琥珀色の戯言

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【読書感想】絶望の超高齢社会~介護業界の生き地獄~ ☆☆☆☆

絶望の超高齢社会: 介護業界の生き地獄 (小学館新書)

絶望の超高齢社会: 介護業界の生き地獄 (小学館新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
2025年の日本は、団塊の世代後期高齢者となり、国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となる。これまで人類が経験したことがない超・超高齢社会が到来するのだ。一方で介護職は100万人足りなくなるともいわれている。現在の介護業界は、重労働の上に低賃金ということで人が集まらない。国からの助成金を狙って暴力団が参入し、法務省の方針で元受刑者たちが介護現場に立ち始めている。女性介護職は貧困とストレスから売春に走り、男性介護職は虐待を繰り返すケースも少なくない。まさに崖っぷちの状況なのだ。

 介護業界に「ブラック企業」が多いことはけっこう知られていて、テレビドラマでそのハードさが描かれた際には、業界関係者からの抗議が話題になりました。
 医療というのは、介護と切っても切れない関係があるのですが、その一方で、直接の接点というのは、所属している病院の系列の介護施設から患者さんが受診してくるくらいなんですよね。
 医者によっては、施設長を兼務していたり、回診に行ったりすることもあるのですが。


 この新書は、介護施設の施設長をつとめていたこともある著者による「介護業界のリアル」を描いたものです。
 「そんなにみんな風俗で働いているの?」と、驚いてしまうのですが、なんというか、介護業界で働いている人たちの「こんなはずじゃなかった感」というのは、疲れ切った彼ら、彼女らの表情から伝わってくる気がします。

 筆者はかつて介護事業所を運営していた時期がある。その過程で、2008年、後にブラック企業として糾弾される介護法人が主催する、「管理者研修」なる1週間に及ぶ研修も受講した経験がある。東京都にあるお泊りデイサービスの事業所で研修職員として1週間、シフト通りに働くという内容だった。今思えば、この管理者研修はブラック運営が詰め込まれた脱法まみれの内容だった。
 介護に対してまったくの無知の素人だった筆者は、言われるままに働き、研修を受けた。正規職員は週1日平均で、月間4~5日の夜勤が義務付けられていた。夜勤日のシフトは日勤職員として朝9時に出勤、そのまま帰ることなく夜勤をして、また翌日日勤職員として働く。終業はなんと翌日18時。33時間連続勤務という凄まじい長時間労働で、20時~翌朝7時までの11時間はワンオペ(1人体制)だった。担当者によると「今日の仕事は、夜勤じゃない、あくまでも宿直です。だから18時~翌朝9時までの仕事は勤務じゃないので、給与は出ません。中村さんも事業所を運営するときは、ちょっと手当くらい出しとけばいいんじゃないですか」と説明された。要するに時給ではない正規職員が夜勤に入る場合、夜勤ではなくて宿直扱いで33時間連続勤務しても、労働時間として認めるのは日勤2日分のみでいいという解釈だ。夜勤は人件費がかかりません、と堂々と言っていた。その異常な長時間労働労基法違反と知るのは、だいぶ後になってからだった。


 ああ、医者の「当直」もこういう扱いをしている病院が多いんだよなあ、と思いながら読みました。
 いつ呼ばれるかわからない状態で、当直室で緊張しっぱなし。ほとんど眠れない夜もあるのに「診察室で患者さんを診ている時間だけが『仕事をしている時間』です」と言われたこともあったのです。
 多くの場合、医者の当直は、金銭的な対価がある程度は伴っているだけマシなのかもしれません。もちろん、その分の責任の重さもあるのですけど。


 成長産業だといわれて介護の資格をとってみれば、給料は安いし仕事もきつい。
 あまりにもコストがかかることに恐れをなした国や自治体は、なるべくお金を払わないようにしたいし、自分たちが直接入所者と接するわけではない経営者たちは、「コストダウン」を徹底しようとします。

 介護業界には行き過ぎたブラック事業所が蔓延しているのではないか、と取材を始めた。そのうちに介護職たちからたまにメールが来るようになった。
「1人体制の夜勤で6時間休憩ってなっているのに、休憩が一切とれない」「辞めた月の給与が支払われない」「管理者から解雇を言い渡されたのに離職票をもらえない」「フェイスブック登録を強制され、24時間仕事関係から解放されない」「36協定ってなんですか?」と、無茶苦茶な話ばかりだった。ちなみに36(サブロク)協定とは労働基準法第36条に記される“労働時間を延長、又は休日に労働させることができる”労使協定で、労働者が署名をすれば時間を超えた残業が認められる。正規雇用された介護職や介護関係職の多くは、よく理解しないまま経営者に促されて36協定の書面に捺印している。
 現在、全国にブラック運営する介護施設は溢れかえる。一つひとつの違法運営の裏側に寂しさに襲われ、人生を潰しかねない子どもたちがいると思うと、やるせない気持ちになる。


 「施設でこんな扱いをされるのか」と憤るようなところであっても、「じゃあ、自分の家で面倒みてください」と言われると利用者の家族は困る。
 ひとりの人間を「完璧に介護」しようとすれば、最低でも、ひとりの人間が一日中ついていなければなりません(もちろん、介護をされる人の状態にもよりますが)。
 人間が長生きする社会は、介護をする期間、される期間が長引く社会でもあります。
 そして、それを支える若者の割合は、どんどん減っているのが日本の現状なのです。


