琥珀色の戯言

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【映画感想】夜は短し歩けよ乙女 ☆☆☆☆

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あらすじ
クラブの後輩である“黒髪の乙女”に恋心を抱く“先輩”は、「なるべく彼女の目に留まる」略してナカメ作戦を実行する。春の先斗町に夏の古本市、秋の学園祭と彼女の姿を追い求めるが、季節はどんどん過ぎていくのに外堀を埋めるばかりで進展させられない。さらに彼は、仲間たちによる珍事件に巻き込まれ……。


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 2017年の映画館での6作目。
 上映初日・金曜日の夜の回で、観客は20人くらいでした。

 原作は既読なのですが、内容はもうすっかり忘れていました。原作を復習してから観たほうが良いのかな、と思いつつ、結局そのまま劇場へ。
 やたらとお酒が強くて「おともだちパンチ」とかを放つ中村祐介キャラの女の子と「外堀ばかり埋めている男子」の先輩の話、あと舞台が京都だということくらいしか記憶になかったのです。


 主人公の「先輩」の声を星野源さん、ヒロイン(というより、映画を観た感じでは、こちらが主役っぽかったけど)の「黒髪の乙女」の声を花澤香菜さんがあてているのだけれど、「乙女」は花澤さんのアテ書きではないかと思うくらい、僕のイメージにあっていました。
 これはもう、花澤香菜さんの勝ち!
 というか、中村祐介さんのキャラクターと花澤香菜さんの声が好きな人なら、たぶん、この映画を楽しめるのではないかと。


 以前小説を読んだときのおぼろげな印象としては、ストーリーがけっこう幻想的かつ支離滅裂で(もちろん、あえてそうなっているのですが)、なぜここまで評判になっているのか、あの表紙のキャラクター以外の理由が存在するのか?というのがあったのです。


 実際にアニメで観てみると、中村祐介さんの「黒髪の乙女」が、ほぼあの絵のままで動いているのはけっこうすごかった。
 序盤、乙女が酔っ払いオヤジに絡まれている場面は、「原作を全く知らなかったら、けっこう不快だよなこれ」とか思っていたんですけどね。
 とりとめのない話をとりとめがないまま映像化しているのも「わかってるなあ」という感じがするので、原作ファンは満足できそうだけれど、「何なんだこれは」と思う人も少なからずいそうです。
(原作の大ファンは、かなり強引に一晩の出来事としてまとめられていることに疑問を感じてもいるようですが、たしかにちょっと無理はあります)
 しかしこれ、(『ギブリーズ』+『平成狸合戦ぽんぽこ』+『となりの山田くん』)÷3、みたいだ、でも、なんかもっと似た空気感の作品をどこかで観たんだけどなあ……


 そんなことを、ずっと考えていたのですが、観終えて思い出したのが、押井守監督の『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』でした。
 この常識とズレたキャラクターと終わりのないお祭り感。
 そう考えてみると、あの小説をアニメ化した、というよりは、『うる星やつら』的な世界観を文章にしたのが、森見登美彦さんの作品なのかもしれないな、という気がしてきました。

 何これ、こんなヤツいねーよ!
 わけわからない、支離滅裂じゃないか。
 「だが、それがいい」と思えるかどうか。

 好きな人は、たまらなく好きなはずなんですよ、この映画。僕もDVD買おうかな、というくらい好きです。
 ただ、「こういうの苦手」っていう人がたくさんいるであろうことも予想できます。
 京都という土地柄とか、ちょっと古めの文学作品のちょっとした知識とか、ゲリラ演劇なんてものが本当に存在したこととか、そういう「文脈」みたいなものをくすぐってくるという意味では、「現代アート的」でもある。
 こういうのを「でも僕はわかるんだぜ!」って言ってしまうのも、嫌らしい感じはするんだけどさ。


 エンディングテーマをASIAN KUNG-FU GENERATIONが歌っていたのですが、ここで、星野源さんの『恋』が流れてきたらピッタリだな、と思っていました。


 僕が「オタク趣味」「マイナーのなかのメジャー」だと意識していたものたちは、今ではすっかり「自己紹介で口にしても恥ずかしくない趣味」になっているのです。


 ディテールは違っても、原作の「雰囲気」を感じる良作だと思います。
 まあ、あんまり肩肘張らずに観たほうが良いのではないかと。それこそ、お祭りを覗いてみるように。
 できれば夏の夜に観て、映画館を出た瞬間に「外は暑いなー!」って言いたかったな。


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