琥珀色の戯言

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【読書感想】ブラック奨学金 ☆☆☆☆

ブラック奨学金 (文春新書)

ブラック奨学金 (文春新書)


Kindle版もあります。

ブラック奨学金 (文春新書)

ブラック奨学金 (文春新書)

内容(「BOOK」データベースより)
いまや約4割の大学生、100万人以上が借りる奨学金。だが、容赦のない取り立てと厳しいペナルティで返済に行き詰まり、親戚にまで厳しい請求が行く例が相次いでいる。奨学金で人生を棒に振らないための処方箋をここに公開!


 アメリカでの「学資ローン地獄」は僕も知っていて、「大学に入るためのお金を得るために、軍に入隊する」という話も聞いたことがあったのですが、日本の「奨学金」が、こんなひどいことになっていたとは。
 最初は、「奨学金を借りて通っても、返せそうもないのなら、そんな期待値が低そうな大学に行く必要はないのでは……」と思っていたのですが、この新書には、「世界各国と比較して、日本の高等教育には公的資金が使われていない」ことが指摘されています。
 いわゆる「Fランク大学」に、借金してまで通うべきなのか?というのは、意見が分かれるとは思うのですが、日本の大学進学率は51%(2012年:文部科学省ホームページより)で、OECD経済協力開発機構)諸国の平均である62%より低いのです。
 日本人は勤勉で教育熱心、というイメージを僕も持っていたのですが、大学の学費はどんどん上がってきているし、いつのまにか、「教育に消極的な国」になったのです。
 なぜ、こんなことになってしまったのか……

 突然、身に覚えのない多額の請求書が自宅に届く――。こんなことが相次いでいる。
 実は、奨学金を借りた学生がその返済に行きづまり、保証人がその返済を求められるケースが続発しているのだ。
 なぜそのようなことが起こるのか。それは、日本の奨学金はほとんどが貸与型であり、しかもその過半数が有利子だからだ。借入時には親族が連帯保証人および保証人になることが一般的である。つまり、「奨学金」とはいいながらも、実質的な「借金」なのだ。
 いまや大学生・短大生の38.5%が奨学金を利用しており、学生1人あたり、無利子の場合には平均5.3万円、有利子の場合には平均7.4万円を借りている。そして、1人当たりの合計借入額の平均は、無利子の場合で236万円、有利子で343万円にも上る(2015年度)。新社会人になる約4割の若者が、これほどの借金を背負って世に出て行くのである。
 しかも、1998年度には奨学金を借りている学生は全国で約50万人程度だったが、2006年度に100万人を超え、ピーク時の13年度は144万人へと、わずか15年で3倍近くに伸びている。このような中、奨学金を返済することができず、学生本人や保証人が訴えられるケースが激増している。
 学生が借りる奨学金のほとんどは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)のものである。JASSOの取り立ては、本人が返せない場合には保証人に行く。両親はもとより、祖父、祖母、おじ、おばにまで請求がいくこともまったく珍しくはない。また、返済の延滞者に対し、15年度にJASSOがとった法的措置は、なんと8713件にもおよぶ。これは、たった1年間の件数である。06年には1181年にすぎなかったものが、09年以降爆発的に増加し、高止まりしている。さらに、強硬な債権回収策の下、自己破産に陥る者は年間600人にもおよぶ。


 借りたものは返すのが当たり前だし、自発的に借りているものではあるのだけれど、こんなに大勢の学生が、多額の借金をしてまで大学に行く価値があるのか、そもそも、高等教育にそんなにお金がかかるというのは政策として真っ当なのか、と考えずにはいられません。
 200万、300万円の借金がある人、と聞くと、金銭感覚に問題があるのではないか、と考えてしまうのですが、実際は、大学卒業者の4割が、これだけの借金を背負った状態で、社会に出ることになるのです。
 それを返済できるような高収入で安定した仕事につけるとはかぎらないのに。
 住宅ローンや車のローンも「借金」だと言われればそうなのかもしれないけれど……

