人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅 (光文社新書)
- 作者: 小野美由紀
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/07/16
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
人生に疲れたらスペイン巡礼?飲み、食べ、歩く800キロの旅? (光文社新書)
- 作者: 小野美由紀
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/08/14
- メディア: Kindle版
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<内容紹介>
もしあなたが、長い人生の中で、数日間もしくは数十日間を個人的な楽しみのために確保できるなら。
または、人生につまずき、絶望しているのなら。
もしくはお金をなるべくかけずに行ける、刺激的な旅先を探しているのなら――。迷わず本書を手に取ってほしい。
(「はじめに」より)
カトリック三大巡礼路のひとつ、カミーノ・デ・サンティアゴ。イタリア、フランス、もちろんスペイン、東欧諸国まで、さまざまな国の人々がこの道にやってき、その数は増え続けている。
100キロから証明書をもらえ、全ルートは800キロ。ガリシア地方にある大聖堂を目指す。
やるべきことは、たったひとつ「歩くこと」。
アウトドアとしても、旅としても面白い。信仰を問わず誰にでも開かれているこの道の醍醐味を伝える。
ああ、「お遍路さん」みたいなのが、キリスト教世界にもあるのだなあ。
そう思いつつ、手にとりました。
僕自身が、切実に「自分を見つめ直す旅」を必要としているわけではない、つもりなのだけれど、最近どうも、こういう「旅の本」に目がいってしまうんですよね。
このカミーノ・デ・サンティアゴ、流行りつつあるのか、見かけることが多くなったような気がします。
この「カミーノ」の人気は、1985年くらいから世界的に盛り上がってきて、2011年の「キリスト教年」には、18万人もの人が歩いたそうです。
著者は、21歳のときに出会った韓国人の宗教学者・金良枝さんの言葉を紹介しています。
金さんは「最も感銘を受けた場所はどこですか?」という著者の質問に、「カミーノ・デ・サンティアゴ」と答えたそう。
「人生と旅の荷造りは同じ。いらない荷物をどんどん捨てて、最後の最後に残ったものだけが、その人自身なんです。歩くこと、この道を歩くことは、『どうしても捨てられないもの』を知るための作業なんですよ」
自己実現のために、技能とか人脈とかキャリアとかを「得る」ことにばかり目が向いてしまいがちだけれど、そのおかげで、「自分にとって何が大切なのか」が見えにくくなってしまう。
カミーノ・デ・サンティアゴは「捨てる旅」なのです。
著者の体験記を読んでいると、「お遍路さん」のレポートを思い出します。
「ただひたすら歩く」という、「肉体の酷使」は、身体を強くするし、精神を研ぎすましていく。
そして、疲れてしまえば、よく眠れるし、あれこれ頭の中だけで思い悩むことから、解放される面もある。
いや、わざわざスペインにまで行って、キリスト教徒のイベントに参加しなくても……とも感じたんですよ。
四国でお遍路、でも良いのではないか、と。
でも、お遍路さんのレポートを読んでいると、言葉が通じる日本人どうしだから、コミュニケーションがとれてしまうために面倒事が起こることもあるようです。
むしろ、「外国」だからこそ、解放されるところもある。
それに、「巡礼」というのを堅苦しく考えず、「自分探しの旅」「観光も兼ねる」のが、カミーノ・デ・サンティアゴなのです。
贅沢をしなければ、巡礼宿には安く泊まれるし、お金もそんなにかからない。
どうせ行くなら、景色が綺麗だったり、自分にとっての異文化を体験したい、というのもわかります。
カミーノのいいところは、なんといってもルールがシンプルなこと。巡礼者たちに課せられた決まりはたった一つ。「道々の途中に描かれた黄色い矢印を追う」だけ。
道ばたの石、アスファルトの道路、ベンチ、建物の壁……道中のあらゆる所に黄色い矢印が描かれ、巡礼路であることを示している。
巡礼者たちが迷わないよう数十メートルから数百メートルおきに描かれているので、矢印を探して、その指し示す方向に進みさえすれば、自動的に聖地にたどり着く。
それでも、迷うことはあるそうなんですけどね。
「迷ったときは、無理に進もうとせずに、いったん引き返したほうがいいですよ」
これは、巡礼だけの話じゃないよなあ。
僕自身は、なんかこういう「自分探し」って、なんか感じ悪いなあ、なんて思ってもみるのです。
パワースポットとか、スピリチュアルとか、そんなの「思い込み」以外のなにものでもないだろう、と。
ただ、その言い方はどうあれ、これが「人生の再構成」につながる人が少なからずいるというのもまた、事実なんですよね。
私たちの日常生活は、ずっとまっすぐに歩き続けるには、あまりにも多くのものにあふれすぎている。どう生きていいのか分からなくなった時、迷いが生じた時、遠い昔から人の手を引いてきた場所が、私たちを導いてくれることがある。大きなものに身を委ね、たんたんと、一つの行為に心を任せること。それが、私たちのどうしようもなく暴れがちな心に、一本の背骨をすっと通して、ゆく方向を定めてくれるのかもしれない。
実際のところ、かなりストイックな「お遍路さん」と比べると、この「カミーノ・デ・サンティアゴ」は、敬虔なキリスト教徒ではない日本人にとっては、「あまり堅苦しくなく、聖地巡礼体験ができる」というメリットがあるのです。
巡礼路の多くのカフェや宿泊所は無線LAN完備だし、バルでは美味しい料理も堪能できます。
みんなマイペースで歩いていくので、めんどくさい人につきまとわれる、ということもあまりないようですし。
韓国では現在、カミーノがたいへんなブームで、特に兵役を終えて、あるいは仕事を辞めてきたという20代の若者を多く見かける。受験、就活、兵役。溜まりに溜まった社会の重圧になんとか押しつぶされまいと、彼らはこの道に救いを求めるのかもしれない。
ヒジュは、大声で罵り合う彼らを見ると、自分の父親を思い出すのだという。
「この旅に出る時、さんざん父に怒られた。「スペインを歩くことが、キャリアになんの役に立つんだ? お前を大企業で働くエリートにするために、これまでどれだけお金をお前に投資してきたと思ってる? 余計なことをするんじゃない」って。未だにお父さんは、私のメールに返事をしてくれない。私、どうすればいいの」
彼女の気持ちは、痛いほど胸に突き刺さった。
こういう話を聞くと、日韓の軋轢はあれど、若者たちがぶち当たっている「壁」みたいなものは同じなのかな、と思えてきます。
巻末には「カミーノに必要な物品リスト」も載っていて、これは実際に行くときには、役に立ちそう。
スペインだから、外国だから、と身構えなくても、出たとこ勝負でどうにかなりそう。
まあ、僕が今から巡礼に出かける、というわけではないけれど、「もしものときは、こういう『逃げ場』がある」と思えば、少しだけ気分がラクになるのです。
- 出版社/メーカー: アルバトロス
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