琥珀色の戯言

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【読書感想】桜風堂ものがたり ☆☆☆

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり


Kindle版もあります。

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

内容(「BOOK」データベースより)
万引き事件がきっかけで、長年勤めた書店を辞めることになった青年。しかしある町で訪れた書店で、彼に思いがけない出会いが…。田舎町の書店の心温まる奇跡。


 『本屋大賞』ノミネート作。
 最近、書店や出版業界を舞台にした小説やマンガって、けっこう多いですよね。
 この『桜風堂ものがたり』も、そのなかのひとつなのですが、冒頭の「本当に悪い人は他にいるはずなのに、善良な人たちが矢面に立たされ、誰か、何かを叩きたい人々」の生贄にされる場面には、心が痛みました。
 書店の経営の厳しさや「カリスマ書店員」のイメージに比べて、実際の仕事は地味な力仕事が多いということ。本好きの人たちが、「お客様」に目配りをしていることも伝わってきます。
 大きな書店なのに、店内を回っていても、読みたい本が見つからない書店もあれば、そんなに広くないのに、「これは何かの罠なのか?」と思うくらいに、両手に本を抱えてしまうような本屋もある。


 すごく「優しい物語」なんですよこれ。
 読んでいると、書店で働いてみたいなあ、という気分になります。
 ただ、その一方で、この本が書店員さんたちに支持され、『本屋大賞』にノミネートされていることに対して『アーティスト』や『バードマン』が作品賞に輝き、『ラ・ラ・ランド』が高評価される(良い作品ではあるんですけど)ハリウッドのような「手前味噌感」があるのも事実です。
 「身内ブースト」がかかっているような気がするのです。


 作中で書店員さんが「推す」本が、ありがちな主人公が死んでしまう小説、というのも、『モルヒネ』商法なんじゃないか、とか(実際に読んだわけでもないのに)考えてしまうわけです。
「(読んで)うずくまって泣きました」って、どれだけこのコピーを書いた書店員さん涙腺緩いんだ?と思いましたよあれは。
 最近の「書店員さん推し」って、玉石混合というか、こんな面白い本があったのか!って嬉しくなるものがある一方で、「自分たちの業界を擁護したもの」とか「安易に泣けるもの」とか「個人的にその作家と仲良しだから」というような「推されるプロセス」が透けてみえるようなものが少なからずあるし、どこかからコピー&ペーストしたような「コピペPOP」も見かけます。
 良い本だから売りたい、というのではなくて、売れそうな本だから、売るための理由を後付けしている、というようにも感じるのです。
 「書店員さんイチ推し!」の価値を下げているのは、彼ら自身ではないのか。


 もちろん、いろんな事情もあるのでしょうし、書店員だからといって、世の中の本をすべて網羅するなんて不可能でしょう。
 それはわかるし、僕は本や書店が大好きなのだけれど、「街から書店がなくなったら、子どもや高齢者が本を買えなくなってしまう」という言葉に対しては「書店を救うよりも、彼らにAmazonの使い方を教えてあげたほうが、手っ取り早いのではないか?」とも思うのです。
 絵本がたくさんある書店とか、本当にありがたいし、そこで子どもと本を探すのは至福の時間なのだけれども。

 七年前の調査で、全国の書店の万引きの被害額が合計で年間二百億円ほどにもなると一整は読んだ記憶がある。これはけっして小さな金額ではない。そもそも書店という仕事は、他の業種に比べて、「儲かる」仕事ではない。人件費と家賃がかなりかかる仕事だ。ただでさえ少ない利益の中から、店によっては、売り上げと変わらないほどの被害を万引きによって受けることもある。
 書店には、棚にも平台にも、本や雑誌が美しく並べられていて、店に来るお客様たちは、自由にどの本でも開き、選ぶことができる。
 それはある種無邪気な、人間を信じるが故にできる無防備な信頼だ。その信頼を裏切られ続ければ、金銭的にも被害を受けるけれど、その前に、書店で働くひとびとの心はひどく傷つき、折れていってしまう。


 書店というのは、それなりの値段の商品が、無防備に置かれているのです。
 利益率を考えると、一冊万引きされた分を取り戻すには、どれだけたくさんの本を売らなければならないか。
 本好きとして、その信頼に応えたいし、いまの書店という場所が、失われてほしくはない。
 ただ、この本は、そういう危機感を訴えている一方で、あまりにも書店業界の「内向き」になっているような気もするのです。
 作家と書店員さんが「いいね」と頷きあって、読者は「ああ、仲が良いんですね」と、ちょっと離れたところから、それを所在なく眺めている。
 善良な小説であることは間違いありませんし、安易なハッピーエンドにならないところにも好感を持ちました(続刊があるのかもしれません)。
 こういう書店に行ってみたい、とも思います。
 でも、その輪のなかに「一般の読者」を引き込むには、何かが足らない、僕はそう感じました。