琥珀色の戯言

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【読書感想】重版未定 弱小出版社で本の編集をしていますの巻 ☆☆☆☆

重版未定

重版未定


Kindle版もあります。

内容紹介
出版とは何か?編集者とは何か?弱小出版社に勤務する編集者を主人公に、編集業務から営業、書店、取次まで、出版界の実態を赤裸々に描き出す。ウェブ連載人気漫画、待望の単行本化。


重版出来!』『働きマン』『校閲ガール』など、出版関係の仕事を扱った作品って、けっこうありますよね。
 僕も「本好き」なので、どんなふうに本というのはつくられているのか、また、売られているのかということで出版業界には興味があって、これらの作品を愛読しています。


 この『重版未定』の著者の川崎昌平さんは、現在も平日の日中は小さな版元で編集者として働いておられるそうで、趣味は同人誌づくり。
 いま、盛り上がっている「出版社の内幕もの」に対して、「面白いし、批判するわけじゃないけれど、これって大手出版社の一部の編集者の働き方だよなあ」という思いがあって、同人誌で、この『重版未定』のもとになった作品を描きはじめたそうです。


 とはいっても、川崎さんのプロフィールをみると、「東京芸大卒、東京工業大学非常勤講師」とか、あの『ネットカフェ難民』という新書の著者であるとか、「ごく普通の編集者」とは一線を画しているところはありそうなんですけどね。
 川崎さんは、編集者としての仕事を「企画を考え、著者に原稿を依頼し、編集し、書店に送り出す……というのが仕事の主な内容です」と書いておられます。
 これって、要するに「原稿を書くこと以外のほとんど全て」ですよね。
 この『重版未定』を読むと、編集者としての理想はあるけれど、それ以前に「まずは一定数の本を出すこと」を優先しなければならない、という事情もあるのです。


 この作品に出てくる編集長は、「『とりあえず』で出して売れるわけねェだろ!」とボヤく編集者にこう言うのです。

「おい待て いつ誰が『売れる本』をつくれって言った? まず『売る本』を用意して取次に納品することが仕事だろ?」


 僕は、世の中のひとって、みんな自分の本を出したいんじゃないか、って思ってしまうのですけど、現実はそんなに簡単なものではありません。
 ある無名の著者の企画本に対して。

「知名度ないって言ってもさあ…… 実売印税8%で書いてくれる有名人なんていないだろ」
「そりゃ……まあ」


 タダでもいいから書きたい無名の人の本は、やっぱり売れず、書いてほしい有名人は、小さな出版社が提示できる条件では首を縦にふってはくれない。
 ちなみに、「実売印税8%で1冊の本を書き下ろした場合、2000円の本で1000部しか売れなかったとすると、著者の印税収入は16万円程度」だそうです。
 うーむ、本1冊で、16万円、か……
 とにかく本を出したい人が、採算度外視で自費出版するのでもなければ、本を1冊書くためにかかる時間や労力を考えると、「16万円しかもらえないのか……」って感じですよね。
 2000円の本となると、それなりの体裁のものにはなるでしょうし。


 出す側は、けっして粗製濫造しているつもりはないし、良いものをつくってはいるのだろうけれど、大手出版社に比べると、どうしても露出は少なくなってしまいますし、出せるなら大手で、という人がほとんどのはず。


 しかし、いまだに書店からの注文を紙の書類で処理したり、「1冊単位では受けられず、ある程度の冊数がたまってからまとめて発走している」なんていう話を読むと、「Amazonに注文したほうが速いんじゃないか?」って思ってしまうんですよね。
 高齢でネットに馴染みがないとか、クレジットカードを持たない主義だとか、それぞれ事情はあるのかもしれないけれど。
 僕の知り合いの地方の書店員さんは、お客さんが本の取り寄せを頼みにくると、Amazonの使い方を教えてあげたくなる、と言っていました。
 リアル書店の存続のために、なるべく本はリアル書店で買いたいという気持ちはあるのだけれど、Amazonのスケールの大きさと便利さには、地方に住んでいると感謝さえしてしまうんですよね。
 東京の「なんでも揃っている書店」がゴロゴロしている世界に住んでいる人たちは、Amazonが無くてもそんなに困らないのかもしれないけれど。


 マンガの絵としては、そんなに「上手い」とは言いがたいというか、「ページが白っぽい!」って感じではあるのですが、書かれている「小さな出版社のリアル」は、大変興味深いものでした。
 こういう出版社が、「あまり儲からないけれど、誰かが必要としている本」をつくって、日本の出版業界と読者を支えている。
 とはいえ、ここまでやっても、タニマチの善意みたいなものに頼らないと続けていけない業界が「産業」として成り立っていると言えるのだろうか、とも思うんですよね。


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