琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】VWの失敗とエコカー戦争 日本車は生き残れるか ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
世界を震撼させたVWのディーゼル排ガス不正事件を発見したのは米国カリフォルニア州の環境NGOでした。世界販売台数でトヨタと首位を争う巨大企業が、なぜ不正に走ったのか。

 本書ではVW事件の詳細と、VWを不正に追い込んだ、カリフォルニア州の環境規制の内実に迫ります。VWを告発した「カリフォルニア大気資源ボード」のメンバーの素顔や、その意思決定の現場も詳しくレポートされています。

 また、このカリフォルニア大気資源ボードによって2018年から始められる「次期ZEV規制」と呼ばれる環境規制は、世界の自動車メーカーを「エコカー戦争」と呼ばれる苛酷な競争に追い込んでいます。次世代エコカーであるEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)の開発は、各社とも生き残りを賭けて、待ったなしの状況です。


 果たして日本の自動車メーカーは生き残ることができるのでしょうか。本書では、日本の自動車メーカー7社の最新の中期計画をもとに、各社の生き残り策も検討していきます。


本書の構成
第一章  VWの落ちた陥穽
第二章  カリフォルニア州発「エコカー戦争」
第三章  日本の自動車産業一極依存の現状
第四章  自動車メーカーの分析と次世代エコカー戦略
第五章  未来の自動車産業地図


 2015年9月にフォルクスワーゲン(VW)の「不正ソフト事件」が発覚しました。

 まず、明らかになったのは、VWは2009年から2015年に販売した「ゴルフ」や「ジェッタ」などのディーゼル車に、不正ソフトウェアを搭載し、大気汚染物質の排出試験時に無効化機能装置(ディフィート・デバイス)を働かせて、通常走行で規制値の最大40倍の大気汚染物質が発生することをごまかしていたことが、米国カリフォルニアの大学と環境NGOに発見され、規制当局の、カリフォルニア大気資源ボード(CARB)と米国連邦環境保護局(EPA)に伝えられた。対象台数は世界で1100万台。中心は欧州で、全体で850万台。内訳はドイツで280万台、イギリスで119万台、フランスで98万台と言われている。これに対して米国は48万台である。さらにEPAは、VW傘下のアウディやポルシェでも不正ソフトがあったことを明らかにした。
 2015年11月3日、VWは型式認定を受ける際に、CO2の排出量の数字が実際よりも低くなるような不正を行なっていたと発表した。NOxの排出不正のみではなく、CO2排出についても不正があったと言うのである。


 世界的な自動車メーカーであるVW(フォルクスワーゲン)が、なぜ、こんな不正ソフトで大気汚染物質の排出量をごまかそうとしたのか?
 VWのみならず、自動車産業そのものの環境対策に疑念を抱かせたこの事件なのですが、この新書を読んでみて、VWがそんな「稚拙な悪事」に手を染めてしまった理由の一端がわかりました。
 現在の、そして、近い将来の先進国、とくにアメリカでの「環境規制」は、大手自動車メーカーにとっても大きな負担となっているのです。


エコカー戦争」は、自動車メーカーの競争の最前線であり、「環境にやさしい」というのはポジティブな印象しかないのですが、メーカーは、かなり厳しい試練にさらされています。


 僕には「エコカー」というと、「ああ、プリウスみたいなハイブリッド車とか、名前は思い出せないけど電気自動車とか、そういうやつだよね」というくらいの印象しかないのですが、「次世代車」の開発は急速に進んできています。

