琥珀色の戯言

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【読書感想】貴族探偵 ☆☆☆

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)


Kindle版もあります。

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

内容紹介
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か? 捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生! 傑作5編を収録。


 (2017年)4月から「月9」でドラマ化!というのを書店で見かけて読んでみました。
 タイトルをみて思い出したのは、筒井康隆さんの名作『富豪刑事』。
 大金持ちの御曹司が刑事となり、お金と権力を最大限に利用した奇想天外な方法で、犯罪を解決するという内容には当時かなりインパクトがあったのです。
 近年では、『謎解きはディナーのあとで』の執事・影山という「名探偵」もいましたね。影山は口は悪いけれど、お金を湯水のように使うわけではないんですが。
 で、この『貴族探偵』、どんな話なのかと読み進めてみると、なんだかとても不思議な感じがするのです。

「ティーブレイクも終わったし、そろそろ推理を始めるとするか。田中」
「はい。御前さま」
 にこやかな顔でメイドは応える。
「刑事たちもお待ちかねのようだ。おまえの推理をご披露しなさい」
「わかりました、御前さま」。それえでゃ失礼ながら私が推理をさせていただきます」
 メイドはポットを置くと古川たちの前に進み出た。
「あんたが推理するんじゃないのか」
 当然のごとく古川が訊ねると、
「誰もが同じ言葉を口にするね。いかに貴族というものを理解していないかの証だよ。これだから戦後の教育というものは……。全く困ったものだ」


 主人公(?)の「貴族探偵」は、事件の現場に偶然やってくるのですが、そこにいる関係者の美女を口説くばかりで、捜査や推理に本人は直接関わらないのです。
 
 『富豪刑事』のように「貴族」であることを最大限に利用するのかと思いきや、「貴族」であることは、「警察に対して、事件に首を突っ込むことを許可してもらう」ために使われるだけで、あとは、有能な使用人たちが、すべてやってくれる。

 この連作短〜中編を読んでいて、こういう『自分では何もしない貴族探偵』というのは、通して読むと、何かの伏線になっているのだろうな」と思っていたのです。
 最後まで読めば、この「何もしない理由」が明かされるとか、それを利用した大掛かりなトリックが展開されるとか。
 で、どうだったかというと……(ネタバレになるので省略)


 これを読みながら考えていたのですが、いまの世の中って、「一人のすごく賢い名探偵」って、居場所がなくなってしまっているのかもしれませんね。
 いつかは忘れてしまったのですが、ちょっと前に、「ずっと何が書かれているかわからなかった祖父(故人)の暗号日記をネットに公開したら、みんながそれを解析し、数日くらいで答えを出してくれた」というのを読んだのです。
 いまの世の中、難事件の情報を匿名化してネットにアップロードすれば、名探偵なんていなくても、誰かが解決してくれるのではないかと思われます。
 シャーロック・ホームズも、金田一耕助も「ネットの集合知」にはかなわないのではないか。彼らにも得て、不得手はあるでしょうし。
 貴族探偵がやっている「捜査や推理のアウトソーシング」というのは、ものすごく「現代的」であり、「もう、灰色の脳細胞がもてはやされる時代ではない」ということが、この作品の裏テーマなのかもしれません。
 まあ、なんというか、登った梯子を外されるような推理小説、ではあります。

 この本のなかでとくに印象的だったのは『こうもり』という作品で、読み終えて、思わず「二度読み」してしまいました。これ、テレビドラマでは、どんなふうに映像化するのだろうか。


富豪刑事 (新潮文庫)

富豪刑事 (新潮文庫)

謎解きはディナーのあとで

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