琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】「分かりやすい表現」の技術 ☆☆☆☆

出版社/著者からの内容紹介
マニュアルはなぜ分かりにくいのか?
右か左か迷わせる交通標識。庶民には理解不能な法律条文。
初心者にはチンプンカンプンのマニュアル。
何が言いたいのか分からない上司の話……。
世の中にあふれる「分かりにくい表現」の犯人をつきとめ、すっと分かってもらえる「情報発信のルール」を考える!


「定番ベストセラーシリーズ 55万部突破!』というオビを書店で見かけて購入。
家で1999年3月が初版であったことを確認し、「ちょっと古い本買っちゃったかな……」と思ったのですが、さすがに「定番」と呼ばれるものだけのことはありました。


 この本では、「プレゼンテーションの達人」である著者が、「他の人にわかりやすくするためのコツ」を「16のルール」として説明しています。
 もう10年以上前に書かれた本なので、例に出てくる「分かりにくい表示」なんて、もう過去のものかと思いきや、「ああ、こんな標識やスライド、たくさんあるよなあ……」と納得してしまいました。
 家電のマニュアルなどは最近はだいぶ改善されているように思われるのですが、Webサイトのトップページのデザインやナビゲーションなんて、「1クリックで行けるのだから」と、かえってトップページにゴチャゴチャといろんな要素を並べがちです。
 僕も仕事でプレゼンテーションをする機会があるのですが、この本を読んで、色やフォントの大きさを変えたり、区切りの線を1本加えたりするだけで、「分かりやすさ」は大きく違ってくるのだなあ、と思い知らされました。

 前の章で「分かる」とは、情報が脳内整理棚に入れられることだとお話ししました。情報の受け手は、受けた情報を自分で整理して、整理棚にしまいます。「分かる」ためには整理という作業をしなくてはなりません。
 問題は誰がこの作業を負担するかです。「送り手」対『受け手」の比率を8対2にするのか、5対5にするのか、あるいは3対7にするのかによって、その表現に「親切」と「不親切」すなわち「分かりやすい表現」と「分かりにくい表現」の差が出てくるのです。
 あらかじめある程度整理されて送られてくる情報は、分類して整理棚にしまうスピードも速くなります。それだけ「分かりやすい」ということです。
 親切な情報発信とは、受け手がしなければならない情報整理という作業を、できるだけ送り手が代行してくれることです。その分だけ、受け手の作業量が減って楽になるのです。この気配りこそ「おもてなしの心」「サービス精神」「親切心」なのです。
 情報をカレー料理にたとえてみましょう。情報の受け手はカレーを食べたい人です。
 親切心のある情報の送り手なら、調理して皿に盛りつけたカレーを差し出して「どうぞ、お召し上がりください」と言います。一方、不親切な情報の送り手は、じゃがいも、肉、にんじん、カレー・ルーなどをテーブルの上に放りなげ「食いたきゃ、自分で料理して食え。材料は全部そろってるだろ」と言います。
「分かりやすい表現」と「分かりにくい表現」の違いは、この差なのです。

 情報の送り手は、受け手の人物像、プロフィールを設定し、それに応じた表現を選ばなければなりません。マンションであろうと、車であろうと、雑誌であろうと、ある新商品を企画する場合、そのユーザー層を最初に設定し、それに適した商品コンセプトを作り上げるわけです。
「分かりやすい」情報発信もまったく同じです。


「自分がまず、伝えたいことを整理すること」「伝える相手に応じた表現を選ぶこと」。
専門的なことに関しては、正直、「業界内での常識は、どこまで一般の人に通用するのだろう?」と悩むことが多いのです。
「わかりやすく説明してくれ」と言われても、「ところで、肝臓は2つあるから、ひとつ取っても大丈夫なんですよね」というくらいの予備知識の人に、解剖学から教えなければならないのか?と考え込んでしまうこともあります。
「わかりやすさ」が「誤解」や「不正確な知識の植え付け」を招いてしまうこともあり、なかなか難しいところはあるんですけどね。
だからといって、「何を言っているのか、全然わからない」では、どうしようもないものなあ。


著者は「分かりやすくするためのテクニック」として、こんな例を挙げています。

どっちが覚えやすい?

【違反例】0811326214


【改善例】0811-326-214

僕は「後者のほうが覚えやすいな」と思いましたし、大部分の人もそのはずです。
同じ数字の羅列でも、こうして「ハイフン(ー)」で区切られるだけで、だいぶ「分かりやすく」なるのです。
こういうのって、簡単にできることのはずなんだけれど、自分が伝える側となると、「10桁の数字くらい、たいしたことないだろ」なんて、つい手抜きをしてしまうんですよね。
自分が伝えられる側だったら、10個の数字の羅列なんて、それだけで敬遠してしまうのに。

 分かりにくい話を聞くと、よく「もっと噛み砕いて話してよ」などと言います。
 言うまでもなく「噛み砕く」ということばには、本来の「噛んで細かくする」という以外に、「むずかしいことを分かりやすくする」という意味もあります。この二つの意味が同じことばで表現されることには、大きな意味があります。
 第2章で「分かる」とは「情報が脳内整理棚にしまわれること」と話しました。
 つまり「分かりやすい」とは、脳で情報が整理されやすいように、あらかじめ情報を加工して送ることでした。そしてこの「噛み砕く」の本来の意味である「細かくする」ことも、分かりやすくするための有力な加工手段なのです。
 細かくすると「分かりやすい」理由の一つは、情報の脳内整理棚にしまうときの、一回の処理単位に「大きさ制限」があることです。これは第2章で紹介した一次記憶(作業記憶)域のサイズに由来するものです。
 たとえば、ビール瓶の狭い口が一次記憶域で、瓶の中が二次記憶域と考えるとよいでしょう。
 瓶の口より大きいものは、もちろん瓶には入りません。口より小さなものはスムーズに入っていきます。同じように、一次記憶の大きさ制限を超える情報は、脳内整理棚(二次記憶域)へ入れることはできません。制限内ならどんどん入っていきます。
 つまり、単位当たりの情報伝達量が小さいほど、分かりやすい表現になるということです。伝達の単位とは一個の文、文章の一段落、一枚の道路標識、一画面内のメニュー選択肢などです。


こういう「情報伝達のための基本的なテクニック」が詰まっている本です。
スティーブ・ジョブズのプレゼン術は素晴らしいのだけれど、あれも突き詰めれば、「極限にまで、伝えたいことを整理したプレゼン」だとも言えるわけです。
受け手が「覚えておくべきこと」を、ジョブズはあらかじめ、シンプルな言葉にしてくれていたのです。


「プレゼンテーションをする」「何かを他人に伝える」ことがある人は、ぜひ一度読んでみることをおすすめします。
10年以上前から読み継がれている本には、それだけの理由があるものだと、感心するはずです。

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