琥珀色の戯言

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【読書感想】池上彰の君たちと考えるこれからのこと ☆☆☆☆

池上彰の君たちと考えるこれからのこと

池上彰の君たちと考えるこれからのこと

内容紹介
日経新聞本紙朝刊の大人気連載「池上彰の大岡山通信 若者たちへ」の書籍化第二弾!


本書は、池上氏が東京工業大学で講義を持ち、大学生に現代史やニュースの解説をするなかで、新たに感じたこと、東工大生(や、彼らと同年代の若者たち)へ伝えたいメッセージなどを記した一冊です。
18歳選挙権引き下げ、パリのテロ事件、ヨーロッパの難民問題、東芝の不祥事、安保法制……など、さまざまな時事ニュースを足がかりに、私たちはなにを考えるべきか、どう考えたらよいかについて、思いをつづります。


 池上彰さんが日本経済新聞に連載中の「大岡山通信 若者たちへ」を単行本にしたものです。
 そのタイトルどおり、いまも東京工業大学の特命教授として学生たちに講義をされている池上さんが、若者たちに向けたメッセージ色が強い内容になっています。
 この本のなかで、池上さんは「民主主義」について、多くのページを割いているのです。
 いまの日本で生活している僕には、「民主主義」は、「たぶんここにあるものなのだろうけれど、これが本当に正しい『民主主義』なのかどうか?」って、いう、フワッとした感覚があるんですよね。
 もちろん、専制政治を望んでいる、というわけではないのだけれど。
 

 そもそも、「民」の力で、何かが変わるのだろうか?

 続いて、若者たちの政治参加に対する意識について質問してみました。
 さきほどの質問で、学生たちは「どの政治家に、どの政党に投票をすればよいのか」という悩みをもっていることが明らかになりました。そこで、参考にひとつデータをご紹介します。日本青少年研究所が2009年に発表した、日本、アメリカ、中国、韓国の高校生に実施した意識調査です。
 政治体制は異なりますが、設問のなかに、「私個人の力では政府の決定に影響を与えられない」と思うかどうかという問いかけがありました。
「全くそう思う」「まあそう思う」と答えた高校生は、日本の80.7%に対し、韓国55.2%、中国43.8%、アメリカ42.9%という結果でした。どうやら、日本の高校生たちは、ほかの国々にくらべて「政治に対する無力感」と感じているのかもしれませんね。


 では、教室の諸君はどうだろう。
「私個人の力が政府の決定に影響を与えられない」という問いについて、「全くそう思う」「まあそう思う」という人は挙手をお願いします。8割くらいでしょうか。
 では「そう思わない」という人は。2割くらい。調査結果と同じようですね。


 このあと、池上さんは教室の学生たちと、「本当に個人の力で政治は変わらないのか?」と討論していくのです。
 僕も「個人の力で政治は変わらない」というか、「いまの日本の政治が『良い』とは思えないのだけれど、他の選択肢も思い浮かばない」のですよね。
 このアンケート結果をみると、中国のような、日本よりもはるかに個人の力で政治を動かすのが難しそうな国の若者のほうが、日本よりもはりかに「変革の可能性」を信じているのが意外でした。
 もしかしたら、日本の若者たちは、諦めているというより、「そんなに変わらなくてもいい」と考えているのだろうか。


 池上さんは、こんなデータを紹介しているんですけどね。

投票行動によって世の中は変わらない」という考え方がある一方で、得票数を検証すると、意外な結果が見えてきます。
 たとえば2012年の衆院選民主党から自民党政権交代が起きたときです。得票数を調べたところ、自民党はその前の2009年の衆院選より票を減らしていたのです。ただ、民主党の得票数がもっと減ったことで政権交代が起きました。自民党が大勝し、民主党が大敗したイメージがありますが、実際は、愛想を尽かした有権者が投票に行かなかったことで政権交代が起きたともいえるのです。
 つまり、投票しないことで結果が大きく替わることがあります。「小選挙区比例代表並立制」の下では、数%の票数が増減するだけで、獲得議席数が大きく替わってしまうのです.投票してもしなくても、結果は変わらないと思うかもしれませんが、実際に、わずかな有権者の行動変化でも政権交代が起きたのです。「自分の1票で政治は変わらない」と思うのは、実態と異なるのではないでしょうか。


 これはまさに池上さんが指摘している通りなのです。
 ただ、選挙の結果は変わるとしても、「誰がやっても似たようなものなら、慣れている人がやったほうがマシなんじゃない」とも思うんですよね。
 民主党政権は、かなり失点が多かったので。