 次世代の育成どころか、日本の奨学金制度には「金融搾取」の疑いさえかけられている。
 JASSOが1年あたり徴収する利息や延滞金は非常に膨大だ。2015年度には、約387億円の利息収入と約39億円の延滞金収入が計上されている。これらは第二種(有利子)奨学金を返済している人の利息と、第一種(無利子)・第二種問わず延滞してしまった場合に掛かる年5%の延滞金によるものだ。
 実は、この利払いが安定した利益をもたらす「投資先」になっているのである。言い換えると、国や民間企業がリターンを求めてJASSOに投資をしている実情がある。JASSOのホームページには、投資家に向けた生々しいページ(IR情報)が存在するが、その中では、「返還金の回収強化、業務運営の効率化にも強い覚悟で臨」んでおり、国のバックアップもあるため各種格付け会社からAAやAA+といった高評価を受けていることが宣伝されている。いわば、「優良投資先だ」というアピールだろう。
 また、「経済的理由により修学が困難な学生等に対する支援」を行っているJASSOに投資することは「社会的責任投資(SRI)」の性格を有するとも謳っている。
 それで膨大な儲けを上げているのは民間の銀行や投資家だ。例えば、三井住友銀行は1861億円を年利0.465%でJASSOに貸している。これだけで三井住友銀行にとっては約87億円の利息収入になる。他にも様々な銀行が、当然利息を付けてJASSOにお金を貸している。まさに「奨学金」が金融商品と化しているのだ。


 近年は、無利子のものに比べて、有利子奨学金ばかりが膨張してきており、以前は無利子の奨学金の対象となっていたような優秀な学生も、有利子になってしまっているそうです。
 借りたものは返すのが当たり前とはいえ、将来への希望に投資するつもりで奨学金を借りたつもりの若者たちに立ちはだかる現実は、あまりにも厳しい。
 就職しても生活はギリギリで、給料はなかなか上がらない。
 数百万円の借金を背負った状態では、結婚にも躊躇するし、結婚しても子供をつくれない。
 病気になってしまうこともあれば、就職先がブラック企業かもしれません。

 今の学生は、奨学金を借りることを避ける。あるいは借りる額を少額に抑えれば、ブラックバイトに巻き込まれるリスクを負い、逆に、アルバイトをせずに学業に集中しようとすれば、将来の借金となる奨学金を借りざるをえなくなるという状況に追い込まれている。そこには「ブラックバイト」と「奨学金」の間におけるトレードオフの関係が生まれているのだ。しかも、奨学金の貸与だけでは十分ではないために、結局はアルバイトと借金の両方を背負ってしまう学生も大半を占めている。


 弱肉強食の世の中、というか、だからこそ、子供や若者は守られるべきだと思うのですが、現実には、「知識がない人、奨学金は借りても安全なものだと認識している人」が、遠慮なく搾取されているのです。
 そういう、次世代を育てる気がない国が「停滞」するのは、当然のことだよなあ。
 

 この新書では、奨学金が返せなくなったときの対処法や相談先なども紹介されています。
 

 そもそもJASSOの延滞金は、返済が遅れた分に対して年間5%もの高利だ。その上、JASSOは9ヵ月延滞すると「一括返済」を求める。そうなると、そこからは年率5%の延滞金が、残りの元本すべてにかかってくる。
 たとえば、400万円を借り、月に2万円返している人の場合を考えよう。9ヵ月の滞納までは18万円に対して年間5%の延滞金が発生するだけだが、10ヵ月目からは、元本の400万円すべてに延滞利息がかかる。その金額は年間20万円にも上る。その状態が5年続くと、延滞金だけで100万円以上になる。なお、2014年3月27日、あるいは同31日までの分については第一種奨学金の一部、および第二種奨学金の場合、延滞金の利率が10%であったため、さらにこの2倍以上の金額になる。逆に、もう返せる見込みがないとわかった時点で自己破産を選択していれば、この100万円は払う必要がないのである。
 確かに、債務整理心理的ハードルは低くない。しかし、何もせずに待っているだけでは、将来の返済額がどんどん増えていってしまう。自己破産が5年遅くなれば、5年分の延滞金を連帯保証人が追加で負担しなければならなくなる。さらに、自己破産をせずに裁判所でJASSOと和解した場合、予定通りに返済しないとJASSOは裁判所を通じて給料の差し押さえをおこなう。そうなれば必然的に勤務先にも知られてしまう。
 このように、どう頑張ってももう返せないとわかった時点で、自己破産しておいたほうが、結果的には周りに迷惑がかからず、周囲の人間関係への影響も最小限に抑えることができると考えられる。


 奨学金って、「きれいな借金」というイメージがあるのですが、だからこそ、ためらわずに借りてしまうし、みんな真面目に払おうとするんですよね。
 貸している側にとっては「優良金融商品」でしかないのに。
 少子化対策に本腰を入れるのであれば、若者が借金を背負わずに社会に出られるようにするというのは、かなり優先順位が高い政策だと僕は思うのです。


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