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【読書感想】AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である ☆☆☆

AI時代の人生戦略   「STEAM」が最強の武器である (SB新書)

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
楽しく遊びながら将来に備える方法。日本の労働人口の49%が、10~20年以内にAI(人工知能)やロボットに置き換えられる可能性が高い。AIが人間の能力を超える「シンギュラリティー」の時代も、予想以上に早く到来するかもしれない。そんな近い将来、人はAIやロボットを使う側、使われる側に否応なく選別される。定型的な仕事しかできない人は使われる側、創造性を活かし社会的な知性を身につけた人は使う側にまわる。日本屈指のイノベーターが、残酷な5年後を見据えた人生戦略を説く。


 要するに、「みんなもっと理数系をちゃんと勉強して、科学リテラシーを磨きましょう」と呼びかけている本です。
 うむ、なんか2行で終わってしまった。
 日本で大学を受験する際、とくに「私立文系」では、高校時代の途中から数学とか物理を捨てて、受験科目を絞って入試に備えることが多いのです。
 そして、多くの人が、大人になってから、「数学って四則計算くらいできていれば、日常生活には困らないよね。あんな難しい高校の数学の微分積分とか、卒業してから全く使うことないのに」とボヤき、もっと、「実用的なこと」を教えてくれればいいのに、と学校教育を批判しています。

 さて、まずは「STEM」という耳慣れない言葉から説明しよう。英語では「幹」という意味だ。
 自転車好きなら、フレーム本体とハンドルをつなぐバイブ状のパーツをステムと呼ぶことをご存じだろう。ワイングラスの長く伸びた脚もステムという。
 しかし今、STEMといえば教育用語として使われることが多い。「STEM教育」という言葉としても使われている。


 STEMとは、
 サイエンス(科学)の『S』
 テクノロジー(技術)の『T』
 エンジニアリング(工学)の『E』
 マセマティックス(数学)の『M』
——を並べた造語だ。


 日本では「技術」と「工学」の区別は明確ではないが、技術はツールをつくつこと、工学はそのツールを活かす方法だと考えるといいだろう。
 このSTEMという言葉を使いはじめたのは、「アメリカ国立科学財団」(NSF)とされている。
 このNSFという組織は、アメリカ中の研究者や教育機関に、研究と科学教育のための資金を提供することを目的に1950年に設立された。今では年間約8000億円を大学などに配布しており、これまで160人ものノーベル賞受賞者を輩出してきた実績がある。


 アメリカでは、あらためて、この「STEM教育」が重視されているのです。
 そして、これに『A』(アート:芸術)を加えた「STEAM」という言葉が生まれているそうです。
 現在は、技術を実用化し、目に見える形にする際に、デザインが重視されるようになっています。 Appleの製品などは、性能だけでなく、そのデザインで多くの人をひきつけていますよね。
 逆に、アートの世界でも、テクノロジーを使う機会がどんどん増えていっています。
 最近では、宮崎駿監督がCGアニメに挑戦している姿が、NHKの番組で放送されました。
 技術を使いこなせないと、生み出せないアートもあるのです。


 著者は、あらためて「理数系の勉強の大切さ」と「科学リテラシーの重要性」を解いています。
 文系だからといって、理数系をバカにしちゃダメだ、って。
 そういえば、佐藤優さんは文筆家に転身してから、あらためて高校レベルの数学を勉強されているそうです。
 学生時代、あまり数学が得意ではなかった僕も、いまさらながら、「もっと数学を一生懸命理解しようとすればよかった」と思っています。
 小川洋子さんの『博士の愛した数式』とかを読むと、「数学って美しいなあ」って、憧れてしまいますし。


 というか、文系の人たちは「理数系をバカにしている」とか「軽視している」わけじゃないと思うんですよ。
 勉強してもわからなくて、ついていけないので、諦めてしまっている、だけで。
 だから、著者がどんなに「理数系の大切さ」を解いても「そりゃ、あなたは理数系が得意だから、やってても楽しいだろうけど……こっちは数学をバカにしているわけじゃなくて、数学が俺たちをバカにしているんだよ……」というのが本音じゃないのかなあ。


 そもそも、「文系」「理系」というのは、本当に明確な区分があるのかどうか?
 「○○系だから」と区別して考えることによって、かえって、敬遠される要因になっている可能性もあります。

 最近、私の周りでは凸凹地形や坂などにうるさい人間が増えている。何のことはない。NHKブラタモリ」の影響だろう。
 タモリさんがあちこちを訪れ、地元の専門家に地形を示され「こうなっているのはなぜだと思いますか?」と聞かれ、謎解きをする。
 タモリさんはさまざまなことに造詣が深いので、ほぼ当ててしまうのだが、そのように目の前の事象を見ながら、疑問を提示され、自分で考え、その答えを専門家に解説してもらうと、深く納得できるし、忘れない。
ブラタモリ」は地学(地球物理学)と郷土史歴史学)を同時に学習する番組に仕上がっている。学校教育も大人の学びも、この方向にするとよいのかもしれない。


 著者は「理数系なんて役に立たない」と公言している大人が少なからずいることを嘆いているのです。
 自分が「できない」というのと「世の中に要らない」を同じだとしている人が、なんと多いことか。
 まあ、「主観」においては、そういうものなのかもしれませんが……

 著者は、50代以上の人は、なんとか逃げ切れるかもしれないが、それ以下の年代では、いま理数系がわからない人も、あらためて学び直すべきだ、と仰っています。
 うわー、めんどくさいな、とは思うのだけれど、みんなそう感じるからこそ、そこで「差別化」できるというのも事実ではあるのでしょう。

 独学に最も適しているのは、もちろん読書だ。本は場所を選ばず、自分のペースで読むことができる。まずは1冊、気になっている分野のサイエンス系の読み物を買って読んでみるといい。
 途中でわからないところがあっても気にしない。最初の1冊は、とにかく最後まで読み通すことが肝心だ。そのためには薄い本、文字数が少なめの本を選ぶのもいい。続いて読むのは、最初に読んだ本で引っかかった部分、面白かった部分について書いてありそうな本ではなく、まったく関係のなさそうな本だ。
 何かの専門家になるわけではないから、広く浅く理数系に触れるつもりで読んでいくのが基本的なスタンスとなる。第6章にはこれからを生き抜くための必読書を紹介しているので、ぜひ参考にしてほしい。
 本に加えて、案外とバカにできないのはテレビ番組だ。NHKの番組を中心に、サイエンス系について詳しく、なおかつわかりやすいものが幾つもある。
 それらをすべてリアルタイムで視聴するのは難しいだろう。ハードディスクレコーダーに予約録画して、自宅に帰ってきてから1.3倍速で再生するといい。私は実際、そうやって視聴している。


 ハードル高いよ……
 仕事をしながらこれをやるのは、けっこうキツいと思うんですよ。
 ただ、テレビ番組については、「ながら視聴」でも良いそうですし、できる範囲で、少しでも「サイエンス」に触れておくというのは、大事なことだと思います。
 ものすごく忙しそうなタモリさんだって、あれだけ勉強しているのだし。
 まあでも、タモリさんや著者の場合は、基本的に「学ぶこと、知ることが好き」なんだろうなあ。


 正直、「勉強好きの人の勉強自慢」だと感じる本ではあるのですが、少なくとも「理数系をバカにすることがカッコいいと勘違いしている大人」には、ならないようにしたいものです。

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