琥珀色の戯言

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【読書感想】家族の悪知恵 (身もフタもないけど役に立つ49のヒント) ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
一昨年ベストセラーとなった漫画家・西原理恵子氏の人生相談『生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント』の第二弾です。タイトルが示す通り、今回は「家族の問題」について、サイバラ節がさく裂します。 第1章「困った夫&妻」編では、「普段はいい人なのに、酒が入ると怒鳴りカラむダンナと離婚すべきか」の相談に、「子供に全部ちゃんと話して、夫のことは捨ててください」。「ブランド品を次々に買ってしまう妻の浪費癖を何とかしたい!」には、「強硬手段に出るべきです。離婚届けにハンコを押して、『これ以上使ったら……』って、カードも取り上げましょう」。 続く、第2章「子育て」編、第3章「家族もいろいろ」編、第4章「人生の選択」編、第5章「親兄弟が面倒くさい」編でも、悩める母親、娘息子たちに、ときに親身に、ときに突き放して、サイバラ流の解決策を伝授します。 最終章では、西原氏と高1の息子、中2の娘との座談会も収録されます。フツーじゃない家庭ならではの母子のやり取りもお楽しみいただけます。


 西原理恵子さんの「家族」に関する、本音の人生相談。
 実際に役立つ、というよりは、西原さん流の豪快な「相談芸」みたいなのを読んで楽しむ、という本ではあるのですが(そもそも、西原さんが言うような解決法を実行できるような人なら、そんなに悩まないだろうから)、『嫌われる勇気』みたいなものなのかな、と。


 基本的に、西原さんは「他人のことはしょうがない」というか、「相手を変えることは難しいから、その前提で、自分自身がどう行動するか」と割り切っている人のようにみえます。
 それはもう、長年のさまざまな経験に基づいた「生きる知恵」でもあるのでしょう。


 ダンナが休日出勤もいとわず、休日もジョギングに山登りと全く休まない人で身体が心配、という相談に対して。

 いますねえ、こういう人。脳みそにそういう汁が出てるんですね。高須先生(パートナーの高須克弥氏)なんかもそのタイプ。69歳で真夏に毎日ゴルフしてますからね。2ラウンド、3ラウンド回って、周りの年寄りがどんどん倒れていくの。仕事は仕事で毎日ものすごく働いているから、従業員さんのほうが倒れていくって。あの人はたぶん死ぬまで止まらない。止まるときは死ぬときなんじゃないかと。
 研究者とかスポーツ選手でもそういう人はわりといて、ひとつのことを平気で24時間やり続けたりする。ちょっと発達障害みたいなところもあるんだけど、それですごい発見や記録をつくっちゃったりするんですよね。陸上の為末大さんがツイッターで「発達障害を持っているアスリートは意外に多いのではないかと思う。(中略)陸上競技は(中略)没頭するタイプが強かったりする。発達障害を持った選手の成功で勇気づけられる方が増えるといい」と言ってたことがあって、なるほどなと思ったんですけど。
 だから、このダンナさんもちょっとそういうタイプなのかも。このタイプで困るのは、没頭する先が女だったりギャンブルだったりした場合。そうするともう人間のクズとして扱われるんだけど、高須先生みたいに経済活動に行っちゃうと、すごい金持ちになっちゃうという(笑)。天才肌の人って、だいたいみんなそうでしょう。

 ほんと、こういうのて、「没頭する対象」の違いでしかないのかな、と僕も思うんですよ。
 でも、その差は大きいよなあ、とも。
 

 ちなみに、西原さんは「お風呂でマッサージして、長風呂させて、寝かしてしまえばいい」と仰っています。
 正直、「こういう人っているんだよね」と語るときのアツさに比べると、解決法は、けっこう適当。
 まあ、そんなに深刻な「悩み」じゃないから、なのかもしれないけれど。


 西原さんは、「つい子どもに口うるさくなってしまう、どうしたら西原さんのように、子どもに過干渉せず、見守る子育てができるのか?」という母親に、こんなアドバイスをしています。