 毎年マスコミを賑わす北米・欧州・中国・日本などで催される国際自動車ショーの主役は、各社が力を入れて開発した「次世代車」の数々だ。
 中でも最近注目されるのが次世代エコカーをめぐる日本・欧米各社の間の「水素vs電気」の構図だ。トヨタ、ホンダの日本勢が先行するのは、水素を燃料とし、排ガスゼロ、排出するのは「水」だけという燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)。究極のエコカーと称されている。一方で、アメリカのテスラモーターズゼネラルモーターズGM)、ドイツのダイムラー、日産・ルノー・グループ、三菱自動車が注力するのは電気自動車(EV:Electric Vehicle)とその技術的進化である。
 2015年1月のデトロイト・モーターショーでは、初のFCVの発売を前に、トヨタの現地責任者が、「EVは必ずしも長く走れるクルマではない」と述べたところ、EVベンチャーの雄、テスラモーターズイーロン・マスクCEOが「FCVは極めて非効率。ばかげている」と切って捨てる一幕もあった。
 なぜこれほどまでに次世代エコカー戦争は熱を帯びてきているのか。
 それは、来たる2018年(モデル年ベース)から、世界の自動車産業が強力な「環境規制ルール」に縛られるようになるからだ。
 そのルールとは米国カリフォルニア州発の「ゼロ・エミッション・ビークル(ZEV:Zero Emission Vehicle:排気ガスがゼロの車)規制」と呼ばれるものだ。もともとあるZEV規制が、2018年以降、大幅に強化される。

 この環境性能面でのもっとも重要は働きが、2018年に米国カリフォルニア州で施行される「次期ZEV規制」である。
 電気自動車(EV)や燃料電池車(ECV)など、ゼロ・エミッション車(ZEV)といわれる自動車の販売の「義務化」が目前に迫っているのである。
 現在のZEV規制では、2015年から2017年(モデル年ベース)において、各メーカーはカリフォルニア州内での全販売台数のうち14%のクレジットに相当する台数をZEVで販売するよう義務付けられている。ただし、現在は、ZEVの対象が比較的柔軟になっており、純粋のZEV(つまり排ガスがない)であるEVやFCVにとどまらず、排ガスがかなり低い車や非常にクリーンな車も「一部がZEVである車(PZEV:Partial Zero Emission Vehicle)」として、クレジットの対象として認められており、かなり広く既存のエコカーが対象になっている。
 これが、2018年以降には各段に厳しい規制となり、従来はZEV対象エコカーとされていた車種、特に、単に排ガスがクリーンな自動車やハイブリッド車(HEV)はZEV対象として認められなくなる。プラグインハイブリッド車(PHEV)は、一時的な「移行期のZEV(TZEV:Transitional Zero Emission Vehicle)」として、とりあえず認められた。この他、規制の対象となるメーカーの規模も、従来の大手メーカーだけでなく、現在の中堅メーカーにまで及ぶようになる。


 車に疎い僕は、「エコカー」というと、「ああ、プリウスみたいな車のことだな」と思うのですが、このFCVとかEVとかZEVとかのことを知っていないと、これからの「エコカー」は理解できないのです。
 さらに驚いたのは、僕のなかでの「エコカーの代表選手」だった「プリウス」の現在のポジションでした。

 一方、日本ではエコカーの代表として見られてきたトヨタのHEV「プリウス」は、燃費は良いが、すでにエコカーとは見られていない。2011年にはHEVはカリフォルニア州の「エコカー優先車線」を走行できるエコカーの定義から外された。2018年以降から実施される次期ZEV規制においても、HEVはエコカーから除外される。こうしたことから、PHEVを発売するととともに、2014年12月、トヨタは「究極のエコカー」のふれこみのもと、FCV「ミライ」の発売に踏み切ったのである。次期ZEV規制対応としては思いきった対応であった。
 しかし、FCVは高値であり、インフラ整備も課題として残る。普及にはまだまだ時間がかかることは明白である。


 トヨタの「プリウス」は、「すでにエコカーとは見られていない」。
 著者は、新車開発にかかる時間を考えれば、2018年規制に関しては、各社とも「待ったなし」の状況だと述べています。
 カリフォルニア州での規制、ではあるのですが、カリフォルニアというのはアメリカの中でも影響力が強く(そして、とくに環境に対して配慮しており)、ここでの規制がアメリカ内の標準になっていくと予想されています。
 それにしても、「エコカー優先車線」まであるんですね、カリフォルニア。ETC専用料金所、どころじゃないな。


