観客は30人くらい。
年輩の方が多かったのですが、すぐ近くに「キャスト確認おばさん」がいて、ちょっとつらかった。
この人、有名な役者さんが出てくるたびに、「綾瀬はるかやん!」「堤真一だ!」と声を出し、ラスト近くの岡田准一さんをみて、「ああ、岡田准一、よく顔つくってる(年寄っぽくなってる)ねー!」とかなり大きな声で仰っておりました。
悪気はないんだろうけどさ、それは声に出さずに心の中で呟いてほしかったよ……


これ、冒頭のシーンで、国岡鐡造 60歳、というのをみたときに「さすがにそれはちょっと無理があるのでは……」と思ったんですよね。
いくらなんでも、岡田准一さんは60歳には見えないよ……
それでも、役づくりやメイクで、物語の最後のほうには、それなりの年齢でもおかしくなさそうな感じになってはきたのですが、うーん、それでも岡田准一さんじゃないと、ダメだったのだろうか。
あるいは、若い頃は岡田さんで、戦後のパートは別の人、とか……それだと、一貫性がなくなってしまうのかな。


この映画『海賊とよばれた男』、原作の百田尚樹さんも同じで、大ヒットとなった映画『永遠の0』のスタッフ、キャストが再結集してつくられているのです。
『永遠の0』の岡田さんは、本当に鬼気迫る熱演で、岡田さんだけが目当てでも、あの映画を観る価値があるくらいだったのですが、あの映画の印象が強いだけに、同じスタッフ、そして岡田さんを中心としたキャストでつくられたこの『海賊とよばれた男』には「二番煎じ感」が漂ってしまうのです。
吉岡秀隆さんとかも「本当にいい役者さんなのだけれど、この役には、ちょっと若すぎるのでは……」という残念な感じがするんですよね。
いくら「老けメイク」に自信があるのだとしても、仲が良い、信頼している役者さんたちと一緒にやりたいのだとしても、そりゃ不自然だろう、と。


『永遠の0』のことを思い出さずに、この映画だけでみれば、時間が前後して落ち着かないとか、原作の長さを考えると2時間半でも上映時間が短くて、ダイジェスト版みたいになっているとか(この映画、当初、前編・後編の2部作で、と聞いた記憶があるのですが)、時代背景を説明する余裕がなかったため、日章丸のイラン行きが、国岡鐡造のギャンブルにしか見えず、日本国内の反応がほとんど描かれていない、などの難点はあるものの、印象的なシーンも多いんですよね。
重油タンクの底に澱んでいる「備蓄されていた石油」をくみあげる作業をしていた国岡商店の社員たちやイギリス海軍に向けて、独立国である日本とイランの貿易に他の国が介入するのはおかしい、と真っ向から正論を述べた日章丸の船長。
あらためて考えてみると、他国を攻撃する目的ではない独立国どうしの付き合いが、大国によって干渉されるのはおかしいですよね。
でも、2016年の世界でも、その「正論」はなかなか通用しない場合が多いのです。


太平洋戦争後の日本で、僕の祖父母、そして両親の世代は、こんなふうに生きてきたんだなあ、と感慨深いものがあります。
戦争が終わった直後で、アメリカの実力を直接見せつけられたばかりのはずなのに、当時の日本人は、いまの日本人よりもずっと「『大国の正義』という名の横暴に、一矢報いてやりたいという意地」を持っていた。
日章丸のイランへの航海は、いまの日本で同じようなことをやれば「国益に反する」と大バッシングされるのではないでしょうか。
ところが、当時の日本人は、「欧米に搾取されてきたイラン」に共感し、リスクを承知で石油を買い付けにいった日章丸の航海を応援していたのです。
結果的に、日章丸の航海が、中東の石油の自由貿易化の口火をきることになりました。


ある意味、長い時間をかけて、日本人は「骨抜き」にされてきたんだな、と。
もちろん、今、わざわざアメリカの機嫌を損ねるようなことをする必要もないわけですが。


この『海賊とよばれた男』って、原作で時代背景を知っていなければ、あるいは、いまの若者の感覚では「ワンマン社長とブラック企業の話」に見えるんじゃないか、という気もします。
それはたぶん、いまの世の中があの頃よりも生きやすくなった、そして、生きる目的、働く理由、みたいなものを見失いやすくなった、ということもであるんじゃないかな。


感動的なシーンもけっこうありますし、役者さんも特撮も頑張っているのが伝わってきます。
でも、『永遠の0』の成功を引きずりすぎてしまったのが、本当にもったいない。
むしろ、『永遠の0』未見の人のほうが、入り込みやすいかもしれません。


できれば、原作を読んでから観に行ったほうが良いのではないかと思います。
百田尚樹さんは毀誉褒貶が激しい作家ではありますが、この『海賊とよばれた男』は、素晴らしい作品です。


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