琥珀色の戯言

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【読書感想】それでも気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている ☆☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
100円寿司、天ぷら食べ放題、デカウマステーキ…終わることなきチェーンデスマッチ36店。単行本、待望の第2弾!書き下ろしを含む全36編収録。


 この本のシリーズ前作『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』は、「ものすごく面白いとか、役に立つことが書いてる」というわけではないのですが、「無難なチェーン店」を愛用する僕にとっては、なんだかすごく心地よく読める本でした。
 今回も、読みながら、「そうそう」なんて心の中で頷いたり、声を出して笑ってしまったり。
 僕は本を読んで涙を流すことはけっこうあるのですが、笑ってしまうことって、あんまり無いのです。
 なんだか、「ツボにはまっている」のだろうなあ。
 著者と世代が近い、ということで、それぞれのチェーン店についての印象や記憶にも、頷けるものが多いのです。


 『ミスタードーナツ』の項より。

 ミスドには、我々が記憶の奥底に焼き印の如く刻まれた最終兵器がある。
 持ち帰り用の長いハコ。
 季節ごとにデザインも変わるという、あのポップでキュートなドーナツ箱。仕事の差し入れで、家族へのお土産で、女の子がアレを持ってきた時の“気が利く感”は、日本人なら思い当たるのが当然。
 あのハコを開けた時の目に映る麗しいドーナツ群は、庶民的で飾らないながら女子の誇りを失わず「しっかり食べてもうひと踏ん張り頑張っておくんなまし」というメッセージ性も備えた完璧手土産.筆者は何度被弾したかしらない。


 ああ、僕が大学生だった、いまから25年くらい前は、「箱入りのミスド」に、けっこうプレミア感があったのだよなあ。部活の差し入れに持って行くと、みんな「おっ!」という顔をして、喜んでくれていたものです。
 当時は、ミスタードーナツの店舗数もそれほど多くなかったし、コンビニスイーツも今ほど充実してはいませんでした。
 いまや、ちょっとした規模のショッピングモールには、ほぼ100%、ミスタードーナツが入っているのではなかろうか。ちょっと気が利いたお土産というより、ちょっと休憩のために入る店、という感じです。
 買って帰っても、「ああ、ミスド」っていうリアクションしか返ってこない。
 なんのかんの言っても、日本の食生活は豊かになっているみたいです。


 崎陽軒のシウマイでは、こんな話が出てきます。

 先日のこと。知人が関空から飛行機で帰路につく際に、隣の乗客が「551蓬莱」熱々肉まんに加え、なぜか「崎陽軒」のシウマイを食べていたそうだ。臨席から漂ってくる肉マン+シウマイ臭に、知人は抑えがたい殺意を覚えた、という話を真顔でされた。
 よくある話だ。新幹線や飛行機の中などの密閉した空間で、食べるものを間違えると、食品テロに扱われる。おそらく本人に自覚はない。自分の基準ではセーフなのだろう。だが世の中にはカレーがダメな人もいれば、ビールですらダメな人もいる.最近では新大阪駅の構内に出店しているたこ焼き屋の箱に「新幹線車内でお召し上がりはご遠慮ください」の注意書きが貼られるようになった。新幹線乗り場に一番近い551蓬莱からいつの間にかアツアツの肉まんが消えたのも、きっとそういうことだろう。


 どこまでが「におい」の許容範囲か、というのは、大変難しい問題ですね。
 たしかに他の人が食べているお弁当のにおいが気になることって、少なからずあるのだけれど。
 この本では、『孤独のグルメ』で、主人公が乗り物のなかで『ジェットシウマイ』を食べるために温めてしまって、周囲から白眼視される場面が紹介されています。
 そうそう、ああいうのって、気まずいんだよねえ。
 でも、こういうものこそ、移動中に食べるのが「旅情」だという気持ちもわかります。
 「駅の構内で売られているにもかかわらず、新幹線内で食べてはいけないたこ焼き」って、どこで食べればいいんだろうか、と思いますよね。
 出店した側からすれば、オープン時には「新幹線車内で食べてもらうこと」を想定していたはずで、こんなに世の中が「食べ物のにおい」に厳しくなるとは……という感じでしょう。
 僕は「たこ焼き」は(たぶん)問題ないのですが、これは本当に「人それぞれ」だからなあ。


 「チェーン店」についてのエッセイ集のはずなのに、けっこう、その地域独特の食習慣も出てくるんですよね。
 沖縄では「お酒を飲んだあとの締めにステーキ」が流行っているそうです。
 『ステーキハウス88』の項より。

 店内は週末とはいえ深夜1時を過ぎているのに8割の入り。若者ばかりというわけでもなく、サラリーマンや中年、女性同士のグループがいて、その誰もがステーキを食べる。懸案の1000円ステーキは「Jr.ステーキ」と呼ばれるもので、200グラム1000円。400グラムでも1980円。さらにサラダとスープ、ライスの食べ放題までついてくる。


 肉質も値段を考えれば悪くないそうで、お得な感じはするのですが、夜1時にステーキか、うーむ……と、40代の男は逡巡してしまうわけです。
 カロリー的には、「締めのラーメン+ギョーザ」と、そんなに変わらないのかもしれないけれど。


 また、「牛丼太郎」というチェーン店が倒産したあと、有志たちが集まってその味を守り続けている「丼太郎」の物語は、けっこう印象的だったんですよね。

 茗荷谷——。この文京区の切り立った崖の上に、牛丼界最後のレジスタンスは存在する。「丼太郎」。それは1980年代〜2000年代まで激安を武器に23区限定で勢力を伸ばした「牛丼太郎」のルーツを汲む、インディーズ牛丼店。
 2012年に本体が倒産したことを受け、重臣だった社員3名が命からがら脱出し、支城の2つ、代々木と茗荷谷を自らの退職金で買い取るも、3人で2店舗の運営は物理的に難しく、2015年に代々木店は閉店し、茗荷谷の地でお家の再興を期することとなった。


 チェーン店の幹部社員だった人が、その味を守るために、自分たちが厨房に立ってやっている牛丼店、か……
 これも一つのドラマですよね.『牛丼太郎』の『牛』がガムテープで消されているという『丼太郎』、一度は行ってみたいものです。


 「チェーン店」って、食通にはネガティブなイメージを持たれがちなのだけれど、「安心して入れる店」であることは確かなのです。
 僕も「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」のだよなあ。
 そんな「大きな声では言いづらいけど、実はチェーン店好き」の諸氏におすすめです。


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