琥珀色の戯言

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【読書感想】アイドル受験戦記 SKE48をやめた私が数学0点から偏差値69の国立大学に入るまで ☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
東進ハイスクール講師・安河内哲也氏推薦!
「人間なんていつだって変われる。ゼロからでもやればできる!」


――その日私は髪を切り、スマホガラケーに替えた。


アイドルグループSKE48の五期生に合格したのは中学三年生の秋だった。
小学生時代から習ったダンスの実力が功を奏し、同期で最初に選抜メンバーいり。
紅白出場も果たして充実した毎日だった。


しかし……忙しくて学校にはほとんどいけない。
悩んだ末に大学進学を決意し、高2の冬にSKEを卒業した。
だが、進級さえ危ぶまれた成績は壊滅的。
髪をバッサリ切り、スマホガラケーに変え、一日十数時間の怒涛の受験勉強が始まった!
だが、高3の6月、模試の数学は0点だった…・・・。
そして迎えたセンター試験
受験は、青春だ!


 なんとなく『ビリギャル』と比較しながら読んでしまいました。
 SKE48という「トップアイドルグループ」に合格し、そこで同期のなかで最初に「選抜メンバー」に入り、将来を期待されていたはずの著者が、アイドルとしての限界を感じ、高2の冬にSKEを卒業してから受験勉強を開始し、名古屋大学経済学部に受かるまでの物語です。


 読んでいて感じるのは、「ああ、菅さんはもともと地頭が良い子で、性格も素直で、家庭環境にも恵まれていたんだな」ということでした。
 サブタイトルに「数学0点」とありますが、これはちょっと「釣り」っぽくて、名大模試という、名古屋大学受験者を対象とした、かなり難易度の高い模試の結果です。
「ビリギャル」に比べたら、基礎学力も高いし、「やりはじめたことは、徹底的にやる」という意志の強さと「物事を基礎から積み上げていくことの大切さを知っている」というアドバンテージが、彼女の成功を生んだのだな、という、とても「わかりやすい受験成功例」なんですよね、これ。


 菅さんが通っていた予備校の井上先生が、彼女の「勝因」をこう分析しています。

 彼女の成功の一番の理由は、本人がちゃんと目標を持って、計画通りにやった。やらなきゃいけないことを焦らずにちゃんとやっていったことですね。どうしてもみんな難しいことをやりたがるんです。でも彼女は暗記だとか、最初の基礎の部分をちゃんとやっているからこそ、後がしっかりと伸びていったんです。

 剣道やダンスのトレーニングで基礎体力がついており、SKEでの経験もふくめて「やるべきことをやっていけば、必ずできる」という自信を持っていたことが、彼女の強み、だったのだろうなあ。
 それは、簡単そうにみえて、本当に「ほとんどの人ができないこと「なんですよね。
 この本のなかで、彼女の成績の経過をみていくと、あまりに順調に伸びていっていることに驚かされます。


 進学校とか、進学塾に通っていた人であれば、「部活を最後まで一生懸命やっていて成績は振るわなかったけれど、引退して勉強をはじめたとたんにすごい伸びをみせ、予想外の『良い大学』に入った人」をひとりやふたり、みてきたはずです。
 受験生には、これを読んで、「自分にもできる!」と頑張ってほしいけれど、率直なところ、僕が受験生のときにこれを読んでいたら、「こんなに何にでも情熱を燃やせるモンスターには、かなわないよなあ」なんてイジけてしまったかもしれません。
 どっちかというと、「ハード性能の違い」みたいなものを見せつけられるのですよね、これを読んでいると。
 もう受験しなくていい大人になってから読むと「がんばれ!」って素直に応援できるのだけれども。
 

