琥珀色の戯言

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【読書感想】Suicaが世界を制覇する アップルが日本の技術を選んだ理由 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
アップルはいったい何をする気なんだ?―脱ガラパゴスに挑んだ起死回生の物語。2001年にJR東日本によって誕生したSuica。発行枚数約6000万枚を誇る国内無敵のIC乗車券/電子マネーも、高性能すぎたがゆえにグローバル化の波から取り残されつつあった。復活を賭けて挑んだのは、iPhoneへの搭載。熾烈な交渉のなかで、アップルに扉を開かせた切り札とは?銀行・クレジット会社・IT企業が覇を競う次世代決済戦争において主役に躍り出たSuica、その復活の軌跡を追う!


 普段は九州の地方都市に住み、自家用車で通勤しています。
 電車に乗るのは出張か旅行のときくらいなのですが、東京のターミナル駅の改札口の光景に、いつも驚かされます。
 ほとんど切符を買う人がいない……
 みんな、Suicaを使って、足早に改札を通っていくのです。
 都会では、ここまでSuicaが普及しているのか、未来都市みたいだ……


 ずっと電車通勤をしている人にとっては、その変化のプロセスを見てきて、違和感がないのでしょうけど、たまにしか東京で電車に乗らないと、なんだか場違いな気分にさえなるのです。
 僕は、まだ切符とか買って消耗してるの?って。


 iPhone7が発売される際、Suicaが搭載されるというのが大きく取り上げられることが多かったのですが、使っていない僕にとっては、「それって、そんなに大事な話なのかな」という印象でした。

 2001年11月にJR東日本によってサービスが開始されたIC乗車カード/電子マネーであるSuicaは、いまや私たちの日常生活の中でなくてはならないものになっている。2016年3月末現在で、その発行枚数は約5704万枚、利用可能店舗数は約34万2000店舗。同じIC乗車カードである「PASMO」(関東地方を中心とする私鉄など)や「ICOCA」(JR西日本)、「TOICA」(JR東海)などとの相互利用もなされ、日本全国に「Suica経済圏」を打ち立てている。
 そんな無敵の存在に見えるSuicaも、死角があった。なぜか国際標準と認められなかったのである。そのため近年では、日本でしか通用しない「ガラパゴス」の象徴と揶揄されるようになっていた。グローバル化の流れの中で、そのうち日本でも、別の国際規格に置き換えられていく――。業界内ではそんな観測すらささやかれ始めていた。
 こうした状況を脱するための起死回生の一策こそ、グローバルの権化ともいえるiPhoneへのSuica搭載だった。これが果たされたことは、Suicaが、一躍世界進出の足がかりを得たことを意味しているのだ。


 単に、iPhoneでもようやく利用できるようになっただけなのに、なんでこんなに騒がれるのだろう、と思っていたのですが、Suicaというのは、実際に鉄道で利用している人たちにとっては、一度使ったら手放せないくらい便利なものみたいです。
 iPhoneに機種変更したいのだけど、Suicaが使えなくなるから、とためらっていた人も少なくなかったのだとか。


 この新書のなかでは、Suicaの誕生から普及、そして、モバイルSuicaの停滞と「国際基準」になれなかったことへの苦悩が時代を追って紹介されています。
 Suicaに使われているソニーが開発したICカードFelicaフェリカ)は、非接触ICカードとしては処理速度が圧倒的に速く(だからこそ、改札をあれだけの人が滞りなく通過できるのです)、高度なセキュリティ機能と用途別に柔軟な使い方が設定できる、という高性能のものです。


 2001年11月18日に発売され、利用可能となったSuicaは爆発的に普及していきます。

 Suicaは発売後19日で発行枚数が100万枚を突破、2ヵ月後には200万枚を超えた。1年後には500万枚に達し、JR東日本が当面の目標としていた600万枚を2年後の2003年11月にはあっさり超えて、750万枚となる。
 その後も順調に発行枚数は増え続け、3年後の2004年末には1000万枚の大台を超える。この時点で、JR東日本管内の4割でSuicaが使われていることがわかった。


 ちなみに、自動改札機が導入されたのは1990年だそうですから、駅員さんがハサミで紙の切符を切っていた時代を知っている僕としては、いまのSuicaをかざして改札を通り過ぎていく人たちをみるたびに、いつの間にこんなことになってしまったんだ!という隔世の感があるのです。


