琥珀色の戯言

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【読書感想】悩みどころと逃げどころ ☆☆☆☆


悩みどころと逃げどころ (小学館新書 ち 3-1)

悩みどころと逃げどころ (小学館新書 ち 3-1)


Kindle版もあります。

内容紹介
ちきりん、ウメハラ流「いい人生」の探し方


月間200万ページビューの社会派ブロガーちきりん氏と、世界一のプロゲーマー梅原大吾氏の異色人生対談。「梅原さんは学校が嫌いで、授業中は寝てばかりいたという。それなのに私の周りにいる、一流大学を出た誰よりも考える力が凄い。いったいどこで学んだの? 学校の役割って何なんだろう……」。そんな、ちきりん氏の疑問から始まったこの対談は、「いい人生の探し方」にまで発展しました。
小さい頃からゲームという“人生で唯一無二のもの”に出あいながらも、「自分の進む道はこれでいいのか?」と悩み続けた梅原氏。一方、いわゆる“エリートコース”を自分から降りたちきりん氏は「頑張って、頑張って、それでもダメだったら、自分の居場所を探すために“逃げる”のも幸せをつかむ方法」と言う。立ち位置も考え方もまったく違う二人が、足かけ4年、100時間にもわたって語り合い、考え抜いた人生談義。学校で真面目に勉強してきたのに競争社会で行き詰まっている人、やりたいことが見つからなくて悩んでいる人必読! 今日から人生が変わります!


 「内容紹介」に書かれているような「今日から人生が変わります!」ってことは無いとは思うのですが、「社会派ブロガー」ちきりんさんと、「世界一のプロゲーマー」梅原大吾さんが「学校教育」や「幸福」について語り合ったものを収録した新書です。
 梅原さんをことあるごとに採り上げ、「ウメハラ・ブーム」の立役者でもある、ちきりんさんとの対談ということで、もっと歯が浮くようなヨイショの嵐になるのかと思いきや、梅原さんは梅原さんの「うちらの世界」についてキチンと話しておられているのが印象的でした。
 このふたり、なんと100時間にわたって話をしたそうで、人気作家を二人読んできて、適当に話をしてライターさんがチャチャっとまとめたような対談本が少なくないなかで(それはそれで、雑な感じが愉しい、という場合もありはするのですが)、よくここまでこだわった対談本をつくったものです。


 高学歴、高職歴、でも今はあんまり「突き詰めるような努力」はせずに、ゆるく生きていきたい、というちきりんさん。
 学校の授業はずっと眠気との戦いで、成績が良かったわけでもない。そんななか、「格闘ゲーム」という「天職」を極めることによって、自分の道を切り開いた「成長中毒者」の梅原さん。
 こういう対談って、本来は、両者の価値観が違い過ぎて、なかなか形になりにくいものだと思います。
 ところが、ちきりんさんは、これを「融和」させようとするのではなくて、お互いが交わらないところを、そのまま文章にして提示しているのです。


 学校教育について、「良い子として学校教育に従って、『いい会社』に入ったのに、そこで行き詰まってしまった人」をみてきたちきりんさんは、「だから、本当に学校教育に意味があるか問い直す時期なのではないか?」と考えておられます。
 ちきりんさん自身は「学歴・職歴エリート」なのだけれど、そのなかで、たくさんの「レースについていけなくなって、リタイアする人」をみてきたのです。
 そして、「みんながこのマラソンに参加しなければならない、という同調圧力」への反発を感じ続けていた。


 そのちきりんさんに対して、「非学歴エリート」の梅原さんは、こんな話をしています。

ウメハラちきりんさんは自分に学歴があるから気がつかないんですよ。僕がいた世界では、バイトでさえ学歴で人を判断する人が多くて、それが本当に屈辱的でした。


ちきりん:バイトで学歴差別があったってこと? 信じられないんだけど。


ウメハラありますよ。それがほんとに厳しいんです。こんなに差別されるって知ってたら、オレも勉強して大学へ行ったのにって思うくらいに。


ちきりん:私も大学時代は居酒屋とかコンビニとか、あちこちでバイトしました。バイト仲間には高卒の子もいたけど、私のほうがいい仕事をさせてもらったとか、優遇されたという記憶もないので、いまいちピンときません。厳しく怒られもしたし……。


ウメハラ厳しくされるのと見下されるのは全然違うんです。しかも面と向かって言われるならまだいい。直接バカにされるなら、「なんだと、この野郎」って言えるから。でもそうじゃない。口調とか態度みたいな、醸し出す空気で見下すんです。


ちきりん:そうなんだ……。心の中で見下してるから、それが態度に表れるってことね? 確かに私はそんなふうに見下された経験はないかも。


ウメハラたとえばレジからお金がなくなった時、学歴のない奴が真っ先に疑われるんですよ。わかります?


ちきりん:あ〜、そういうのがあるんだ!


ウメハラ本社まで呼ばれましたからね。「レジ触った?」「監視カメラつけてるから、調べりゃわかるんだよ」とまで言われて。


ちきりん:それは頭にきますね、確かに。
 で、そういう経験が積み重なると、「やっぱり中卒だから、高卒だからバカにされるんだ。大学ぐらいは出といたほうがいいよ。今の世の中では」っていうアドバイスになるんですね?


