琥珀色の戯言

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【読書感想】ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる ☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
本書は、選手や監督ではなく、親会社の事情も含めたプロ野球12球団の事業構造そのものに焦点をあてた一冊である。現役の金融ジャーナリストが、公開情報はもちろん、球団代表への取材や全球団への質問状送付、顧客満足度調査に全本拠地の現地取材といった、12年間の取材と執念で得たプロ野球の“経営”に関するデータを結集し、12球団を一球団ずつ詳細に分析する。


 金融ジャーナリストが日本のプロ野球の球団経営をさまざまなデータや資料、関係者の話などを駆使してまとめたものです。

 パ・リーグ球団の球団改革が本格化してかれこれ10年以上。この間、その努力の成果は観客動員数の増加という、極めてわかりやすい形で現れ、2016年シーズンの観客動員数はセ、パ両リーグ合わせて2498万1514人を記録した。
 2005年の動員数は1992万4613人だったので、11年間で25%の伸びを記録したことになる。さらに、パ・リーグに限って言えば、2005年の825万2042人が1113万2526年に増えたので、伸び率は34.9%。
 あらゆる産業が成熟化する中、経営努力がこれだけの数字となって現れることはそう多くはない。
 だからか、プロ野球興行はマーケティング領域の研究テーマとして注目されるようになり、この10年ほどの間に、多くのマーケティングの専門家たちが、プロ野球興行をテーマに書籍を執筆している。


 巨人戦が地上波で放送されなくなった、視聴率が稼げなくなった、と言われるようになってだいぶ経つのですが、「入場料を払って、球場で観戦する人」の数は、こんなに増えているのです。
 とくに、パ・リーグの盛り上がりは、僕の子どもの頃の閑散とした川崎球場藤井寺球場の映像を思い出すと、隔世の感があります。
 巨人戦の地上波全国中継は激減しても、広島でのカープや福岡でのホークスなどの「地域の球団」は、地元のテレビ放送では安定して高い視聴率を稼げる人気コンテンツになっていますし。


 この本、「総論」としての球団経営だけでなく、12球団それぞれについて、個別に解説されているのが興味深いところで、同じ「プロ野球チーム」でも、巨人とソフトバンク、そして広島やヤクルトでは、だいぶ「事情」が違うということがよくわかります。
 正直なところ、けっこう経済の専門用語が出てきて、経済学に疎い僕には眠くなってしまうようなところもあったのですが……
 著者は実際に各球団の本拠地球場を訪れており、観戦のしやすさ(前後の席の高さがあまり変わらない球場では、前に普通の背の高さの人がいると、試合がほとんど見えない=子どもは試合がほとんど見えていないのではないか、というのは、あらためて指摘されてみると、そうだよなあ、って)や女子トイレの充実度など(今でも女子トイレには和式が多い球場も少なからずあるそうです)についても言及されています。


 また、それぞれの本拠地での「独自のサービス」も紹介されていて、「このチームでは、こんなことをやっているのか」と感心してしまいます。
 自分の贔屓のチームをホームゲームで観ることはあっても、ビジターで観戦する機会って、そんなにあるものじゃないから。
 関東のカープファンには、マツダスタジアムよりも神宮球場横浜スタジアムのほうが身近なのだとしても。


 楽天の本拠地・Koboパーク宮城について。

 これも私見だが、フードの充実ぶりは12球団中群を抜く高水準だと思う。球団創設当初から、ボールパーク化構想を打ち出し、球場だけでなく、その周辺の敷地も営業権の対象として獲得した点が奏功しているのだろう。
 球場内部の店舗の水準もさることながら、外周部の店舗の水準は極めて高い。地元の名産品を使ったものから、おしゃれな洋食モノまでバラエティに富んでいる。外周部で購入したフードを食べられる様、大量のイスとテーブルを並べたスペースもあり、そこには可動式のモニターも設置され、球団が制作している基本映像と思われる中継も見ることができる。
 このスペースはチケットを持っていなくても、外から誰でも入れる場所なので、チケットを買わない人でもフードやドリンクへの収益貢献は果たしてくれるのだろう。


(中略)


 だが、筆者がこの球団もしくは球場を評価する、1番のポイントは、小学生以下を対象に、ジェット風船の残骸をシールと交換するシステムだ。ラッキーセブンのジェット風船上げが終わると、スーパーのポリ袋を持った子供たちが、ジェット風船の残骸を拾って歩く。このため、ゲーム終了時点で客席に落ちているジェット風船の残骸は限りなくゼロに等しい。


 そうか、こういうふうにすれば、ジェット風船を片づける手間は省けるし、子供たちも喜ぶよね。よく考えたなあ。
 最近の球団経営は、競争というより、球団の壁をこえて協力しあったり、参考にしているみたいなので、近い将来、マツダスタジアム福岡ドームでも同じようになるかもしれません。


 その一方で、オリックスの本拠地・京セラドーム大阪のこんな問題点も指摘しています。

 そしてこの球場の決定的な欠陥は、外野フェンスのすぐ上部が飲食店舗になっていて、外野に通うファンから、ホームランボールが目の前に飛び込む機会を奪っている点にある。
 外野スタンドはその上の階に設けられているので、かなり飛距離があるホームランでないと届かない。
 これはオリックスには何の責任もなく、この球場を造った役人の責任である。外野に通うファンは、年間数十試合を観戦する人も珍しくない、ファンの中でも最も忠誠心が高い層だ。球団側が何の努力もしなくても、自腹で通い詰めてくれるありがたい存在である。
 そういう人たちだから、どんな環境でも文句は言うまいと考えたのかどうかはわからないが、もともと計画段階から多目的を全面に押し出していたことから考えても、野球を見ない人が考えたとしか思えないレイアウトである。一体全体、ここを本拠地として使おうというのに、近鉄球団は何をしていたのかと思う。
 オリックスがこの球場を90億円で買収することが決まった際、この球場をその値段で買うなら、別の場所に造った方がマシではないかという声がファンの間から出たのは当然だろう。


 たしかに、あのホームランボールがぐんぐん迫ってくるのが「見えない」というのは、観戦の魅力をかなり減じてしまいそうです。
 こんな球場もあるのか……

 12球団唯一、全く経営実体がわからないのが中日ドラゴンズである。
 会社法440条規定の決算公告媒体は、商業登記簿謄本を見る限り、名古屋市内で発行する中日新聞とあるので、この6年は国会図書館でくまなくチェックしているのだが、未だに1度も見つけることができないでいる。
 球団側にも掲載しているのなら掲載日を教えてくれるよう頼んだのだが、取材は全面拒否。


 巨人と中日、とくに中日ドラゴンズの経営実態の謎っぷりは、「どうしてそんなに隠す必要があるのだろう?」と疑問になるレベルです。
 この二球団、読売新聞社中日新聞社という「マスメディア」が経営母体のはずなのに、「情報公開」にものすごく消極的なのです。


 プロ野球ファンのなかで、「スポーツビジネス」に興味がある人には、楽しめる本だと思います。
 ちょっと専門的で、難解なところもありますが、きちんとデータを紹介しながら論じられていますし。