 これだけ急速に普及したSuicaなのですが、2006年1月にNTTドコモの「おサイフケータイ」上ではじまった「モバイルSuica」は、期待されていたほど普及しませんでした。
 著者は、なかなか普及しなかった理由として、携帯電話に載せて使うことへのセキュリティ上の不安と、フェリカが国際標準規格として認められていなかったことを挙げています。

 国際標準を取れていないことが災いして、Suicaはこれほど日本中に普及しているにもかかわらず、業界内で「ガラパゴス」の汚名に甘んじることになった。日本だけでしか通用しない技術を採用した、日本だけでしか通用しないICカードというわけだ。
 2007年、JR東日本SuicaPASMOの相互利用開始に際して、こんな発表を行った。「首都圏のほとんどの私鉄・地下鉄・路線バスでSuicaの利用が可能となり、世界最大規模のICカードネットワークを形成した」
 1000万人を優に超える人々が毎日ICカードを使って暮らしているところなど、ほかにどこにもないのは事実だった。
 ところが当時の雰囲気を思い返すと、私も含めた専門家ほど、毎日使っているSuicaが世界一のICカードであり、電子マネーだと言われてもどこかピンときていなかった。外国にはもっとすごい電子マネーがあって、広く普及している地域があるに違いない。そこには遠く及ばないだろうと勝手に思い込んでいたのだ。


 これだけ、さまざまなメディアで「日本礼賛」が行われている一方で、いざ、他国から「これは日本がいちばんすごい」と言われてみると「本当だろうか?」と疑心暗鬼になってしまう。
 それ、わかるような気がします。


 いまの日本で(そしておそらく、世界の多くの地域で)、携帯電話を肌身離さず持っている人は多いはずです。
 アップルが進めている「アップルペイ」の機能について、著者はこうまとめています。

 アップルペイハクレジットカードと電子マネーiPhoneに入れて使う決済サービスだ。ひと言でいえば、アップルペイでスマホが財布になる。スマホ1台あれば、IC乗車券、財布や電子マネー、クレジットカードを持たずに電車に乗って街に出かけ、自由に買い物や食事ができてしまう。


 携帯電話1台あれば、財布がいらない生活。
 セキュリティが不安になるところではありますが、著者は、Touch IDという指紋認証を用いれば、決済にサインもいらないし、スキミング被害も防げると指摘しています。
 あらためて考えてみれば、これまでのカード+サインよりも、このほうが安全かもしれません。


 ただ、既存のクレジットカード会社からすると、すべてのお金の流れがiPhone、そしてアップル経由になると、自分たちの権益が脅かされるのも事実です。
 2016年には、アップルペイに対して、アンドロイドペイが始まりました。これは、アップルの「宿敵」グーグルとVISAが協力してつくったものでした。

 アップルは、ユーザーがクレジットカードを利用した場合、アップルペイに参加したJCB三井住友カードなどのクレジットカード会社から一定の手数料を取る。一方のグーグルは、アンドロイドペイに参加したカード会社からは手数料を取らない。つまり、国際ブランドのVISAやマスターカードの領分は侵さないと約束しているから手を組みやすかったのだ。この違いは、決済サービスに参加するクレジットカード会社にとって大きい。
 ただし、アップルは第5章で述べたように、クレジットカード利用に関係した顧客データを集めることはしない。これに対してグーグルは顧客データを取る。日本経済新聞電子版の2016年8月31日付によれば、グーグルは手数料を取らない代わりに、「利用者の消費行動に関するデータを収集・分析。一人一人に提供する情報や広告の精度をさらに高めることで、収益の柱である広告事業の拡大を狙う」という。
 このように、アップルペイとアンドロイドペイという決済サービスには、対照的な違いがある。


 これはまさに、アップルとグーグルの企業文化の違いを反映しているように思われます。
 さて、どちらが天下を取ることになるのか。


 とりあえず、これを読んで、僕もモバイルのカードを使ってみようかな、という気になりました。
 一度登録してしまえば、あとはものすごく便利になりそうだし、不安だったセキュリティもけっこうしっかりしているみたいなので。