琥珀色の戯言

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【読書感想】「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?―中国人のホンネ、日本人のとまどい ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
流行語大賞で経済用語部門で唯一ノミネートされた「爆買い」――。
日本の観光地から、新宿、銀座、梅田、なんば、名古屋栄、札幌、博多……といった商業都市
中国人旅行者が殺到し、ドラッグストア、家電量販店、コンビニはもちろん、空港、高級ホテルから
ビジネスホテル、流行レストランまでその来客数はすさまじいものになっている。


「爆買い」効果で街の商店から一部上場企業までが恩恵を受けることになったが、
いったいこの「現象」はブームで終わるのか、それともここしばらくは続くのか?


中国取材29年のベテランジャーナリストの著者が、消費を享受する中国人から
「インバウンド消費」に湧く日本の関係者までを丁寧に取材し、「爆買後」いったいどうなるのか、を予測すべく現場を歩いた。


 「爆買い」という言葉、もうかなり一般的に使われていますよね。
 この本のなかで紹介されているような東京での中国人観光客の買い物っぷりは、僕自身目の当たりにしたことはないのですが、少し前にキャナルシティ博多に行った際、ラオックスが観光客向けの土産物店になっていたことにかなり驚きました。
 僕が子供の頃のラオックスって、秋葉原のパソコンショップだったんだよなあ……


 九州には中国からの観光客も多く、平日、アウトレットモールに行くと、中国人らしき団体さんをよく見かけます。
 こんなところにまで来るんだ……などと言いつつ、近くの観光名所では、「中国人観光客はトイレの使い方が汚いので、他の利用者や清掃スタッフが困っている」などという話も耳にするんですよね。
 「爆買い」そのものも、金にものを言わせて、他の国で買いあさるなんて、なんか品がないよな、とも思うのです。
 それは、僕自身が商売をしていないから、というのはあるのですけど。
 店側にとっては、停滞する日本経済のなかで、すごくありがたいお客さんであることは間違いないでしょうし。

 でも、こんな「爆買い」なんてものが、そんなに長続きするものなのだろうか?
 そろそろ「終わり」が見えて、あとにはぺんぺん草も生えないのでは……


 その疑問に対して、長年中国、そして、日本在住の中国人を取材してきた著者は、こう述べています。

 この「爆買い」はまだ続くのか?
 そろそろ終わりを告げるのか?


 私の予測では、答えは前者である。
 日本人よりもはるかに速いスピードで生きている中国人の「爆買いの中身」は相当変化していくだろうが、ひとたび「豊かな暮らし」へとかじを切った彼らの気持ちは止められず、この流れは相当続いていくだろう。
 今後、経済がどんなに悪化することがあろうとも(バブル崩壊後の日本人がそうであったように)、もう生活レベルを元に戻すことはできないのだ。
 本書では、なぜ爆買いが続くと思うのか、インバウンドという観光産業の業界の枠組みにとらわれず、その根拠となる中国人の心理、考え方、受け入れる日本人の悩みや喜びなどの”悲喜こもごも”も紹介していく。


 著者は、中国人の「爆買い」は、われわれ日本人にとっては、既知の光景ではないか、と指摘しています。

 この光景、よく考えてみると、私たちは以前、どこかで見たことがないだろうか。
 免税店に列をなして大量のブランド品を買い込んだり、同じお土産を何十個と買ったりする姿は、80年代のバブル期の日本人と似ていないだろうか。
「マナーが悪い」「うるさい」と評される中国人の話を各地で取材して歩くたびに「でもね、日本人にもそういう時代があったんですよね」と苦笑いし、昔を回想する日本人が少なからずいた。私自身も子どもの頃、そうした日本人がいたことを思い浮かべることができる。


 著者は僕より少し若い世代なのですが、僕も「エコノミック・アニマル」と揶揄され、パリのブランドショッップで白眼視されつつもブランド品を大量に買い込んでいた日本人観光客への海外からのバッシングを記憶しています。
 あんな買い方は品がない、って言われていたのは、僕の親世代の日本人だったのです。
 そう考えると、「爆買い」的なものは、「経済力が上昇し、生活水準が劇的にあがっていく国では、必然的に起こってくる現象」だと考えたほうが良いのかもしれません。


 あの頃、日本人観光客をバカにしていた欧米の人たちの側に、豊かにはなったけれど、勢いはなくなった日本人が立つことになっただけ、なのです。


 とはいえ、この本を読んでいると、中国からの観光客たちは、急速に「先進国的」になってきていることもわかります。
 団体客から個人客が増え、東京から新幹線に乗って富士山をみて京都、あるいは、アウトレットモールで「爆買い」というお決まりのコースではなく、地方の文化や温泉を堪能したり、日本の文化に造詣を深めたり、高野山の宿坊体験をしたり、というようなバリエーションがどんどん増えてきているそうです。
 

