琥珀色の戯言

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【読書感想】十二人の死にたい子どもたち ☆☆☆☆

十二人の死にたい子どもたち

十二人の死にたい子どもたち


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
廃業した病院にやってくる、十二人の子どもたち。建物に入り、金庫を開けると、中には1から12までの数字が並べられている。この場へ集う十二人は、一人ずつこの数字を手にする決まりだった。初対面同士の子どもたちの目的は、みんなで安楽死をすること。病院の一室で、すぐにそれは実行されるはずだった。しかし、十二人が集まった部屋のベッドにはすでに一人の少年が横たわっていた。彼は一体何者なのか、誰かが彼を殺したのではないか。このまま計画を実行してもいいのか。この集いの原則「全員一致」にのっとり、十二人の子どもたちは多数決を取ろうとする。俊英・冲方丁がデビュー20年目にしてはじめて書く、現代長編ミステリー!性格も価値観も環境も違う十二人がぶつけ合う、それぞれの死にたい理由。彼らが出す結論は―。


 冲方丁さん初の現代ミステリ。
 最近は時代小説でも活躍されている冲方さんが挑戦したのは、現代版『十二人の怒れる男』でした。
 この『十二人の怒れる男』は、もともとアメリカのテレビドラマ・映画です。
 『十人の怒れる男』は、スラムに住む18歳の少年に、「父親をナイフで刺し殺した」という容疑がかかり、無作為に選ばれた12人の陪審員たちが、殺人事件に対する評決を下すまでを描いた法廷劇です。
 映画版では、物語の鍵を握る(ちょっとした違和感、から真実を引き出していく)「陪審員8番」をヘンリー・フォンダが演じていて、彼の代表作のひとつとされています。
 三谷幸喜さんもこの作品に影響されて、『十二人の優しい日本人』という舞台と映画をつくっているのです。


 いまの日本には裁判員制度というのがあるので、裁判員を題材に同じようなものをつくれそうではあるのですが、原則として裁判員6人+(本職の)裁判官3人で審議することになるので、これに沿って書くとちょっと人数不足かもしれません。
 そこで、こういう「自殺志願の子どもが12人集まる」という設定になったのかな、と。


 この作品を読み終えて、あらためて考えてみたのだけれど、この作品で面白いところって、集まった12人の子どもたちが「自分はなぜ死にたいと考えているのか」というのを告白しあって、それに対して、お互いに「何その理由」って、「ひとこと言いたくなってしまう」ところなんですよね。読んでいて、思わず噴き出してしまうような「理由」もありました。
 もちろん、読んでいる僕も、「そんなことで死ぬなよ……」と思うんですよ。
 中には、本当に「それで死ぬのは単なる知識不足だよ!」って引き留めたくなるようなものもあるし、そりゃ僕でも死にたくなりそうだ……という理由もあるんですよ。
 まあでもなんというか、そういう理由って、いずれも本人にとってはすごく切実なもので、にもかかわらず、他人からすると「そんなことで死ななくても」というものがけっこう多いんですよね。
 でも、そういう「他者からの視点」を自分に対して持てなくなってしまうくらい追い詰められているから、人は死ぬことを選ぶのかもしれません。


 逆に、この作品のつまらないというか、あまり面白くないと感じたところは「事件というか、謎解きに関するところ」なのです。
 いやそもそも、この物語に「事件」が必要だったのか?
 おかげで、靴だ椅子だエレベーターだと、なんだか細かい証拠が散らかってしまって、そして、その割にはなんだか唐突で意外性もない謎解きなんですよね。


 「ミステリ的な要素」いらないんじゃないかな、これ。
 それが無いほうが、もっとスムースに読めるのではなかろうか。
十二人の怒れる男』は、ひとりの陪審員が物事の「見かた」を変えてみせることによって、少しずつ新しい事実を発見し、他の陪審員を説得していく話なのですが、この作品も、ある「何も考えてなさそうな人物の、彼らが『選ばれた理由』を揺るがす、何気ないひとこと」が大きなアクセントになっています。
 そこからは面白くなってくるのだけれど、それまでは、ちょっと冗長に感じました。


 たぶん、本当にいま死にとりつかれている人がこれを読んでも、あまり響かないと思うし、そもそも、これを読む心の余裕はないでしょう。
 でも、もし、自分が「自殺を考えやすい人間」だと感じている程度の精神状態であれば、読んでみることによって、「ああ、周囲からはこんなふうに見えるんだな」という気づきはあるんじゃないかな。


 いろいろと「腑に落ちる感じがする」佳作だと思います。
 でも、ミステリ要素が「きっかけ」としてしか機能していないのは、けっこう残念ではありました。


fujipon.hatenadiary.com

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