琥珀色の戯言

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【読書感想】幻獣ムベンベを追え ☆☆☆☆


幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
太古の昔からコンゴ奥地の湖に棲息するという謎の怪獣・モケーレ・ムベンベ発見を賭け、赤道直下の密林に挑んだ早稲田大学探検部11人の勇猛果敢、荒唐無稽、前途多難なジャングル・サバイバル78日。子供の心を忘れないあなたに贈る、痛快ノンフィクション。


 なぜか今になって、Kindle版がランキング上位に入っていて、懐かしいなあ、と思いつつ再読しました。
 著者の高野秀行さんは、早稲田大学探検部出身のノンフィクション・冒険ライターで、近年は『謎の独立国家ソマリランド』も話題になりました。
 僕も高野さんが書いたものは大好きなのですが、にもかかわらず、ときどき、宮田珠己さんと「どっちの人が書いた本だったっけ……」と迷ってしまうんですよね。
 

 初めてコンゴの怪獣のことを知ったのは、その年(1986年)の春のことである。
駒澤大学探検部がアフリカに怪獣を探しに行った」という話を聞いたとき、私も高橋も思わず笑い声をあげた。世の中にはバカなことをする人がいるんだなと単純に感心した。感心して普通はそれで終わりだが、なぜかそのときに限ってもっと詳しく話しを聞きたいと思った。

 結局、高野さんたちも同じ「バカなこと」に真剣に取り組むことになるのです。
 このコンゴ・テレ湖に棲息するという「怪獣・ムベンベ」を探す旅は、早稲田大学探検部+現地の人々によって、1988年に行なわれました。
 そして、この本は、翌1989年に「早稲田大学探検部」名義で上梓されています。
(のちに、高野秀行さんの著書として文庫化)
 これを読んでいると、「まだ何者でもなかった」時代の高野さんの、現地の人と関係を築いていく能力とか、語学の才能は、大学時代から片鱗があったのだな、と「後世からの視点」でみてしまうところもあるんですよね。
 個性豊かな探検部員たちの描写には、椎名誠さんの影響がありそうで、でも、その個性をうまくネタとして書ききれていない「荒削りなところ」が、すごく瑞々しくも感じたのです。
 

 昼間は洗濯をしたり、荷物の整理をしたり、しゃべったりして、しごくのんびりと過ごす。しかし、バケツに水を汲み、泥と汗がこびりついた眼を両手でぐしゃぐしゃやりながら、ついつい湖のほうを見やってしまう。とにかく、いつ出るかわからないのだ。これから飽きるほど見張りをするんだから、と冷静に考えても、しばらくすると「いや、怪獣が四十日間にたった一度しか現れないとすれば、それはひょっとして今のこの瞬間かもしれない」などと思い、顔をあげてしまう。


 高野さんをはじめとする探検部員たちは、数々のハードルを乗り越えて、コンゴのテレ湖までやってきて、なんと夜勤者を決めての「24時間の監視」まで行なうのです。
 ところが、ムベンベはなかなか現れず。隊員たちはどんどん消耗していきます。


 そもそも、この探検そのものが、「怪獣探し」についての成果でいえば、うーむ、としか言いようがないもので、テレ湖の水深とか、現地の人々の証言とかを考えると、途中からは、「とにかくその場に居続けること」が目的になってしまっているようにもみえるのです。
 現地の人々との駆け引きに、食糧不足、そしてなんといっても、メンバーのひとり、田村さんの体調不良。
 いやしかしこれ、「探検」とはいえ、田村さん本当に危なかった。
 途中からは、具体的な「成果」に期待が持てなくなっていくこともあり、これ、「撤退案件」じゃないか、せめて田村さんだけでも治療ができるところに移したほうがいいよ……と、ムベンベよりも、田村さんの病状のほうが心配でした。
 「退院たちのその後」を読むと、このテレ湖での探検では「ほとんど病んでいただけ」の田村さんが、もっとも精力的に「探検」を続けていったというのは、ものすごく興味深くもあるのです。
 山で遭難したり、仲間を失ったりした人の話を読むたびに、「ああ、この人はもう、山に近づきたくもないだろうな」って思うのですが、多くの人は、そんな目に遭いながらも、また次の冒険に出かけてしまう。
 
 こういうのはまさに「紙一重」で、結局死んだ人が出なかったから、こうして本になるし、「青春」みたいな感じで語ることができるのでしょうけど。

 
 あと、これを読んでいて「すごいな……」と思うのは、探検隊の食生活です。
 現地の人が仕留めてきた動物、サル、ゴリラ、カワウソ、ワニなどを、ガンガン食べまくる早稲田大学探検隊。

 そうこうしているうち解体作業に入った、熊五郎が鮮やかにさばいていく。目の前のチンパンジーは思った以上にヒトによく似ているが、何よりも当の熊五郎とそっくりである。やはり”権三”の方が良かったのではないかと思ったが、その彼が例によって陽気に冗談を飛ばしながら、血しぶきを浴びて肉をぶった切っていく様子は、”同類相打つ”という感じで、滑稽なくらい凄惨だ。このとき私は、「ああ、人を殺して食うまであと一歩だな」と実感した。次の獲物がヒトであったら、抵抗なく食えるような気がした。
 同じコンゴ・ザイールでも、ゴリラやチンパンジーは、「人に似ているから」ということで食べない地域が多いらしい。確かにボアの連中も獲物がとれると、「ほら、人にそっくりだろう」と言うが、そのあとに、「これがうまいんだ」と、付け加えて舌なめずりする。全然気にしていない。私も彼らの影響を受けているのだろうか。

 途中からは、ムベンベ探しよりも、『黄金伝説』のサバイバル生活、みたいな感じです。
 でも、「面白い」のですよねこの本、なんというか、浮世を忘れさせてくれる「別世界感」がある。

 高野秀行さんのルーツでもあるこの作品、「冒険ノンフィクション好き」なら、「この古さが、かえって新鮮」に思えるんじゃないかな。


謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

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