読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】池上彰とホセ・ムヒカが語り合った ほんとうの豊かさって何ですか? ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
ホセ・ムヒカ氏と池上彰氏からのメッセージ!
日本人はほんとうに幸せですか? 


2016年4月に初来日したホセ・ムヒカウルグアイ大統領。池上彰氏との対談が実現し、
「豊かさとは何か」を語り合った。対談はテレビでも放送され大きな話題を呼んだ。
本書ではその対談を完全収録。世界で格差と貧困の問題が深刻になる中、
私たちはどうすればいいのか? 「世界でいちばん貧しい大統領」の呼び名をもつ
ムヒカ氏からの日本人へのメッセージを、池上彰がわかりやすく解説する。


◆主な内容
●対談 池上彰ホセ・ムヒカが語り合った
「日本人はほんとうに幸せですか?」 
人生で大事なのは勝利することではなく、「歩き続ける」ことです


 来日されたウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカさんと池上彰さんの対談(2016年4月7日)を収録し、あわせて、ホセ・ムヒカさんのこれまでの人生、そして南アメリカの歴史について池上彰さんが解説した本です。
 僕はムヒカさんのキャッチフレーズ「世界でいつばん貧しい大統領」に、正直「ちょっと胡散臭いなあ」と思っていたんですよね。
 「清貧」を売りにする人って、人気取りのためにそういうフリをしていたり、理念は立派だけれど、実務能力が決定的に欠けていたりすることが多いので。
 でも、この対談を読むと、「ああ、本当にすごい人って、いるんだなあ」と素直に感心してしまいました。
 反政府活動をしていた時期に「銀行強盗をして、お金を貧しい人たちに配っていた」なんていう話を読むと、「それは……なんかちょっと引っかかるな……」とか思ってしまうところもあるのですけどね。
 目的のためには、どんな手段も正当化されるのか?
 でも、それ以外の方法があるのか、と問われると、なかなか思いつかないよなあ。

ホセ・ムヒカ私は「貧しい」という評判のようですが、少しも自分を貧しいとは思っていません。いまあるもので満足しているだけです。とても豊かです。


 そもそも「世界でいちばん貧しい大統領」というのは、周囲が勝手につけたもので、御本人は「お金を稼ぐのは悪いことだ」と考えているわけではないし、自分が「貧しい」と思ってもいないのです。

 ウルグアイは、昔は豊かな国だったそうです。1940年代は「南米のスイス」と呼ばれるほど福祉は充実していて、安定した民主主義の国だったとか。
 というのも、第2次世界大戦中、ウルグアイは農産物や畜産物、“生産できるものをヨーロッパにどんどん売って利益を挙げることができたからです。一方、ヨーロッパは戦争中ですから、他の国に何も売ることができません。
 でも「人が死んでいるときにウルグアイはビジネスをしていた。悲しいことだ」とムヒカ氏はいいます。
 しかし、戦争が終わると、立ち直ったヨーロッパは南米から安く原料を買い、自分たちがつくったものを高く売りつけるようになりました。ウルグアイはだんだん経済的に不安定になり、政権は次第に強権的になっていったのです。


ムヒカさんは、第二次世界大戦後に反政府活動に身を投じ、4回の投獄生活を経験しています。
4度目の投獄生活は13年間にも及ぶ悲惨なもので、換気口もトイレもマットレスもないコンクリートの箱の中に入れられ、精神的に不安定にもなっていったそうです。


 そのとき、なぜ心が折れなかったのか、という池上さんの質問に、ムヒカさんはこう答えています。

ムヒカ:希望があったからでしょうね。
 私を救ったのは、読書でした。牢獄では科学系の本しか許されませんでしたから、生物学に始まって、農学、医学、獣医学、人類学、いろいろなジャンルの本を読みました。一日中どっぷり読書に浸りながら人間とは何なのか、自分に問いかけたのです。なにしろ、そういうことをする時間だけはたっぷりありましたから。
 するとある日突然、頭がぽっかり開いた感じがしました。開放的な、青く済んだ空が頭の中に広がったのです。獄中で孤立無援の状態を経験したからこそ、いかに「わずかなもので幸せになれるか」と学んだ気がします。私たちをひどく扱った人間を憎む気にもなれませんでした。

 自由の身になったムヒカ氏は、大勢の人と話しました。独房の中では膨大な読書をし、外に出た後はさまざまな人と関わったことにより、ムヒカ氏はある結論に至ったそうです。
 それは「人間は孤独では生きられない」ということ。
 人間は本質的に群れをなす社会的な生き物であり、人類の歴史の9割は、集団の中で起こっている。
 それに「憎しみは建設的ではない」ということ。報復が、「正義」という美名のもと行なわれることが世界にはイヤというほどあります。そんな正義を、ムヒカ氏はこれっぽっちも信用しないと断言します。
「許すこと、過去を乗り越えること、そして異なる意見にオープンであることが大事」と悟るのです。


 ムヒカさんのすごいところは「貧しいこと」ではなくて、「つらい経験をしてきたにもかかわらず、『復讐』ではなく、多様性を認め、他者に寛容であろうとしてきたこと」なんですよね。
 きれいごとばかりじゃなくて、大麻を合法化して犯罪組織の収入源を絶とうとするなど、現実的な政策も行なっています。
 もちろん、すべてがうまくいったわけではなくて、富裕層への課税については国内からの反対で断念せざるをえませんでした。
 ウルグアイの人たちも、みんながムヒカさんを支持していたわけではありません。
 そういう「現実」に向き合いながら、「できることをやる」「挫折してもあきらめず、生きているかぎり、前を向いて進もうとする」。
 そして、「生きている意味」を考え続ける。

ムヒカ:ギリシャの古い思想に「万事度を越すなかれ」というものもあります。働くことは必要です。働かない者は、働く人に負担をかけることになるし、仕事は希望でもありますから。
 でも人生とは、ただ働くことではありません。人生とは、自由な時間を持って生きる価値のあるものです。時間を何に使うかは各自が決めてください。強調しますが、選択は自由です。
 ひとつだけみなさんに言えることは、私たちの命こそが時計です。ぜんまいはやがて止まります。人生という長い旅を何に使うか? 一人ひとりが自身に問わなければなりません。なぜなら、私たちは生まれた瞬間から死への道を歩んでいるからです。私たちは、いつか死ぬからこそ、いま生きているのです。そして、逆説的なことですが、きっと死があるからこそ、人生は美しいのです。これは私たちの存在における最も深刻な問題です。


 限られた時間を何に使うのか?
 これは、普遍的な「問い」ですよね。
 たしかに、「選択は自由」なのだよなあ、覚悟さえあれば。