 もちろん、急にすべての車をエコカーにすることは至難なわけで(値段は高いし、燃料補給のためのインフラもまだ整っていませんし)、段階的にはなるのでしょうが、それにしても、自動車メーカーにとっては、かなりキツい状況であることは間違いありません。
 

 この新書では、そんな状況に、日本の自動車産業、そして、トヨタ、日産、ホンダの「大手3社」(売上1000億ドル以上)と、マツダ、スバル、スズキ、三菱の「中堅メーカー」(売上400億ドル以上)が、それぞれどんな戦略にもとづいて動いているのか、が紹介されています。
 自動車は「日々の移動手段」というイメージしかない僕にとっては、「自動車メーカーは、どこも同じようなものだろう」と思っていたのですが、これを読んで、同じ「自動車」を売っているのにこんなに違う経営方針なのか、と驚きました。
 

 日本の自動車メーカーを、ボリューム(量的)志向、量を第一に追わない志向、ブランド志向、ニッチすなわち消費のセグメントを狭くとった生産・販売志向といった軸で、特徴づけを試みてみたい。
 あくまで大きな傾向であるが、日本で軽自動車に熱心な会社、スズキ、三菱、ホンダは量的志向優先、日産、トヨタは量的志向を持ちつつ、トヨタは「レクサス」で、日産は「インフィニティ」で高いブランドを確立しようとしている。マツダはブランド志向であるが量を追う姿勢も強い。スバルは、ブランド技術志向でスポーツ・ユーティリティーというニッチ市場中心である。


 日本の主要自動車メーカー7社は、前述のように、「大手3社」と「中堅4社」に分かれるのですが、売上に対する営業利益率では、また異なった様相を示しているのです。

 販売台数が一番多いトヨタと一番少ないスバルが高いグループを形成し、特にスバルが14.7%と極めて高い。それをトヨタが10.1%で追っている状況だ。この2社が利益率の高いグループである。
 第二グループがマツダの6.7%、スズキの6.4%、三菱の6.2%になる。
 売上に対する営業利益が低いグループは、日産の5.2%、ホンダの2.8%。グローバル企業にもかかわらず、利益率では下位グループを形成しているのだ。


 大まかに言ってしまうと、現在の日産、ホンダ(とくにホンダ)は「薄利多売」になっている、ということなんですね。
 ホンダの場合は、タカタのエアバック品質問題と度重なるリコールの影響を著者は指摘しています。
 また、それぞれの市場についても、インドなどアジアのコンパクトカー市場を重視しているスズキと、アメリカでの販売に依存しているスバル(「スバリスト」というスバルの車のファンがアメリカには多いそう)など、各社生き残りのために個性的な戦略をとっているのです。
 スズキは、ZEV規制を避けるためか、すでにアメリカ市場から撤退してしまいました。
 スバルの高収益は、主戦場がアメリカ市場であり、最近の円安の恩恵にあずかっている面もあり、逆にいえば、円高に振れれば、一気に収益が悪化するリスクもあります。


 これからアメリカで勝負していくためには、厳しいZEV規制に対応していく必要があり、技術開発と、そのための莫大な費用が必要です。
 アジアの新興国をターゲットにすれば、そんなに高い車は売れないけれど、これから需要は増してくるでしょうし、ZEV規制の波がやってくるまでに、しばらく時間の猶予がある。
 とはいえ、新興国も豊かになってくれば、いずれは高級車志向になってくる。
 現在の利益を確保することと、将来のために投資をすることを両立していかなくては、会社は潰れてしまいます。
 この本を読んでいると、トヨタはさすがにバランスが良いな、と感心してしまうんですけどね。


 現在の「日本、そして世界の自動車産業の動き」が、僕のような車オンチにもわかるように説明されている良書だと思います。
 自動車って、見た目は僕が生まれてからそんなに変わっていないような気がするけれど、その内部では、こんな大きな変化が起きているのか……