琥珀色の戯言

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【読書感想】1998年の宇多田ヒカル ☆☆☆☆

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)


Kindle版もあります。

1998年の宇多田ヒカル(新潮新書)

1998年の宇多田ヒカル(新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
1998年。史上最もCDが売れた年。宇多田ヒカル椎名林檎aiko浜崎あゆみがデビューした年。偉大な才能がそろって出現した奇跡の年と、四人それぞれの歩みや関係性を、「革新・逆襲・天才・孤独」をキーワードに読み解く。はたして彼女たちは何を願い、歌い続けてきたのか?なぜ今もなお特別な存在であり続けているのか?苦境の音楽シーンに奮起を促す、注目の音楽ジャーナリスト、渾身のデビュー作!


 1998年、僕はいったい何をしていたかな……そんなことを思い出しながら読みました。
 20代の半ばから後半にさしかかり、ようやく仕事にも少し慣れてきた時期ではあり、1999年に「ノストラダムスの大預言」で地球が滅亡すると信じていたときほど幼くもなく、まだまだ人生これから、だと思いながらも、なんだかダラダラやっていたような記憶があります。


 宇多田ヒカルさんのデビューアルバム『First Love』は、たしか、パチンコ屋の景品で取ったんですよね。けっこう勝ったときに「ふーん、いま、こういうのが流行っているのか」って、あんまり身構えもせずに。
 帰りの車のなかで聴いて、1曲目の『Automatic』から、4曲目の『First Love』までの流れに、「なんか凄いの出てきたな……」と。


 著者は、この本を書いた「3つの理由」を冒頭で説明しています。

 一つは、1998年という年が、この先、未来永劫塗り替えられることがない日本の音楽業界史上最高のCD売り上げを記録した年だということだ。

 二つめは――これは現役の音楽ジャーナリスト/批評家としてかなりのリスクを承知で自分のスタンスを改めて明確にすることでもあるのですが――2000年においても、2005年においても、2010年においても、そして現在においても、グループ/バンド/ソロを問わず、性別を問わず、日本の音楽シーンにおけるトップ3の才能だと字部が考えている音楽家が、すべて同じ1998年にデビューしたからです。
 そう、宇多田ヒカル椎名林檎aikoのことです。

 最後の理由は、「1998年」について、そして「宇多田ヒカル椎名林檎aikoの三人」について、もし何らかの本が書かれるとしたら、自分はそれを書くのに相応しい場所にいた/いるのではないかという自負が少なからずあるからです。

 著者は1970年生まれで、僕とほぼ同じ世代です。
 だからこそ、この「最後の理由」は(居場所はともかく、世代的には)わかるような気がします。
 この本のなかでは、この3人と、浜崎あゆみさんについて、それぞれ章を立てて語られています。
 僕のなかでは、あまり交流の印象がなかった、宇多田ヒカルさんと椎名林檎さんの関係なども紹介されていて、「そうだったのか……」と感慨深いものがありました。
 記憶では、宇多田ヒカルさんの「ライバル」って、最初の頃は倉木麻衣さんで、一時は倉木さんのほうが売れてるんじゃないか、という感じだったのですが、宇多田さんがあまり新作を発表していないにもかかわらず「伝説化」されていく一方で、現在の倉木さんは「ああ、『名探偵コナン』の歌の人ね」というポジションにおさまっているのです。
 たしかに、20年近く「第一線」で戦い続けているこの三人って、すごいな、と。
 aikoさんとか、考えてみれば、ずーっと、同じようなaikoさんであり続けているわけで、それはマンネリを超越しています。
 ちなみに、AKB48のメジャーデビューは、2006年10月。あらためて調べてみると、こちらもけっこう長いのだな。


 著者は、宇多田ヒカルの「特徴」について、こう述べています。

 実際、国内だけでなく海外を見渡しても、宇多田ヒカルほど極端なレコーディング・アーティストは他にいない。
 デビューから約17年間、オリジナル・アルバムは7枚(Utada名義の2作品を含む)、シングルとアルバムを合わせてCDを世界中で5200万枚以上(The Seattle Times, January 16, 2010)売り上げているにもかかわらず、彼女は数えるほどしかステージの上に立っていない。試しに数えてみたら、業界向けのコンベンションや招待制のイベントやシークレット・ライブや公開収録ライブを含めても、現在までたったの67回。そのうちツアーをまわったのは国内2回、海外1回の計3回のみである。あのビートルズだって1966年にツアー活動をストップする前には、その何倍もの公演数をこなしていた。

