琥珀色の戯言

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【読書感想】総力取材! トランプ時代と分断される世界 アメリカ、EU、そして東アジア ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
シリア攻撃、北朝鮮牽制の空母派遣など、予想不可能の一手を繰り出し世界を驚かせ続けるトランプ大統領。いまホワイトハウスで何が起こっているのか?「自国第一主義」の波は、アメリカのみならず、ヨーロッパ、世界を席巻するのか?日米関係、米中関係は?世界は分断の時代、戦争の時代へと向かうのか?政権100日徹底取材から見えてきた“トランプ時代”のゆくえ。


 フランス大統領選の第一回投票直前の2017年4月22日、23日に放送されたNHKスペシャル「シリーズ 激震”トランプ時代”」(『第一集 トランプ 混迷のアメリカ』『第二集 炎上ヨーロッパ~広がる”自国第一主義~”』)のスタッフが、その後の追加取材を加えて書き下ろしたものです。
 
 世界中のリベラル派から不安視されている「トランプ政権」なのですが、就任から3カ月経って、アメリカではどのように評価されているのかが現地での取材をもとに描かれています。
 そして、ヨーロッパの現状についても紹介されています。
 EU離脱が決まったイギリス、大統領選の決選投票に「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が進んだフランス、多数の移民を受け入れつづけているドイツは、いま、どうなっているのか。

 
 2017年4月6日に行われたアメリカ軍のシリアへの軍事攻撃に対して、アメリカ国内ではさまざまな反応がみられたそうです。

 軍事攻撃に対し、ふだんはトランプ大統領に辛口なワシントンの専門家からも「限定的な軍事作戦で、化学兵器による被害拡大を防いだ」などと評価する声が上がっている。一方、「トランプ政権の中長期的なシリア戦略が結局、見えない。アサド政権の扱いはどうするのか。さらにはその後ろ盾となっているロシアとどうつきあうのか」と疑問視する見方もある。


(中略)


 ふだんは熱狂的なトランプ支持者たちの反応もさまざまだ。攻撃直後、ホワイトハウスの前で行われた抗議デモには奇妙な現象がみられた。トランプ大統領に反対する人たちが、反戦デモを行う一方で、それとは別に、トランプ大統領の支持者たちも「大統領はシリアではなく、アメリカ国内を優先させるべきだ」と訴えるデモを行ったのだ。さきの大統領選挙で、トランプ大統領に国内雇用の復活を託して投票したという支持者の男性は怒りをにじませてこう話していた。
「トランプ大統領は『アメリカ・ファースト』ではなかったのか。他国のためにミサイルを発射する費用があるなら、その費用は、われわれの経済改善に使うべきだ。シリアやアフガニスタンを気にかける必要などまったくない」


 トランプ大統領の立場も、なかなか難しい。
 「アメリカ・ファースト」とは言っても、アメリカがこれまでやってきたことをいきなり全部ナシにはできないし、軍需産業からのプレッシャーもあるのかもしれません。
 閣僚やホワイトハウスの高官にはウォール街出身者が多いことも指摘されており、トランプ支持者たちの期待や理想と、トランプ政権の現状は異なるようです。
 

 しかしながら、「それでもトランプ大統領を信じている、信じるしかない」という支持者も多いのです。
 機械部品メーカー・レックスノード社に24年間勤めてきて、真面目に仕事をしていたにもかかわらず、メキシコへの工場移転に伴って解雇されたレナードさんは、こう語っています。

「大金持ちになりたいとは言わない。誇りを持てる仕事に就いて、子どもに十分な教育を受けさせたい。家や車を持ちたい。そんな願いを持つことが、それほどいけないことなんだろうか……」
 そうつぶやいたレナードさんの言葉が耳に刺さった。
 その願いが打ち砕かれた今、「アメリカの雇用を守る」と約束したトランプ大統領は、彼の目にはどう映っているのか。率直に聞いてみると、返ってきたのは意外な答えだった。
「考えてみてくれ、オバマはわれわれ労働者に何も語りかけてくれなかった。歩み寄ってくれたことなんてなかった。だがトランプは、少なくともわれわれの思いを語ってくれる。いくつかの雇用を守ったし、これまでの大統領よりもよくやってくれている。ただ、われわれを救うには、大統領になるのが遅すぎたってことさ」
 自らが職を失ってもなお、レナードさんはトランプ大統領への期待感を崩すことはなかった。アメリカの中間層を形成してきた白人労働者たちが、いかに厳しい現実を突き付けられてきたのか。それを思い知らされる言葉だった。
 製造業の低迷が続く中、雇用環境の回復を求めて、オバマ前大統領の「チェンジ」にかけた八年間。その時間の長さを思えば、トランプ大統領の「最初の100日」は、彼らにとってはまばたき程度の瞬間に過ぎない。そういうことなのだろう。