 中国経済には、一時期の勢いはなくなってきているのだけれど、著者は、それが必ずしも悪い面ばかりではないと感じているようです。

 日本にいると、まるで中国経済は今にも崩壊しそうだと感じるが、中国に身を置いてみると、それは現実を投影していないものだと痛感する。確かに経済成長は鈍化しているが、私には鈍化した今のほうが「中国社会はもっとよくなっている」と感じるのだ。
 というのは、これまで一般的に中国は経済成長し、衣食足りて、人々の生活はよくなってきたといわれてきた(私自身もそう書いてきた)。
 だが、豊かになって余裕ができたから礼節を知ったというのであれば、経済が鈍化したとたん、市民生活は荒廃するはずだ。だが、私の目にはそうなっていないように映る。
 人々のマナーは1年前よりもよくなり、他人に対してもどんどん優しい社会になってきている。経済は悪いが、今は成熟に向かう踊り場にいるのであり、人々の生活は日本人のそれに近づいていている。
 そういう意味で、深淵では「中国の日本化」が進んでいると感じるのだ。
 なぜなら、目が回るような急成長時代、全員成長は終わりを迎えて、優れたサービスやモノを提供できる者だけが生き残れる、真の競争社会へと中国が突入したのではないか、と感じる場面にいくつも出くわしているからだ。
 たとえば、私が利用した中堅のホテルやレストランでも、相当に競争力が増してきて、その結果、サービスを向上させなければ顧客を確保できなくなってきており、以前に比べてサービスが非常によくなっていて感激した。

 中国の経済には行き詰まりが懸念されている一方で、豊かになってきた社会は「成熟」に向かっている、ということなんですね。
 これはまさに、日本が辿ってきた道でもあるのです。


 そもそも、日本人は、中国人観光客に対する、複雑な感情というか、ちょっとした差別意識的なものを持っているのかもしれません。
 ある高級旅館での取材のなかで、こんな話が出てきました。

 この旅館の外国人比率は全体の20%程度で、そのうち中国人は多いほうではない。15年になってから増えてきたが、チェックインの際、パスポートを預かる出入国のスタンプがたくさん押してあり、世界中に旅行している富裕層であることがわかる。
 うるさくしているわけではないのに、存在そのものが気に食わないといわれたときには、その客を部屋食に切り替えたりして、なるべく中国人と日本人が館内でニアミスしないように”応急処置”を取ってきた。
 しかし、トラブルになりやすいのは大浴場だ。日本人が外国人と一緒に使うこともあるが、中には「西洋人にお風呂の使い方を教えてあげたよ」とわざわざ女将さんにいいに来てくれるのに、中国人に対してだけは「全身濡れたまま浴衣を着ていた。石鹸の泡がついているのに、湯船に入った。早く行って注意しなさい」と怒り出す人もいる。
 大浴場の使用方法は英語で表示してあるが、外国人が百パーセント理解することは難しい。
「浴場の点検を強化して、どのお客様にも気持ちよく使っていただけるように注意するしかないのですが……」といって女将さんは表情を曇らせる。

 「入浴のマナーを知らない」のは、欧米人も中国人も同じですよね。
 「外国人」なのだから。
 にもかかわらず、欧米人には嬉々として「教えてあげる」のに、中国人には「マナーがなってない!」と怒り出すのは、なぜなのか。
 むしろ、日本人と同じ東洋人で、見かけも似ているから、その「非常識」を咎めてしまいたくなるのだろうか?
 それとも、差別意識があるからなのか。
 

 「中国人観光客はマナーが悪い」というけれど、外国からの観光客が現地のマナーに疎いのはある意味当然のことなのです。
 にもかかわらず、中国人は槍玉にあげられやすい。
 来日している人数が多いから目立つ、というのは、当然あるのでしょうけど。


 そもそも、こうやって中国人が海外旅行に出て、経験を積んでいることそのものが、中国人のマナーを改善してきているのではないか、と著者は述べています。

 全人口からずれば、まだ先端の人しか海外に出ていない段階だが、その人たちが海外で見聞してきたことを母国に持ち帰ることで、目に見えない”内部変化”が起きているのではないだろうか。
 これまで「近くて遠い国」「戦争をした憎き相手」だと思ってきた(あるいは、思い込んできた)日本に対しての印象も、日に日にアップデートされ、対日観は塗りかえられていっていると感じる。
 以前、取材した上海の女性が「日本で『爆買い』がどのように報道されようとも、中国人の日本旅行ブームは日中関係にとってよいこと。これまで日本なんか嫌いだ、嫌いだといっていた人にこそ日本に行ってほしい。観光すれば一目瞭然。中国がいかに日本から多くのものを学んできて、これからも学ばなければいけないことが多いのかがわかる。観光は日中の政治を助け、救う者だと思う」と話してくれたが、同感だ。


 この本を読んでみて、「爆買い」というのは、恐れおののくようなことではなくて、ひとつの国が急速に発展していくプロセスなのだな、という気がしてきました。
 そして、摩擦がありながらも、直に接する機会が増えているというのは、今後の両国の関係にとってはプラスになっていくはずです。
 逆に、日本という国が、いつまで中国人にとって魅力がある国でいられるだろう、などと考えてみたりもするのです。

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