読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】声優道 - 死ぬまで「声」で食う極意 ☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
人気職業、「声優」。志望者は激増するも、プロとして生き残る声優は激減、ほとんどの若者が淡い夢の前で挫折していくと著者は警鐘を鳴らす。そこでその実態や成功するための「極意」を全公開。著者はなぜ混沌とする業界で30年以上も食えているのか?これからの声優に求められる資質とは?声優志望者30万人「必読の書」をここに!


 人気声優による、「声優業界の本」といえば、2015年3月に、大塚明夫さんが『声優魂』を上梓されています。
 大塚さんも冒頭に、こう書かれていたんですよね。

 本書で私が皆さんにお伝えしたいことはただ一つ。
 声優だけはやめておけ。
 嘘偽りなく、これだけです。


 岩田光央さんは1967年生まれ。
 1959年生れの大塚明夫さんより、少し下の世代になります。
 岩田さんも大塚さんと同じように、もともと役者から、声の仕事の世界に入った人なのです。
 20代前半として俳優としてのキャリアをスタートした大塚さんに比べて、岩田さんは子役からのスタートで、『1年B組新八先生』にも中学生役で出演されていたのです。
 そして、お二人とも、現在のように、多くの人が「声優になりたい」と望む時代ではなく、「声優は売れない俳優がやるもの」だとされていた時代をくぐってきた猛者なのです。

 ちなみに声優と聞けば多くの人がアニメや洋画の吹き替えなどの仕事を想像するようですが、本来、その求められる範囲はずっと広く、基本的には「声」が必要とされるところ全般となります。
 それは電車の車内放送やデパートの館内放送、スポーツイベントでの実況放送に、動物園や美術館といった公共施設での音声ガイドなど、本当に多岐にわたります。今では、ゲームでも音声が吹き込まれるのが当たり前になってきていて、その需要はさらに増えました。
 しかし、年々高まっている声優人気に伴ってか、その需要を上回るスピードで声優、そして声優を志望する人の数が増えていて、今、声優の数は1万人に、そして声優志望者の数は30万人に達しているとも言われています。そんな膨大な人数を十分に養うような仕事があるはずもなく、なんとかデビューをしても、仕事を満足にできないままあえなく挫折、なんてパターンがあまりにも多く見られるようになりました。
 そもそも、これまでも、そしてこれからも、声優に要求されるのはあくまでも「演技力」であり、演出に即座に対応できる技術です。その事実をおろそかにして、求められる立場からやや逸脱した芸能人やアイドル的な立場に憧れる人が増えた結果、そもそも不安定だった声優という職業が、さらに危ういものになった気がしています。


 声の仕事への需要は増えているけれど、それ以上に声優と、その志望者は増えてしまって、すでに「飽和」しているのです。
 それでも、一部のトップには需要があるのですが、岩田さんは、「近い将来、『初音ミク』のような電子音声に切り替えられていく『声の仕事』も出てくるのではないか」と危惧されているんですよね。
 「声優の仕事」には演技力が必要だけれど、それだけでは、声優業界で成功することは難しいのです。
 「声優」というのは、アイドル歌手(たとえばAKB48など)に比べて、声だけの仕事だから、そんなに人前に立たなくてもいいし、自分を積極的にアピールしなくてもいい、と、低めのハードルを想定している志望者が多いのだけれど、事務所に所属したり、オーディションで役を得るためには、「自分をアピールしていく積極性」が必要になるのです。
 岩田さんは「事務所に所属していても、声優はあくまでも個人事業主」だと仰っています。
 そして、声優は、自分自身を売るための「セールスマン」にもならなくてはいけない。
 事務所やマネージャーも、「積極性のない、まだ売れていない声優」を猛プッシュしてはくれません。
 「アニメやゲーム好きの、おとなしい志望者」が多いからこそ、グイグイ前に出ていけるようなタイプのほうが、差別化できるところもあるのです。
 山寺宏一さんや水樹奈々さんくらいの圧倒的な才能があれば、突き抜けられるのかもしれませんが、声優でずっと食べていくのは、本当に難しい。
 最近では、まだそんなに高齢でもない声優さん(とくに女性)が、「満足する仕事ができなくなった」と「引退」するケースもみられるようになりました。
 岩田さんでさえ、「最近はギャラが下がってきている」そうです。
 それでも、ずっと声優の仕事を主にやってきて(専門学校の講師なども含めて)、家を建てられるくらい稼いできた、というのは、すごいことだよなあ。


 岩田さんの声優としての人気を確実なものにしたのは、1988年に公開された、大友克洋さん原作・監督の『AKIRA』の金田役でした。

 映画が公開されてヒットすると出演者の一人として、僕自身、急に世間から注目を集めるようになりました。なお同作品は今に至るまで全世界中にファンがおり、ビデオやDVDはもちろん、さまざまにメディア化がされています。
 しかし僕が大作「AKIRA」で受け取った出演料は14万7000円のみです。未だにそれ以外のギャランティはいただいてはいません。
 とはいえ、その金額に対して、不満があるわけでもありません。というのも映画が制作された当時、二次使用料などの概念が本当の意味でまだ浸透しておらず、また、誤解を恐れずに言えば、当時の声優の役割はその程度として考えられていたのであり、出演料だけもらって終わり、ということのほうがむしろ当然だったのです。


 あの「声にあわせてアニメーションを作成する」という「プレスコ」で話題になった大作『AKIRA』の主役の声でも、14万7000円!
 いまから30年前の「声の仕事」への対価というのは、こういうもの、だったのです。
 もし二次使用料がもらえる契約だったら、けっこうな額になっているのではないかなあ。
 岩田さんは、この仕事が「名刺代わり」になって、仕事の依頼が増え、声優として生きていけるようになったと、感謝しておられるんですけどね。


 声優という仕事や収入のこと、トレーニングの仕方や事務所の選び方など、声優志望者にとっては、かなり参考になる内容だと思います。

 では長い期間を生き残るという意味で、今日からどんな準備ができるのでしょうか。
 やや唐突に感じるかもしれませんが、まずは確定申告にトライすることをオススメします。


 なぜいきなり「確定申告」なの?と僕も思ったのですが、この新書を読んでいくと、岩田さんのこの言葉の重みがわかってきます。
 「夢」を叶えるためには、足場を固めることが必要なこともあるのです。


 ちなみに、この新書を読んでいて意外だったのは、「滑舌」についての話でした。

 最後に滑舌について。先ほど「日本語とは、異なる構造を持つ口で生み出す音の連続性で成り立つ」と解説しましたが、さらに、それぞれの音を上手につなぐ技術が必要になります。これが滑舌です。
 ここで大事なことは、早口言葉ではないということ。滑舌は、あくまでも言葉をきちんと正しく伝えるための訓練であってスピードを競うものではありません。大切なのは一音一音を正しく意識して出すことです。
 生まれつき滑舌が悪いことで悩んでいる人は多いですが、安心してください。滑舌ほど、トレーニング次第で向上する技術はありません。

 僕も自分の「滑舌の悪さ」にコンプレックスを抱いているのですが、そうか、滑舌は「技術」であり、トレーニングで改善が期待できるんですね。
 練習、してみようかな……
 

fujipon.hatenadiary.com

声優魂 (星海社新書)

声優魂 (星海社新書)