 核兵器廃絶への思いや広島訪問など、日本人にとっては共感できるところが多かったオバマ前大統領なのですが、アメリカでは評価している、いないが鮮明に分かれているようです。
 弱者への社会保障、という意味では、共和党よりも民主党のほうが積極的にやっている、という印象があるのですが、中間層にとっては、「ウォール街貧困層の板挟みになって、自分たちの取り分が少なくなってしまっている」と感じるのかもしれませんね。
 レナードさんの「誇りを持てる仕事について、子供を教育ちゃんと教育できて、家や車を持てる人生」というのは、彼らが歩んできた時代では、ごくごく平均的な欲求でしょう。
 「アメリカ人だから、賃金が高い」という理由で、これまで真面目に働いてきたのに失業してしまう、という現実に「不公平」だと感じるのもわかります。
 既成の政治家ではなく、「異端」だったトランプ大統領でも実現できなければ、もう後がない、だから、まだ「道の途中」なのだからと、トランプ大統領を信じるしかない。


 取材班は、2016年12月に難民申請を却下された男が市場に大型トラックで突っ込み、12人の死者と48人の負傷者が出た事件の3か月後、取材班がベルリンの現場近くで街頭インタビューをしています。

 私たち取材班は、街の人々にインタビューを行い、難民として受け入れた人物が事件を起こしたことや、メルケル首相の難民政策についてどう思うかを尋ねてみた。すると、過半数以上の人々が「事件が起きたことはとても悲しく、理解できない」と衝撃を口にしながらも、「難民受け入れには賛成」「メルケル首相の選択は正しかった」と答えていたのが印象に残った。
 たとえば、難民支援のボランティアに携わっているという男性は、「難民たちは支援を必要としているからドイツにやってくるのであって、全員がテロリストというわけではない。困っている人を助けるのは当たり前です」と話してくれた。また、「ドイツ人でも事件を起こす人はいます。ヨーロッパの一員としてドアをオープンにしておくべきです」と話す女性もいた。
 多くの犠牲者を出した凄惨なテロの現場、難民への風当たりが強いかと想像していたのだが、寛容さを示す人々が多いことに驚かされた。
 その一方で、不安や戸惑いを口にする人が少なくなかったのも事実だ。
「地下鉄に乗っているときもテロが起きるのではないかと常に警戒するようになった」と言う女性。「難民を受け入れる際に、犯罪者を入れないよう厳しくチェックすべきだった」と言う男性。


 取材者は「難民には寛容でなければならない」というドイツの人々の「理想」や「理念」が、凶悪犯罪が相次ぐことによって、少しずつ揺らいでいるのではないか、と感じたそうです。
 ドイツが寛容な国であるというよりは、まだ経済的に恵まれているから辛抱できているだけで、これから、アメリカのようになっていくプロセスの途中にいるだけなのかもしれません。
 低所得層が住んでいる住宅が取り壊されて、難民受け入れのための小奇麗な施設が建てられたことにより、追い出された人たちが不満を持つようになった、という話を読むと、「立派な理念はさておき、自分が実際に損をしたり、不公平感を味わったりすると、寛容でいるのは難しい」ということも考えさせられるのです。

 取材の終盤の四月上旬に、ドイツ人の難民受け入れに関する最新の意識調査の結果が発表された。ドイツのベルテルスマン財団の調査によると、「難民受け入れは限界に達した」と考える人の割合は54%に上り、二年前の調査に比べて14%上昇していた。この数値の上昇から、調査では「難民を歓迎したいという意思は有意に消えつつある」としている。
 その一方で、88%の人が「難民に対する労働許可を迅速に行うべき」と考え、77%が「難民の社会統合が成功してほしい」と考えていることも明らかとなった。これは、私たちの取材実感ともほぼ一致する結果であった。
 取材の前半で見てきたように、さまざまな局面において、難民とドイツ人とのあいだでは摩擦が生じており、二年間で110万人もの難民を受け入れたことで生じた不満は無視できないほど大きなものとなっていた。これ以上、難民が流入してくると、その不満はより増大していきかねないと感じる。そこまで危機感が逼迫しているからこそ、「難民の悪口は絶対に許さない」というような硬直した空気が一部では広がっているのではないだろうか。
 ただ、取材の後半で見たように、祖国の悲惨な状況から逃れてきた人に対するドイツ人の寛容な精神は、想像以上に層が厚く、容易には流され得ないもののように感じられた。


 トランプ政権って、なんだか「面白半分」で出現してしまったような印象を持っているのですが、「トランプ的なもの」を支える人たちも、それに対して、「困っている人たちに寛容であろう」とし続けている人たちも、かなり層が厚いのだな、とこの新書を読んで感じました。
 たぶん、このせめぎあいは、これからも世界を揺り動かしていくことになるのでしょう。
 「アメリカ人で、賃金が高いから」という理由で、真面目に働いていてもクビになるのなら、「なんで報われないんだ……」って思うよね。
 企業側からすれば「会社を維持していくための致し方ない選択」なのだとしても。