- 作者: 吉本ばなな
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/07/07
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
勉強のこと、友だちのこと、死、そして生きること…人生の根幹に関わる大切な八つのことについて、これから大人になる子どもたち、そして大人になるって難しい…と思っている人たちへ向けたメッセージ。
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
よしもとばななさんからの、子どもたちへ、そして、子どもの心を抱えながら生きている大人たちへのメッセージ。
よしもとさんは、この本の読者である子どもたちを想定して、冒頭にこう書いています。
今からたくさんすぎるほどの言葉を本文で伝えていきますけれど、たったひとつ言いたいことは、
「大人になんかならなくっていい、ただ自分になっていってください」
ということです。それがみなさんがこの世に生まれてきた目的なのです。
どうか、それを踏まえて読んでみてください。
薄い本で、字は大きいし、ページの下部5分の1くらいはイラストなので、「たくさんすぎるほどの言葉」じゃないのでは……とコストパフォーマンス面での苦情を言いたくはなるのですが、「子どもが読む、人生について語る本」としては、このくらいが適切なボリュームなのかな、とも思うのです。
読み終えてみると「このことが書いてない!」というような、物足りない気分にはならないし。
むしろ、後半の「自分は特別な人間だ臭」みたいなものは、無くても良いのでは……とも感じました。
でも、「よしもとばなな」という人は、紛れもなく「特別な人間」だから、困ったものだよなあ。
よしもとさんが「私も普通の人間として……」などと、「下から目線」で語り始めたりしたら、それはそれで感じ悪いし、人生を語るというのは難しい。
私の持っている異様な気配や濃さは、どうしてもお店などで店員さんにこわがられてしまいます。若いときは私がなにかおかしい見た目をしているのでは? と思ったくらいです。今は亡き父親によく言われました。「君の得体のしれなさが相手を怯えさせるんだ」と。
今でもそういう目で見られるときがありますが、そんなとき私が自分の職業を言うと、相手はほっとして近づいてきます。よくわからないものを、人はこわがるのです。だから普通でいたほうが安心だということなのでしょう。
でも、最後にひとつだけ。
私がどんなに得体がしれなかろうと、なにをしているかわからない人で気味が悪かろうと、職業を名乗らなかろうと、初対面からいつもオープンで明るく接してくれる人はいました。やがて私が名乗ると、人と違う職業の人だとは思っていました、と彼らは言い、それからの態度もオープンなままで決して変わらなかったです。そしてそういう人たちは必ずその職場で出世したり、幸せな結婚をしたりしました。
この自己肯定感というのが、よしもとばななさん、なのだろうな。
自分の子どもが「人と違う」ことに戸惑っていたら、このくらい自分を信じてくれたらいいな、と思う一方で、よしもとさんくらいの強烈な才能が無い人が、この自己肯定感だけを持っていたら、周囲と衝突するばかりなのではなかろうか、と危惧してしまうところもあるのです。
まあでも、「普通でいる」っていうのは、そう簡単なことでもないんだよね。
何が「普通」ということそのものが、説明するのは難しいし。
肯定するのも否定するのもその人しだい、ではあるけれど、こういう生き方もあるんだ、というのは、子どもにとっては「セーフティネット」になるかもしれません。
第一章の「よしもとばななさんが、自分が大人になったと感じた出来事」の話など、「ああ、これはものすごく腑に落ちるなあ」と感心してしまいましたし。
この本のなかで、いちばん印象的だったのは、最初に出てきた、この一文でした。
迷いなく幸せを描くことだけが現代における芸術家の真の反逆だと私は信じています。
僕は芸術家ではないけれど、なんだか頭をハンマーでぶん殴られたような気がしました。
「批判」や「否定」が溢れがちな世の中だけれど(そして、僕もそれに参加しているひとりだけれど)、それはむしろ「保身」でしかない。
現代って、「ネガティブなほうが安全」なんですよね。
僕も今年は、なるべく「幸せ」を描いてみたい。
迷いなく、は難しくても。