 介護業界で働いている7~8割は女性だそうなのですが、著者は「介護業界は明らかに女性の貧困、深刻な男女格差を牽引する存在となっている」と告発しています。

 女性の経済的貧困は、性風俗産業に直結する。この数年、性風俗産業に女性を最も送り出すのは、低賃金や使い捨てが浸透する介護業界となっている。
「採用する、しないは別として、とにかく介護職っていう女性は毎日のように応募してくるよ。全員が全員給料だけでは生活できないって言っているよ」
 そう語るのは、池袋のデリヘル店長だ。低賃金を筆頭にネガティブな問題を抱える職業に従事する女性は、売春(性風俗、個人売春)に走りやすい。女性たちに「カラダを売るしかない」という選択が思い浮かぶのは、経済的な行き詰まりからが圧倒的に多い。女性介護職で普通の生活ができるのは世帯が共稼ぎか、親元で暮らす未婚女性のみ。高齢者が好き、ありがとうと言われたい、高齢社会に貢献したいと前向きな気持ちで介護職になっても、低賃金、そして現場の荒廃に心が折れ、性風俗へと逃げ出す女性が続出している。

 著者は某AVモデルプロダクションで、所属モデルのファイルを見せてもらったそうなのですが、そこには介護福祉系の有資格者が並んでいたそうです。


 この本を読んでいると、(とくに日本では)人間が長生きしすぎてしまっているのではなかろうか、と考えずにはいられなくなるのです。

 報道されることはないが、高齢者介護施設は家族が続々と親を”捨てる”場所となっている。家族たちが「(親に)早く死んでほしい」というのは日常茶飯事だ。低所得者向けのサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)やお泊まりデイ(サービス)になると、過半数どころか大多数がそのような意識で親を預ける。そのような荒んだ中で、介護職たちは低賃金の重労働を強いられる。介護職で精神を壊すものはあまりにも多いが、それは家族が放棄して捨てられた高齢者を、家族の代わりに低賃金で介護をして、自分自身が破壊されるからだ。多くの介護施設ではそのような負の連鎖が繰り返されている。
 次々よ同僚が精神を破綻させる荒れた中で、もう生産現場には戻ることはない要介護高齢者に対して、「この人たちは、どうして生きているの?」という心の奥底にそんな疑問を持つことは、もはや介護現場の最前線では珍しくない。


 現在の体制では、「充実した老後」や「行き届いた介護」を享受できるのは、ごくごく一部の資産家たちだけなのです。
 介護者も、家族も、経済的にも精神的にもギリギリのところで、なんとか日々をやりすごしている。
 育児であれば、成長していく喜びもあるのでしょうけど……

 介護の仕事が「やりがいがある」というのは、人材を集めなければならない介護業界が発信する噓だ。失業者や未経験者が集まる現在の介護は、健康ならば誰でもできる仕事であり、専門職からはほど遠い。究極の労働集約型産業で介護職は、国や経営者にとっては部品でしかなく、やりがいがあるのは結果を出せばどの仕事も同じだ。介護現場は同じことを繰り返す退屈な日常となる。


 ここまでネガティブに考えたくないけれど、これがずっと現場をみてきた著者の実感なのか……
 『銀河鉄道999』で、鉄郎が長く苦しい旅の末、ようやく機械の体がもらえる星にたどり着いてみれば、そこに待っていたのは……という最終話を思い出します。


 正直なところ、介護というのは、これから、AIやロボットが積極的に採用されていく仕事ではないか、とも思うんですよね。
 むしろ、こういう仕事こそ、「ロボット向き」だとも言えるのではなかろうか。
 そうなると、仕事を求める人間にとっては、「成長産業」ではなくなってしまいます。

 事業所経営の根幹となる報酬が大幅に減額されて、特に零細事業者が苦境に陥った。零細介護事業所は次々と閉鎖に追い込まれ、2016年の介護事業所倒産は前年度比で42.1%増、過去最悪となった。この大幅報酬減は、介護職は将来にわたって生かさず殺さず、貧困ギリギリラインに固定するという国のメッセージであろう。介護職に人件費と用途が決められている処遇改善加算によって、一時的に若干の賃金の増減はあるが、これから将来的にも介護職が人並みの収入となって、普通の生活を手に入れるのは夢の話となった。
 介護職や介護事業所を苦しめた報酬削減の牙は、2018年の次期改正で高齢者にも向けられる。2018年8月に年収340万円以上は3割負担となる。この自己負担増は通過点でしかない。年収制限はいずれ撤廃されて、最終的に介護保険は一律3割の自己負担もしくはそれ以上となるのは間違いない。
 これから超高齢社会がさらに進むにあたって医療、介護、年金などの社会保障を現状維持にすると、2060年には消費税50%でも全然財源が足りない事態になるそうだ。


 僕は2060年にはもう生きてはいないと思うけれど、これからどんどん人口が減り、高齢者の割合が増えていく日本で、今までどおりの社会保障を続けていくことが難しいのはわかります。


 延命治療や胃瘻などを希望しない家族の割合は、僕自身の印象として、この20年でものすごく増えているんですよね。
 というか、高齢者に「できるかぎりの延命をしてくれ」と言われることは、最近はほとんどありません。
 それは、情が薄くなったというよりは、自然な変化だと思います。
 このままでは、ずっと親の介護をしていて、それが終わる頃には、自分が介護される側になる、そんな人生を送る人ばかりになってしまう。


 正直、読んでいると、「まさかここまで介護の現場が荒れているなんて」と感じるんですよ、この本。
 でも、こんなの話題づくりのためのフィクションや大袈裟な表現だよ、と言い切る自信もないんですよね……


fujipon.hatenadiary.com
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