 そもそも、「民主主義」は、そんなにシンプルなものではないのです。

 大岡山キャンパスで東京工業大学の学生に「世の中の仕組み」を講義してきた私としては、「民主主義とは何か」を学生に考えてもらう絶好の機会ととらえることもできます。
 とはいえ、講義は苦汁に満ちたものになりそうです。なぜか。私たちが考える「民主主義」は、人により、まったく異なるものだからです。
「民主主義とは多数決で決まること」と考えれば、衆議院自民党公明党の与党が圧倒的多数を占めているのですから、採決すれば可決されるのは当たり前のことです。多数決で物事を決めていかなければ、何も決められません。「決められない政治」と批判を受けてしまいます。
 安倍政権にしてみれば、自分たちは衆議院総選挙で勝った立場。選挙中、国民に支持を訴えた安全保障についての政策を実行に移しているだけ。これぞ民主主義のルールだ、と言うつもりでしょう。
 一方、「民主主義とは熟議を尽くして一致点を見つける過程」と考えれば、質疑を打ち切って採決に持ち込んでしまうのは、「強行」という評価になります。
 まして安倍政権は、2014年12月の衆議院総選挙で「アベノミクスの評価を問う」と主張。経済政策の是非を前面に出して選挙戦を戦ったのであり、安保関連法案に国民が全面的な支持を与えたわけではない、という反論も可能です。
 しかし、安倍政権は、選挙で国民が自民党を勝たせたことで誕生しました。「私は国民から選ばれた総理大臣だ。私の言うことを聞きなさい」と言いたくもなろうというもの。


 どちらも、それなりに理屈は通っていて、どちらかが正しい、とは言いきれない。
 結局のところ「民主主義とは何か」という定義も曖昧なまま、多くの人が「自分にとって都合のよい民主主義」を信じているのです。


 池上さんは、自らの情報収集法も紹介しています。

 たとえば毎朝、全国紙と地方紙など計8紙に目を通します。昨日、何が起きたのか、各紙がどんな視点で記事を載せているのかを確認するためです。でも、時間は20分程度。そこで終わらず、毎晩1時間程度、気になった朝刊の記事を読み直します。重要な記事は切り抜いて、テーマごとに保存しています。
 世の中の情報の変化を知るためには、視点の軸になる情報源が欠かせません。毎日この作業を続けることが大切だと考えています。
 新聞のよさは、政治や経済、国際など分野ごとに紙面の一覧性があることです。各紙の編集方針があるので、同じニュースでも扱い方が異なっていたり、これまで知らなかった問題について気づかせてくれたりします。同じページに、別の重要なニュースを発見できる魅力があります。


 1日単位では、そんなものすごいことをやっているわけではないのですが、これを休まずに毎日続けるというのは、本当にすごいことです。
 そして、ひとつのニュースに対して、その伝え方のメディアによる違いを確認する、というのも、「伝える側」である池上さんにとっては大事なのでしょう。


 ちなみに、ネットも積極的に活用されているそうですが、ネットでの情報収集での注意点について、こう仰っています。

 ただし、ネットの活用には注意も必要です。知りたいキーワードやテーマに関する情報をたくさん、早く集められるという点は素晴らしいのですが、入手できる情報が偏ってしまう落とし穴があることを知っておいてほしいと思います。
 たとえば、2011年の東日本大震災で起きた、東京電力福島第1原子力発電所の事故のようなケースを想像してください。
 事故の影響が心配になって、ネットで「原発 危険」と検索すると、健康被害を及ぼすおそれがある放射線に関する情報を、瞬時に集めることができます。一方で、「原発 安全」と検索すれば、心配しすぎる必要はないという情報が、これまた大量に集まります。キーワード次第で、集まる情報が決まってしまうのです。
 つまり、ネット検索の威力を過信してしまうと、特定の情報を集めたいと考えている人にとっての反対意見を見落としてしまうおそれがあるのです。この点、新聞は反対意見や別の視点も提供してくれる場合が多いので、読みくらべることによって情報の偏りを妨げるというよさがあります。


 ネットは便利で、自分が知りたいことを教えてくれる。
 ただし、「知りたいことを教えてくれる」というのは、「知りたくないことは、教えてくれない」とも言えるんですよね。
 どんな言葉で検索するかで、引き出せる情報は、かなり異なったものになるのです。


 いまの世の中を生きていくための「最低限、知っておいたほうが良いこと」が、かなりわかりやすく、読みやすく書かれています。
 高校生から大学生くらいに、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。

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