 たしかに、ZARDみたいに「ライブはやらない」って方針を打ち出していたわけではないのに、宇多田さんのライブパフォーマンスは極端に数が少ないんですよね。
 宇多田さんのコンサートといえば、宇多田さんが福岡国際センターでライブをやったとき、僕はけっこう頑張ってチケットを取ったにもかかわらず、資格試験と日程が重なって、観に行くのを断念したことがありました。
 観に行った妻によると「すごく良かった。今まで観たいろんなコンサートのなかで、間違いなく3本の指に入る」そうです。
 あのときもプラチナチケットではあったのだけど、またいつかチャンスはあるだろう、と思っていたのだよなあ(もちろん、これからチャンスが無いとも限らないのですが)。

 宇多田ヒカルが「スタジオの音楽家」であることの際立った特徴の一つとして、宇多田ヒカルの作品からは基本的に宇多田ヒカルの声しか聞こえてこないことがある。宇多田ヒカル楽曲におけるバックボーカルは、「Automatic」から「桜流し」まで、一貫して彼女自身が自分の声を多重録音したものだ。先ほど、宇多田ヒカルの音楽の「『密室感』と『親密さ』の源は彼女にとってスタジオこそが『自分の部屋』であるからだ」と書いた。そんな慣れ親しんできた彼女の部屋から、リスナーにとって突然見知らぬ他人の声が聞こえてきたら、違和感を覚えずにはいられないだろう。


 宇多田ヒカルさんには「ヒッキー」という愛称もあるのですが、音楽活動以外では、基本的にあまり表に立ちたがらない人なのかな、というようにも僕には見えるのです。


 この新書のなかで、もっとも気になったのは、aikoさんについて語られている章でした。
 aikoさんはラジオのDJとしても飾らないトークで人気があったのですが、著者は「aikoさんと音楽ジャーナリズム」について、こう書いています。

 aikoは音楽ジャーナリズムが機能しているような場所には出てこない。
 いや、厳密に言うと、自分が『ロッキング・オン・ジャパン』の編集部に在籍していた時期に一度だけ表紙インタビュー(2002年9月10日号)に登場したことがあったが、取材前にも取材後にも方針の違いで散々揉めた挙句、それっきりとなった。

 自分が全体の構成をコントロールできる音楽特番をNHKと一緒に作ることや、好きな芸人のバラエティ番組にゲストとして出ることはあっても、自分の音楽についてインタビュアーからまっすぐ訊かれるような番組には出たことがない。放送局などが主催するイベントに出演することはあっても、これまで一度もいわゆるフェスには出たことがない。各社のストリーミング・サービス、Apple MusicにもGoogle Play MusicにもLINE MUSICにも一曲も提供していない(2015年11月現在)。他のアーティストに、自身の楽曲のカバー音源化を許可したことさえない。まさに「ない、ない、ない」のないない尽くしだ。
 aikoのすべての活動は非常に厳格なルールに従っていて、それはとても芸能界のルールに似ている。そういう意味では、aiko宇多田ヒカル椎名林檎と同じ世界の住人というよりも、浜崎あゆみと同じ世界の住人といった方がいいあもしれない。芸能界では「結果が予測できない」活動は極力排除される。そこでは、上手くいくか上手くいかないかやってみないとわからない気鋭のカメラマンとのフォト・セッションやジャーナリストからの鋭い質問や、それに対する気の利いた返答は必要とされていない。
 誤解をしてほしくないのは、自分はそのことをもってaikoを批判したいわけじゃないということ。むしろ、現在のaikoとファンの強い結びつきを見ていると、「音楽ジャーナリズムってなんだろう?」と考え込んでしまうのだ。

 

 画面越しに受ける印象では、aikoさんって、椎名林檎さんよりも、はるかにフレンドリーで、取材とかも「いいですよ、何でも聞いてください」って言いそうな感じなのに。
 もしかしたら、音楽ジャーナリズムの「大衆に迎合して、同じような曲ばかりつくっているaiko」という紋切り型の評価にうんざりしてしまって、こういう対応になっているのかな、とも思うのです。
 あるいは、自分のイメージを自分自身で極力コントロールしていきたい、という意思のあらわれなのか。


 そういう「いままで自分がみてきた三人」とは違った一面を、著者は切り取って、同世代人である僕に見せてくれます。
 僕は「1998年頃にはCDを買いまくっていたけれど、いちばん最近買ったのは『ニンニンジャー』のテーマ曲」というくらいの「昔は音楽好きだったオッサン」でしかないのですが、これを読んで、また『First Love』を聴きなおしたくなってきました。
 いつまでもこの3人(+浜崎あゆみさん)じゃダメなのだと思うし、今の若い人には、きっと別の「3人」がいるのだとは思うのだけれども。


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