琥珀色の戯言

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【読書感想】あの会社はこうして潰れた ☆☆☆


Kindle版もあります。

あの会社はこうして潰れた

あの会社はこうして潰れた

内容(「BOOK」データベースより)
77億円を集めた人気ファンド、創業400年の老舗菓子店、名医が経営する病院―。あの企業はなぜ破綻したのか?トップの判断ミス、無謀な投資、同族企業の事業承継失敗、不正、詐欺など、ウラで起きていたことをつぶさに見てきた信用調査マンが明かす。倒産の裏側にはドラマがある!日経電子版好評連載!


 僕は、経済や企業経営のことにそんなに詳しくないのですが、日本はずっと不景気が続いていて(「アベノミクス」の恩恵もほとんど実感することはないですし)、会社がどんどん潰れているのだろうな、と思っていたのです。
 ところが、実際はそうじゃないんですね。

「無倒産時代」に突入している。リーマン・ショック後の2009年12月に「中小企業金融円滑化法」が施行、銀行から借金返済の猶予を受けた約40万社の企業が延命された。結果、企業倒産は2010年以降7年連続で現象しており、「危ない会社」が潰れない「無倒産時代」が続いている。
 ある地方銀行の本部から、こんな相談があった。「倒産を知らない若手支店長に現場を教えてほしい」。25年間、数千社の倒産現場を見てきた私はその言葉に驚いた。倒産件数の減少で、実際の倒産現場がない銀行マンが多いというのだ。確かに、これほど企業が倒産しないとなると、そのような支店長がいても不思議はない。
 2016年の企業倒産は8164件。実際に日本経済や企業取引に影響を与えている。そしてまたいつか、倒産ラッシュの日々が来ないとも限らない。
 2015年5月から日本経済新聞電子版で掲載が始まった「企業信用調査マンの目」は倒産事例を整理し、「あの会社はこうして潰れた」ことをコラムにまとめたものだ。金融や証券会社、大手上場ゼネコンなど世間を騒がすような事例はない。どこにでもある中小企業を主に取り上げた。


 新聞のコラムということもあり、ひとつひとつの事例は、そんなに詳しく書かれているわけではありません。その分、多くの「倒産会社」が紹介されており、通して読んでみると「潰れる会社の傾向」みたいなものが見えてくるところはあるのです。
 日本ロジテックや「ジュエリーマキ」の三貴、芳林堂書店など、メディアでかなり大きく取り上げられた会社もあれば、「アイスノン」をつくっていた会社とか、『エドウィン』とか、そんな状況になってたの?と、僕が知らなかった倒産や経営危機も紹介されています。


 ゲームセンターを運営していた「ザ・サードプラネット」のように「ゲームセンターという業態そのものの規模の縮小」で経営難に陥ることもあれば、本業は堅調なのに、経営者がそれ以外の財テクにハマってしまい、資金繰りが厳しくなる、というケースもあります。急成長をとげ、拡大路線を続けていったのが、競合他社の出現や店舗の増え過ぎであだになる、ということもあるんですね。


 1965年に設立された「ジュエリーマキ」の三貴のこんな「販売方法」が紹介されています。

 販売方法は独特で、従来の宝飾業界の関係者からはひんしゅくを買ったが、新たな顧客開拓には大きな効果があった。都心のJRターミナル駅コンコースに出店している銀座ジュエリーマキの店内。そこから若い女性店員が手招きをして通行人の若い男性に声をかける。何かと近づくと、気の利いた会話が始まり、「お付き合いしている彼女に(彼女のいない場合は本人に)ダイヤモンドはいかが」と、分割払いでの購入を勧めるのだ。
 買う意思を持って来店する顧客を対象としている従来の考え方とは180度の転換。顧客を待つのでなく、捕まえる。キャッチセールスと見まがうばかりの強引な販売方法が業績拡大を後押しした。
 イメージ戦略も巧みだった。宝飾の主力製品「カメリアダイヤモンド」、多角化で始めた婦人服店「ブティックJOY」と子供服店「ファニィ」。これらのテレビCMに米国女優のシャロン・ストーンや大物モデルを、CMソングにはB’z中西圭三らを起用し、先鋭的なブランドイメージを演出した。深夜を中心にテレビCMを大量出稿したため、若者が注目。一時期、三貴のCMソングで爆発的に人気の出た歌手らを「カメリア族」と呼ぶ現象まで起きた。
 業界団体の日本ジュエリー協会に加盟せず、異端児的存在とも言われた三貴だったが、木村の戦略が面白いように当たり、90年代初めには1000億円を突破するなど業界トップの地位に上りつめる。
 当時は年に2回ほど100名近い仕入れ先を熱海に招き、経営方針などを説明する機会を設けていた。「仕入先を見下すような宝飾会社の社長も多いなかで(木村は)仕入れ先を大事にしていた」と取引業者の目に映った。


 これって、キャッチセールスそのものなのでは、というか、こんなのでダイヤモンドが売れるのか?と、今となっては不思議なのですが、当時はこれが「新しかった」のですね。
 「カメリアダイヤモンド」のCMを記憶している人も多いはずです。
 メディアで「強引な販売方法」が問題視されなかったのも、多額の広告を出稿していた、という事情があるのかもしれません。
 拡大戦略を続けていた三貴なのですが、バブル崩壊で景気が悪化すると宝飾品市場が縮小し、ダイヤモンドも円高で価格が低下したことから、資産目的で買う人が減ってしまいます。
 その後は、3度の経営破綻(ある意味、3回も破綻しても再チャレンジの道がある、というのはすごいことだと思いますが)を繰り返すことになった三貴に対して、著者はこう述べています。

 老舗といわれる「業歴100年企業」において、生き残るために必要なものとして多くあげられることの1つに「進取の気性」がある。つまり変化を恐れないことが、企業としての「長生き」の秘訣でもあるのだ。宝飾の流通を大きく変えた三貴。創業から絶頂期まで木村が従来にない異質の経営手法で確かな実績を上げたのは間違いない。ただ、大衆化路線を切り開き先頭を走ってきた自負が、現状こそベストという考え方、ひいては変化を嫌う姿勢につながり、再生のチャンスを2回も逃すことになったのではないだろうか。三度目の正直となるか。今後の再建の行方は「変われるか」にかかっている。


 一度「成功」するのは凄いことなのだけれど、「成功し続ける」ことは、さらに難しいのです。
 「成功体験」が、足枷になってしまうことも少なくないのだよなあ。
 変わらないことと、変わること。
 そのバランスが大事なのだと言うことは簡単なのだけれど、実際にやるのは大変なのです。

 帝国データバンク保有する企業データベースによれば、老舗といわれる「業歴100年企業」には3つの特徴があることが分かっている。1つ目が事業承継(社長交代)の重要性。2つ目が取引先との友好的な関係。3つ目が「番頭の存在」だ。


 いまの東芝をみていると、この3つを維持していくことって、シンプルなようで、本当に難しいのだな、と思わずにはいられません。
 成功体験にとらわれたり、つい、ラクに儲かりそうなサイドビジネスに手を出してしまう「気持ちはわかる」のですよね。
 「長生き」するためには、AI(人工知能)が経営するほうが、うまくいくんじゃないかなあ。

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