琥珀色の戯言

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【読書感想】1行バカ売れ ☆☆☆☆


1行バカ売れ (角川新書)

1行バカ売れ (角川新書)


Kindle版もあります。

1行バカ売れ (角川新書)

1行バカ売れ (角川新書)

内容(「BOOK」データベースより)
大ヒットや大行列は、たった1行の言葉から生まれることがある。様々なヒット事例を分析しながら、人とお金が集まるキャッチコピーの法則や型を紹介。「結果につながる」言葉の書き方をコピーライターの著者が伝授する。


 大ヒットを生み出した、「たった1行の言葉のちから」。
 この新書は「コピーライティング入門」という内容ではなく、「最近のメディアやネットで話題になった、優秀なコピーを集めたもの」なのです。
 でも、こうして多数の例に触れてみる、というのが、実は、上手いキャッチコピーを書くための、一番の近道であるような気もします。


 著者は、ネット社会になって、これまでよりもさらに、ひとりの人間が受け取る情報量が増えたことを指摘しています。「諸説ありますが、現在の私たちが1日に受けとる情報量は、江戸時代の人間の一生分だと言われている」そうです。
 たしかに、そのくらいはあるかもしれません。
 僕が子供だった頃、いまから40年近く前、まだテレビをリモコンではなく、手で回していた時代には「暇だなあ」と思うことがあったけれど、今はそんなふうに感じることって、無いものなあ。
 こちらから能動的に「情報」を求めていけば、いくらでも湧き出てくるというのは、便利でもあり、圧倒されてしまうところもあり。
 昔は、プロ野球の贔屓のチームの途中経過を知るために、観たくもない巨人戦を眺めている、なんてことをやっていたんですよね。

 そんな中、すべての情報を記憶にとどめるのは不可能です。ほとんどの情報は受けとってもスルーしてしまいます。
 あなたが書く「企画書」「チラシ」「POP」「メール」などの言葉や、「営業」「プレゼン」「会議」などでの発言がスルーされてしまうのも仕方ないかもしれません。
 では、どうすれば、あなたの文章や発言は、スルーされないようになるのでしょう?
 シンプルだけど大切な、キャッチコピーに関するたった1つの大原則をお伝えします。
 それは、
 受け手に「自分と関係がある」と思ってもらう
 ということです。


 言われてみると「当たり前」の話、なのかもしれませんが、「発信側」にいると、つい、「こちら側の事情や都合」を押し付けてしまいがちになるんですよね。
 相手にとっては「自分に関係があるか」「自分にとって楽しいか、役に立つか」が、その情報に反応するかどうかの分かれ目で、相手の事情なんて、どうでも良いことなのに。
 

 自分ごとにしてもらうための5W
 W1 ニュースを知らせる
 W2 得することを提示する
 W3 欲望を刺激する
 W4 恐怖と不安でやさしく脅す
 W5 信用を売りにつなげる


 以上の5つの「What to say」(5W)で訴求すれば、人は「自分と関係がある」と思いやすくなり、その情報をスルーできなくなるのです。


 この「5W」の具体的な事例を知りたい方は、実際に読んでいただくのが手っ取り早いと思います。
 キャッチコピーの世界では「センス」みたいなものがもてはやされるイメージがありますが、それはあくまでも、こういう「公式」を踏まえたうえで、ということなんですよね。
 「会心の1行」は、ロジックと試行錯誤の賜物なのです。


 この本のなかで、「ジャパネットたかた」が、テレビショッピングで、「働くお母さん」向けにボイスレコーダーをたくさん売ったときのエピソードが紹介されています。

 自分が働くお母さんの立場になって聞いてみてくださいね。
「お母さんがまだ会社で働いているあいだにお子さんは学校から帰ってきますね。お母さんがいなくてちょっとさびしい。
 でもボイスレコーダーにこんなメッセージが吹き込まれていたらどうでしょう? ○○ちゃん、お帰りなさい。お母さん、まだ会社だけど、おやつは冷蔵庫に入っているからね。宿題は早めにちゃんとやってね。
 ……どうですか? こんなお母さんの声を聞いたら、お子さんは喜びます。さびしさも少しやわらぎます」
 自分が働くお母さんの立場になって聞いてみると「なるほどそんな使い方があるんだ」と改めて思ったのではないでしょうか?
 実際、この放送は大反響を呼び、ボイスレコーダーはバカ売れしました。
 通常、このような商品を売る場合は、録音時間や音のクリア度など機能やスペックを訴えることが普通です。しかし、お客さんは機能やスペックではなく「その商品を買ったら、自分の生活にどんないいことがあるか」に興味があったのですね。
 現在、ジャパネットたかたでは、このボイスレコーダーをシニア向けに売っています。
 物忘れが多くなった人に向けて、用事をボイスレコーダーに吹き込んでおけば「忘れるというトラブル」を防ぐことができますよ、という提案です。
 この新しい提案によってボイスレコーダーは、今まで需要がなかったシニア層からの注文が殺到したと言います。


 「ボイスレコーダー」なんて、インタビューを仕事にしている人とか、会議を記録するときくらいにしか、使えないような気がしていました。
 それなら、自分には必要のないものだな、と。
 であれば、スペックがどんなに高くても、関係ない。
 売る側も、「必要なひと向けに、高スペックをアピールしよう」としていた。
 ところが、「ジャパネットたかた」は、「新しい使い方」と「こうして使うと、生活が変わりますよ」と視聴者に伝えたのです。
 ああ、こういうのはまさに「自分に関係があると思ってもらう」ことだよなあ、と。
 本の紹介とかでも、そうですよね。
 多くの人は「良い本」だから買うのではなくて、「自分にとって役に立つ、あるいは愉しめそうな本」だから買うのです。


 この本で紹介されている、数々のキャッチコピーをみていると、なんだか当時のことを思い出します。

 いつかはクラウン(1983年)

 モノより思い出(日産セレナ・1999年)

 この2台の車と、それぞれのキャッチコピーを並べてみるだけでも、「お父さんたちがクラウンを目指していた」1980年代前半の日本と、「バブルが崩壊し、モノの価値が見直された時代」だった20世紀の終わりの雰囲気が、それぞれ伝わってきます。


 キャッチコピーをたくさん見れば、自分でも書けるようになる、というほど簡単なものではないのでしょうが、こういうのって、仕事のプレゼンの見出しや、ブログのタイトルとかにも使えるはずです。
 一度読んでおくと、思いがけないところで効いてくる、そんな本だと思います。