 口うるさく言ってしまうというのは、もう子供の世話をするのにうんざりしてるんじゃないかな。要は、一緒にいすぎるんです。一緒にいなければ腹も立たない。だから、外に出しちゃえばいい。みんな、そのために習い事をさせてるんです。
 そこでおすすめなのはスイミング。関節から何から子供の体に一番負担が少なくて、ケガも少なく、ぐったり疲れて、しかも水洗いできれいになって帰ってくるんだから、こんなお得な習い事はない。道具も水着とタオルだけですから、お金もあんまりかからない。これが野球とかサッカーだと、お金もかかるし送り迎えとかお茶出しとか大変。まして女の子だったら、そっち系だと「おいーっす!」とか言うようになっちゃうし(笑)。
 別に塾だって行かせればいいじゃん。あんまり高いカネぼったくるところじゃなきゃ、家にいて母ちゃんが怒ってるより全然いい。地方行くとショッピングセンターとかの周りでずーっとウロウロしてるバカなガキがいるでしょ。放っておくと、あんなんなっちゃうんですよ。だから、塾に行かせれば、夏休みなんかもフラフラさせずに済むし。
 全部自分でやろうとするからイライラするんで、外注すればいいんですよ。いいですか、習い事という名の”育児放棄”をしましょう。よその先生に怒ってもらったほうが、子供も身に付きます。で、その分、空いた時間でやりたいことやるか、パートに行く。


 ああ、それでいいのか!
 たしかに、「家にいて母ちゃんが怒ってるより全然いい」よね。
 あまりにも塾通いばかりだと、かわいそうな気もするけれど、親が自分の時間をつくるために、そういう「外注」をするというのも「あり」なのだな、と。
 

 西原さんは、自らの「結婚観」について、こう仰っています。

 結婚って、子供を中学とか高校まで行かせるためだけの契約だと思うんです。契約違反があったときに、養育費を出させて子供が路頭に迷わないようにする。そういう意味じゃなかったら、結婚なんて必要ない。
 まあ、病気になって手術するときの同意書とか生命保険の受け取り人とか、実務上の必要が出てくるときもあるけど、それだって別に籍入ってなくても大丈夫だし。


(中略)


 愛し合っていれば、籍なんか入ってなくても、お互い介護もするし、看取りもするでしょう。逆に、籍入れても20年後にはすっかり嫌になってる可能性もあるよね。


 ほんと、その通りではあるんですよね。
 ただ、僕自身がみてきた経験からは、介護については、愛情の深さよりも、その人の性格によって、介護の向き不向きみたいなものがあって、愛情がなくてもキチンとやる人もいれば、愛情はあるんだけど、やっぱりムリ、という人もいるみたいです。
 しかし、「介護してもらうために籍を入れる」っていうのも、おかしな話ではありますね。
 僕自身は、孤独死でも構わない、とずっと思ってはいるのですが。
 死んでいくときだけ、周りが賑やかでもねえ。


 巻末の「母子座談会」は、西原家の子供たちの気持ちが垣間みられて、なかなか面白かったんですよ。

――マンガに描いたことで子供たちに文句を言われたことってありますか?


西原理恵子全然ないですね。逆に「もっと描いていいよ」とか、そういう感じ。


ガンジ(西原さんの息子さん):「オレをいい性格風に描かないで」っていうのは言った。最近、なんか若干、ぽんちゃん(西原家がアニマルレスキューから引き取った犬)のときとか、いい性格みたいな描かれ方して、それがイヤだったというのがあって。


西原:おばあちゃんのほうが怒るよね。「あんた、こんなこと描いて、みっともない!」って。そしたらガンちゃんが「それでオレら、いいメシ食ってるんだからさ」って、たしなめてくれて(笑)。


 そうか、それならこちらも、安心して読んでいいんだよな、と、これまでの「親子小説」のモデルになった子供と作家との葛藤(椎名誠さんの『岳物語』とか)を知っている僕としては、ちょっとホッとしました。
 しかし、ここまでの割り切りっぷりも、それはそれでたいしたものだな、と。
 

 家族って、何かと「重い」ものではありますが、煮詰まってしまったときに、ちょっとした空気穴みたいなものをあけてくれる本だと思います。
 真似はできなくても、「こんな方法もあるよな」というだけで、少し、周りがみえてくるのです。


生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント (文春新書 868)

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