琥珀色の戯言

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【読書感想】いまさら翼といわれても ☆☆☆☆

いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても


Kindle版もあります。

内容紹介
「大人」になるため、挑まなければいけない謎。待望の〈古典部〉最新作!


累計205万部突破の〈古典部〉シリーズ最新作!
誰もが「大人」になるため、挑まなければいけない謎がある――『満願』『王とサーカス』の著者による、不動のベスト青春ミステリ!


神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。
夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘――折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは?(表題作)


時間は進む、わかっているはずなのに。
奉太郎、える、里志、摩耶花――〈古典部〉4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。


 米澤穂信さんの「古典部」シリーズって、もっとこう、気楽な読み物だったような……
 と思いつつも、僕はこの『いまさら翼といわれても』に、今回も引き込まれてしまいました。
 『遠まわりする雛』を読んで、まあ、高校時代の人間関係はさておき、「階層」みたいなものが人を縛るというのもまた、「事実」ではあるものな……と、僕はこの「古典部シリーズ」の「終わり」に思いを馳せていたのです。
 千反田えるさんと折木奉太郎の微妙な関係。
 たぶん、交わることはないであろう、そしてそれをお互いが淡く察知しているような空気。
 人が死ぬわけではないし、ミステリとしては、そんなに「すごい謎解き」ではないと思うのです。
 でも、この「古典部シリーズ」には、高校生くらいで人間が遭遇する「もつれ」とか「迷い」とかが満ちていて、米澤さんは、登場人物を動かして、「じゃあ、お前ならどうするんだ?」と、読者に問いかけてきます。
 「謎解き」に答えはあるんだけれど、それ以上に、それをどう受け止め、どんなふうに振る舞うのかが、この短編集の「重み」になっているのです。
 ミステリとしては、読者には十分な情報が与えられているとは言いがたい、「一本道RPG」みたいなんですよ。
 でも、古典部の4人のこれから、というのが、この作品の最も大きな不確定要素であり、この『いまさら翼といわれても』を読んだ時点では、それを見届けたいという気持ちと、もうこのまま、四人の高校生活をゆるやかに、時間をゆっくりゆっくり進めながらみていくだけでいいんじゃないかな、という気持ちが入り混じっています。


 これまでずっと「せつない終わり」を僕はこのシリーズに予想してきたけれど、この『いまさら翼といわれても』には、「違うエンディングの可能性」を感じたんですよね。
 ずっと読んできた人は、みんなそう思ったのではなかろうか。
 そしてそれは、「世の中そんなに甘くない」とか、折木奉太郎千反田えるに軽く嫉妬していた僕にとっても、予想外に「彼らの未来が明るいといいなあ」という気持ちをもたらしたのです。
 『わたしたちの伝説の一冊』は、奉太郎の『走れメロス』の感想文も面白かったのですが、米澤穂信さんの「創作」に対する向き合いかた、が感じられて興味深いものでした(もちろん、作中のキャラクタ—の意見=作者の意見、じゃないことも多いけれど)。
 気配りや優しさだと思っていたものは、単なる「甘さ」なのかもしれない。


 個人的には『長い休日』がいちばん印象的だったのです。
 いろんな意味で、このシリーズの「転換点」になる短編ではないかと。
 これも「ミステリ」というよりは、きわめて「青春小説的」であり、本来なら僕の守備範囲外のはず、なんですが、なんだかとても心地よい「息吹」みたいなものが伝わってきたのです。
 そして、『いまさら翼といわれても』という流れだものなあ。


 この先を知りたい、でも、ここで終わったほうが、「幸福な作品」になれるかもしれない。
 このシリーズ、万が一ハッピーエンドになったらなったで、「それはちょっと違うんじゃないか」とか僕は思ってしまいそうなんですよ。ややこしい読者ですよね本当に。
 

氷菓<「古典部」シリーズ> (角川文庫)

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