「厳しくされるのと見下されるのは全然違う」か……
 僕も学歴に関しては、どちらかといえば、ちきりんさん側に属するので(ただし、業界内の集まりでは、もっと学歴の高い人たちに「あ〜○○大学ね。そういえば、そんなところもありましたね」なんて、軽く見下されることもたまにあります)、「そんな学歴差別なんて、今でもあるのか?」と驚いてしまいました。
 以前読んだ本のなかで、エリート集団である『フェイスブック』という会社は、みんなが意見を出し合い、さまざまな部門での人の交流もある、リベラルな企業であることが紹介されていたのです。
 ただし、フェイスブックの問題点は、「社員の同質化」だとも書かれていました。
 自分に見えている世界というのは、自分の立場から見えるものでしかない。
 
 

ウメハラサラリーマン全員が満足してるかどうか僕は知らないし、きっとストレスを抱えたり大変なんだと思いますけど、でもね、それよりももっと悲惨な世界が現実にあるってことなんです。
 会社でどんなに仕事が大変でも、少なくとも惨めではないでしょ? 僕は自分自身、そういう悲惨な世界をはいずり回っていた時代があるし、周りにもそういう人が多いから、そのつらさが身にしみてわかるんですよ。


ちきりん:確かに、それは私にはまったくわからない世界です。一流大学の卒業証書を持ってることがどれだけ有利かは理解しているつもりだけど、それがなかった時、たとえ実力があってもどれほど大変か、どれだけ惨めな思いをするのか、実感としてわからない。


 それは、ちきりんさんも「わからない」だろうと思うし、それをちゃんと「私にはまったくわからない世界だ」と答えたのは、誠実さゆえなのだと僕は感じました。
 これを「想像はできる」とか言ってしまうのは、嘘だから。
 「こちら側」からすれば、「でも、君たちは夏の間、僕たちが汗水たらして働いて食糧を貯めているのを横目に、歌って踊って遊びほうけていたじゃないか!」と反論したい衝動にも駆られます。
 この対談って、「和気あいあい」ではなくて、こういう「ちょっとCMに行ったほうが良いのでは……」という緊張感あふれる瞬間がところどころにあるんですよね。
 

 梅原さんは、ゲームの世界での日本人とアメリカ人の「質問力」の差について、こんな話をされています。

ちきりん:たとえばどう違うの?


ウメハラ「あなたの動画を見てると、この部分の動きが他のプレイヤーより非効率に思える。それなのにあなたが一番、勝ってる。ウメハラさんが一見非効率に見える動きをするのはなぜですか? やっぱりそこに強さの秘密があるんですか? それとも単に好みの問題ですか?」みたいに、アメリカ人の質問は感心するほど具体的だし、深いんです。
 ところが日本人の質問は、「僕は思うように勝てません。どうすれば勝てるようになりますか?」みたいな質問ばかり。格闘ゲーム自体は、日本のほうがレベルが高いのに。


 梅原さんは、この違いが生まれる理由として、日本の学校教育で「誰かに答えを与えてもらおうとする前に、自分で考える訓練」が行われていないからではないか、と仰っています。
 もちろん、全然それが行われていないというわけではなく、最近では日本でも「自分で考える力を伸ばそうという取り組み」も行われてきているようではあるのですが。


 梅原さんは、ゲームの大会などでアラブ諸国に行き、大富豪の豪邸に招待されることがあるそうなのですが、どんなにすごい家でも、羨ましいと感じることはないのだとか。

ウメハラだって彼らは一生、なんの努力をする必要もないんですよ。
 僕が生きる喜びを感じられるのは、考えたり努力したり、なにより成長する機会が得られてるからです。なんとか一歩でも前に進まないといけない。そういう状況が楽しさの源だから、大成功してすべてが手に入って、「毎日遊んで暮らしてください」って言われたら、まったくいい人生じゃない。


ちきりん:ウメハラさんってほんとーに、成長オタクですよね。


 それにしても、「何が人間にとって幸せなのか?』というのは、本当に難しい。
 いや、万人に共通する解などはそもそも存在しないのでしょうけど、「自分にとっては何が幸せなのか?」と言い換えても、僕にはうまく言葉にできない。
 むしろ、言葉にしてしまうと、「本当にそれでいいのか?」と、また考えはじめてしまうのです。
 梅原さんも「ほんとーに成長オタク」なんだけれど、その成長への飽くなき探究心は、ゲームというジャンルには向けられたものの、勉強のほうには向かなかった。
 僕が知っている「世界的権威」たちは、「この人は、ほかのジャンルに進んでいても、名前を遺していただろうな」と思うので、「何をやっても凄いであろう人」と「特定のジャンルに関しての適性が並外れている人」がいるのでしょうね。
 

 多くの人は、ちきりんさんと梅原さんのあいだに位置しながら生きていると思います。
 そして、なんとなく勉強して、受かった学校に行き、採用してくれたところに就職して……
 それでは満足できない、という人、あるいは、もしかしたら自分には他の可能性があるのではないか、と考えている人は、この本を手にとってみると良いかもしれません。