 それにしても、「アイドル生活」っていうのは、大変なものなのですね。

 地味な活動ながら、特に大変だったのが、ブログとメールマガジンの更新だ。研究生を含めて全メンバーが書く『Google+』(一日3〜5回)、正規メンバーの『公式ブログ』(一日2〜3回)、選抜メンバーの『アメーバブログ』(一日1回)、メールマガジンの『SKE48 Mail』(一日3通)。これら全部を更新しないといけない。全部合わせると一日十回くらい文章を書かなくてはならないのだ。ノルマは決められていなかったが、応援してもらってるんだからと自分に課した。
 書くネタもかぶったらかっこ悪い。私はステージでのトークは苦手だったけど、じっくり考えて文章を打つのは割と好きだったので、内容にはこだわった。その頃は日々、ブログのネタになるものが何かないか、探しながら生きている状態だった。


 歌やダンスや握手会だけではない、「AKB(アイドル)のお仕事」。
 これはかなり大変ですよね、文章を書くのが苦手な人なら、これだけで気が滅入るのではなかろうか。
 

 これを読んでいると「アイドルという存在の不思議」について、考えてしまうところもあるのです。
 ずっとダンスをやっていて、同期のなかで最初に「選抜入り」して、将来を期待されていたものの、菅さんは「自分のアイドルとしての限界」みたいなものにぶつかってしまいます。

 でも、だんだんと同期の子のポジションが上がってきた。私はそれまで選抜メンバー入り、正規メンバー昇格と周囲から見れば順調すぎるほどの活動だったが、それからは停滞しているなと感じていた。選抜にいる人たちはみな強い個性や魅力を持っていた。ダンスがうまいなんて人はほかにいくらでもいた。ファンに対して、どうして私を応援してくれるんだろう? と思うこともあった。また、他のAKB48グループのメンバーたちと積極的にコミュニケーションを取っているメンバーは、その子たちのブログにも登場するなど、露出する場が広がっていた。私はその点、自分の殻に閉じこもりがちだった。
 今から思えば、仕事をする上でコミュニケーションは本当に大事だと思うのだが、その頃は歌やダンスなど、アイドルとしての技量を磨くことを頑張っていればそれでいいんだという意識だった。


 アイドルは「先行逃げ切り型」だけではない、というか、むしろ「どんどん成長していく子」のほうが頂点に立つこともあるのです。
 菅さんは、高校2年生の時点で「自分のアイドルとしての伸びしろを考えたときに、もう潮時かな、という気持ちが大きくなって」卒業を決意したのです。
 難関のオーディションに合格して、同期でもトップを走っていて、周囲からも期待されていて……
 そんななかで、「自分という人間」をここまで客観的に評価し、SKEから卒業するという決断ができた菅さんは、本当にすごい人だなあ、と。
 同じような立場でも「私は同期のなかでいちばん評価されていたのに」とか「せっかくAKBに入れたのだから」と、過去の栄光に引きずられて、なんとなく芸能活動を続け、気がついたら年ばかり重ねてしまって、人気も出ず……みたいなメンバーって、少なからずいると思うんですよ。
 僕は、菅さんが名大に受かったことよりも、この年齢で「自分の限界や適性」を考え、それに基づいて行動できたことがすごいな、と感心したのです。
 菅さんは、名大に受からなくても、浪人すればもっと高偏差値の大学に受かっただろうし、大学に行かないという選択をしても、なんらかの道で頭角をあらわした人なのだと思います。

 アイドルは顔が可愛ければ売れるわけでもないし、歌やダンスがうまければ売れるというわけでもない。「キャラがいい」という目に見えない曖昧なものだったり、売り出すタイミングだったり、自分ではどこに向かって努力をすべきなのか、はっきりわからないまま、もがく世界なのだ。そこが楽しいところでもあるけれど、でもやっぱりその難しさに苦しんだときもあった。
 それに比べると、受験は結果を出すための方法が「学力を上げること」とはっきりしている。ただ勉強していればいい。そのことがとても恵まれたことだと感じている点だけは、私が他の受験生よりも有利なところだったのかもしれない。

 
 たぶん、菅さんにとってのアイドルって、「自分の人生を探すためのプロセス」だったのだろうなあ。
 でも、そこで「気付いて、切り替えられる人」って、あまりいないはず。
 ほんと、「うまくいきすぎて面白くない!」って、やっかみ半分で、思うような本です。
 菅さん、すごい!

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