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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】香港 中国と向き合う自由都市 ☆☆☆☆


香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)

香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)


Kindle版もあります。

香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)

香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)

内容紹介
2014年秋、大都市の中心街を市民が79日間も占拠した香港の雨傘運動。この選挙民主化要求は、軟着陸した中国返還後、金融危機で逆転した経済の「中国化」への猛反発だった。一国二制度の成功例「ノンポリ国際都市」は、なぜ政治に目覚め、何を求めるのか。日本と香港の気鋭が歴史背景と現代文化から緻密に解説する。


 1997年にイギリスから香港に返還された香港。
 僕は10年くらい前に一度行ったことがあるのですが、とにかく人と車が多くて、賑やかなところだなあ、という印象でした。まだ開園したばかりの香港ディズニーランドに行ったら、新しいアトラクションは2時間半待ち!「東京ディズニーランドが、世界で一番混んでいるディズニーランド」じゃなかったのかよ……
 ご飯はすごくおいしかったのですが、それなりに値が張ったこともありますし、ショッピングにあまり興味がない僕としては、夜景とブルース・リーの像の印象だけが残っている感じです。

 一体、香港とは何なのか。
 この問いに対するもっともシンプルな回答は、「香港は中国の一部である」ということになる。香港は中国南部沿海部にあり、広東省の一部と位置づけられてきた。1840〜42年のアヘン戦争以来、香港は初めて「イギリスの一部」になったが、1997年の返還が中国、あるいは香港でも「回帰」と称されるように
、今や香港は名実ともに中国の一部へと戻った。センサスによれば、香港の人口の9割以上が「華人」である。街には漢字の看板があふれ、最高峰の中華料理を楽しめる。香港カンフー映画のヒーロー、ブルース・リーの決め台詞は「中国人は東亜の病人ではない!」であり、歴史問題では日本に抗議し、尖閣諸島は中国のものだと主張して船を出す。土地・歴史・人の角度から見て、香港は中国の一部のようだ。
 しかし、香港は明らかに中国とは異なる多くの特徴も持っている。中国の政治や社会に関して言われている様々な形容詞が、およそ香港には当てはまらないのだ。中国は共産党の一党支配体制であるが、香港政府内には(公式には)中国共産党が存在しない。人民日報や中央電視台はもちろん、あらゆる大陸のメディアは香港にほとんど入ってきていない。海外情報へのネット接続に制限はなく、中国政府への批判も問題なく報じられ、野党が政府への攻撃を繰り返す。共産党の統治の仕組みや、大陸での人々の管理を論じるような、中国政府や中国社会の優れた教科書を読んでも、香港を理解することは全くできない。


 中国に返還されてから、もう20年。
 「一国二制度」を維持しつつも、香港への中国の影響力は、確実に高まってきています。
 というか、返還時にはすでに「先進国化」されていた香港と、近年「世界の工場」として、急速な経済成長を続けてきた中国のパワーバランスは、大きく変わってきているのです。


 1980年代、香港の経済規模は中国の10%以上を占め、ピークの1993年には21.4%まで上昇していました。
 あの狭い地域だけで、広い中国全体の2割もあったのです。
 ところが、中国の経済成長により、2014年には2.8%と、3%を切るまでになってしまいました。
 21世紀のはじめ、SARSの流行もあり、香港が経済危機に陥ったときには、中国は「人やモノの自由化」で、停滞していた香港をサポートしています。
 「民主はないが、自由はある」と称される香港は、返還後、少なくとも経済的には「中国と切り離せない関係」になっています。
 しかし、2.8%とはいえ、香港の経済規模は、かなり大きいのですよね。

 中国は2009年、日本を抜いて世界第2位の経済規模に達した。香港のGDPは2014年のデータが存在する172の国・地域のうち37位であり、エジプトやフィリピン、フィンランドパキスタンなどを上回る。経済規模だけを見れば、香港はどちらかと言えば「大国」の範疇に入ると言える。当然ながら、中国の0.5%の人口しかない香港の1人あたりGDPは、中国の5倍以上となる。

 香港って、エジプトやフィリピンよりも、経済規模が上なのか……
 

 急速に「中国化」している経済と、「民主化」を求める人々と。
 なんのかんの言っても、中国の他の地域と比べると、現時点では圧倒的に「自由」ではあるだけに、香港は今後、難しい舵取りを求められていくはずです。
 このままの体制でいくのか、中国共産党の支配を直接受ける「中国の一部」になっていくのか。
 あるいは、民主化をすすめて「自治」を志向していくのか。
 経済的には中国と切り離せないけれど、政治的には、「中国化」は避けたい。
 自分たちで選んだ代表が政治をやれるようにしたいけれど、それは中国共産党には認めてもらえない。


 この新書で興味深かったのは、日本と香港の人が半分ずつ書いているところです。
 とくに後半の「雨傘運動」について、現地で実際に参加した人からみたこの運動が語られています。
 同じ「雨傘運動」に含められていても、2つの大きな拠点があって、「メディア戦略」を重視した穏健派インテリ層の拠点であった金鐘区と、武闘派というか、「混乱とカオスと猥雑の場所」で、多彩な層の人々が集まっていた「旺角」に分かれていたのです。
 メディアでよく採りあげられたのは「西洋的・芸術的・平和的」な金鐘区のほうでした。
 同じ「民主化」を旗印にしていても、この2か所の雰囲気はかなり異なっていたのです。
 明らかに反目しあっていた、ということではなさそうですが、お互いに、なんとなく肌が合わない雰囲気ではあったみたいです。
 目的が同じだからといって、人は「仲間」になれるとはかぎらない。


 いまの香港では、ジャッキー・チェンについてこんな見方をしているそうです。

 ジャッキー・チェンは若い世代には、とうに忘れられているか、おそらくは一番の嫌われ者だろう。プライドを捨てて中国共産党に自分を売った、女性スキャンダルが絶えない……。

 ブルース・リーは、いまでも「香港の代表的人物」として慕われているそうですが、ブルース・リーがもし長生きしていたら、いまの香港と中国で、どういう立場をとっていただろうか、などと考えてしまうところもありますね。
 

 さらなる民主化と自由の維持を求める香港と、「中国の一部」だとみなしている中国共産党と。
 いつまで、香港は、香港らしくいられるのでしょうか。
 というか、僕の記憶とかイメージにある香港とは、すでに、かなり違ってきているのだろうけど。