琥珀色の戯言

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【読書感想】連載終了!少年ジャンプ黄金期の舞台裏 ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
「これ読んでほしい編集者、いっぱいいるわぁ」 森田まさのり(漫画家・『べしゃり暮らし』『ろくでなしBLUES』)
エロスやバイオレンスを描く異端の作家である著者は、ジャンプという少年誌でいかに戦い散ったのか。『北斗の拳原哲夫氏のアシスタントを務め、『ジョジョの奇妙な冒険荒木飛呂彦氏と競合、『メタルK』『ゴッドサイダー』など強烈な作品で異彩を放った作家が初めて明かす、実録奮戦記。


 「巻来功士」「メタルK」「ゴッドサイダー
 これらの言葉に「おお!」と思ったあなた!(そして僕!)は、この作品の良い読者になれるはずです。
 『週刊少年ジャンプ』の全盛期って、僕の小学校高学年から中学生の頃、1980年代前半くらいだったよなあ、あの頃は『北斗の拳』や『キン肉マン』『Dr.スランプ』など、『週刊少年ジャンプ』は、どのマンガもすごく面白くて、読み飛ばすこともなかったし……
 と思いながら調べてみたら、発行部数的には、全盛期は1995年の653万部、だったんですね。
 僕が大人になってから、だったのか。
 1980年代というのは、『ジャンプ』にとっても、日本の漫画界にとっても「ひたすら右肩上がりの時代」だったのでしょうね。
 いまは、紙のマンガ雑誌が売れなくなって、WEB連載になったり、連載された作品も単行本にならなかったりと、マンガ家にとっては、かなりキツい時代になってきています。


 この『連載終了!』にも、巻来先生が「『ジャンプ』にヒット作を連載したマンガ家たちは、みんなポルシェに乗っている」という話を聞いて、自分も車を買ってしまった、という話が出てきます。
 巻来先生は、『ゴッドサイダー』の単行本の印税がかなり入ってきた、と仰っているのですが、『ゴッドサイダー』の連載期間は1年半だったそうで、そのくらいでも『ジャンプ』に載って単行本が出れば、かなりのお金になった時代だったんですね。
 まあ、『週刊少年ジャンプ」だからだろ、と言えばその通りで、当時の少年マンガ家としては「最高の檜舞台」に立っていたわけですし。


 これを読んでいると、北条司先生との因縁とか(巻末の対談で、あれほど絵が上手い人だったのに、編集者がダメ出しをして北条先生に練習をさせていた、という話が出てきたのには驚きました)、荒木飛呂彦先生との「ライバル関係」、あの『ジャンプ』史上最高クラスのトラウマ漫画『メタルK』の誕生および終了秘話など、あの頃の『週刊少年ジャンプ』を知っている人には、たまらない内容です。


 そうか、『メタルK』って、「10週打ち切り」だったのか……
 僕のなかでは、20話か30話は続いたような気がしたんだけどなあ。
 最初の反応は悪かった『メタルK』なのですが、熱烈なファンが多く、人気もかなり上がってきていて、当時の編集部でも、打ち切りにするかどうか、議論になったそうです。
 もし続いていれば、巻来先生のマンガ家人生は、全く違ったものになっていたと思います。
 中学校の同級生と『メタルK』って、すごいよね!って熱く語り合ったのを今でも覚えているんですよね。
 巻来先生のマンガは、一部の人びとに「これは自分のための作品ではないか」と思いこませてしまう不思議な世界観があって、僕たちのあいだでは「硫酸鞭!」が、しばらく流行していました。
 僕にとって、『週刊少年ジャンプ』で、「これは僕のためのマンガではないか」と感じたのは、『メタルK』と『BASTARD!!』だけなんです。


 冒頭で、この作品にとって良い読者というのは「当時」を知っている人だろう、と書きましたが、「本当にマンガ家になろうと思っている人」にとっても、触れておくべき「経験」が詰まっています。
 なかでも、編集者との関係というのは、創作を志す人すべてにとって、参考になるはずです。
 当時の『ジャンプ』の人気連載漫画の多くは、マンガ家と「参謀役」の名物編集者によってつくられていたんですよね。
 ところが、巻来先生は、編集者運がないというか、相乗効果をえられるような、相性の良い編集者との出会いがなかった。うまくいっていても、すぐに担当が交代したこともあったようです。


 いま、あの時代から30年経って、元『週刊少年ジャンプ』編集長の堀江信彦さんと巻来さんが対談したものが、この本の巻末に収録されています。
 読んでいて、「なるほどなあ」と感心することがたくさんある素晴らしい内容ですので、とくに創作志望者は、この巻末対談だけでも(って言うのは失礼な話ですね。この作品もすごく面白いのに)、目を通しておくべきです。

堀江信彦読んでてね、つくづく思ったよ。昔を思い出して「あー、そうだったなあ」「もっと違うことも言ってあげられたのになあ」って。今思えば、巻来君は縦糸の人だったんだ。


巻来功士縦糸?ですか。


堀江:ストーリーラインね。それで漫画にはもう一つ、横糸が必要なんだ。こっちは演出やキャラクター作り。巻来君は縦糸が上手かったんだね。ところが編集者が手助けできる部分も縦糸なんだ。たとえば僕が原作を書くようになったのも、原(哲夫)君が縦糸を欲しかったからなんだ。原君は完璧に横糸の人だから、縦糸が描けない。その分を自分が手伝った。最初口で言ってたのがメモしてあげるようになって、それでメモが原作になって、という経過で原作を書くようになったんだよね。


巻来:そうだったんですね。


堀江:逆に巻来君は明らかに縦糸の人。だから編集者と話していても退屈なんだよ。そこは自分でやれちゃうから。巻来君に必要だったのは横糸情報。「この時、こういう顔じゃなくてさ」とか「女の子、こんなキャラにしてさ」「仕草がこうでさ」とか。そういう事を話せる編集者がもっといたらよかったんだけど。だから編集者のほうも巻来君に対して「自分は必要じゃない」って感じちゃったんだね。「巻来君は自分でやれる人だから」って。それで編集者が何人も変わって、巻来君も孤独をかこってしまった。だから編集者が映画のこととかを話しても、一時的に盛り上がってもそれで終わっちゃう。巻来君自身も知ってるし、見てわかってることだから。


巻来:ああ、本当にそうでしたね。

 これを、30年前の巻来先生に、読ませてあげたい……
 堀江さんは、このあと、「巻来君に必要だったのは、演出家だったんだ」と仰っています。
 人って、大事なことに、気づくべきときに、なかなか気づくことができない。
 ただ、そういう「縦糸が暴走してしまうような人」だったからこそ、『メタルK』のような作品が、たとえ10話だけでも、この世界に生まれてきた、とも言えるのですよね。
 

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