琥珀色の戯言

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【読書感想】デザイン室 ☆☆☆

デザイン室

デザイン室

内容紹介
人気ブックデザイナーが明かす、本づくりの舞台裏。


30年間に手がけた装丁10,000冊。
読者を魅了するデザインはいかに発想され、作られていくのか?
その本の内容にもっともふさわしい「かたち」を探り続ける、鈴木成一デザイン室、驚きの制作秘話。


「この本では、初期に手掛けたものから最近のものまで、約150冊をランダムに振り返りながら、制作の舞台裏やデザインについて思うこと、日ごろ言いたくても言えないストレス(笑)などについて、お話ししていこうと思います。」――まえがき「手に取られる物を作る」より――


 白い表紙に、黒で「鈴木成一デザイン室」というシンプルなタイトルが書かれている本。
 パッと見たときの印象は「これ、何の本?」だったのですが、人気ブックデザイナー、鈴木成一さんが、この30年間にデザインしてきた本の装丁の紹介と、それぞれの「狙い」について書いたものでした。


 この本を読みながら、僕は「あっ、これ読んだ!この本も!」と、驚いていたのです。
 僕は鈴木成一さんがデザインした本ばかり、意識しないまま手にとっているのではないか?と。
 書店で本を選ぶとき、作者や出版社を基準にする人は少なくないと思うのですが、表紙のデザインやデザイナーが決め手になることって、あんまりないですよね。
 むしろ、装丁が豪華だと、「こんなに装丁で推さないと売れない本なのだろうか?」なんて、中身を確認してみたりして。
 しかしながら、この本をみて、鈴木さんがデザインした本が「30年間で1万冊」というのを知って、納得がいきました。
 鈴木さんがデザインした本ばかり選んでいるというわけでもなくて、鈴木さんがデザインした本が、世の中にはたくさんあるからなんですね。

 若い頃自分もそうだったからわかりますが、一個一個の仕事を「作品」と捉えて、完璧に仕上げようとする。そうするといろんな軋轢を呼び寄せてしまいます。この時点ではここまでしかできないと潔くあきらめる。仕事として頼まれている以上、締切が来れば手放す。とは言っても、単に「締切が来たから」と言ってすぐに止めるわけではなくて、「もうちょっとなんとかならないか」と食い下がることも多々ありますが……
 あくまで仕事として、「これをいついつまでに作ってくれ」と言われて請け負う。そしてせっせと作る……それだけです。町工場みたいなもので、決して「作品」を作っているわけではなく、大量生産の商品の一端を担っているという意識のほうが強いように思います。


 採り上げられている150冊の「デザインのプロセス」を読んでいると、いろんなジャンルの本に対して、鈴木さんのアプローチのしかたもさまざまなであることがわかります。
 そもそも、僕自身「ブックデザイン」という仕事のことをよく知らなかったな、と。
 鈴木さんがすべての装丁を自分で描く、というわけではなくて、頭のなかに、さまざまなアートや絵、写真などのストックを入れておいて、それぞれの本にあったブックデザインのコンセプト(この本には、あの作家の絵が合うのではないか、とか、こういう写真が良いのではないか、というような)をつくりあげ、それを事務所のスタッフや既知のアーティストに伝えて、できあがったものをチェックしていく、というシステムになっているんですね。
 もちろん、「一から十まで全部やる」というブックデザイナーもいるのだとは思いますが、これだけたくさんのジャンル・作家の本をデザインしながら、マンネリ化もせず、それでいて、「鈴木成一っぽいデザイン」になっているのは、こういう方法でつくっているからなのでしょう。
 この本を読んでいると、鈴木さん自身が表紙に使う写真を撮りに行ったり、小道具を組み立てたりすることもあるみたいです。
 そして、よほど難解な本、分厚い本以外は、「実際にその本を読んでいる」そうで、「読書手当てが欲しい」と嘆いておられます。
 30年で1万冊、かあ……
 内容的に読みやすい本、好みの本ばかりじゃないでしょうし、大変な仕事です。
 デザインはある程度までは人任せにできる部分があっても、「代わりに本を読んでもらう」わけにはいかないだろうし。


 村上龍さんの『歌うクジラ』という本の装丁について、こんな話が出てきます。

 透明カバーの印刷は裏面から行っていて、青は普通に一回だけ刷ると、表紙の黒が透けて黒っぽくなってしまいます。そこで青を刷った上に白を3回重ねて刷ることで青をきれいに発色させています。3度白を重ねる理由は表紙からの影響を完全にシャットアウトするためです。
 このとき使用するインクは「UVインク」という、紫外線を当てて瞬間的に乾かす特殊なものです。カバーが透明のプラスチックであるため、普通のインク(オフセットのもの)だと乾きにくく、制作工程上の理由により選択しています。
 UVインクも高いわけですが、この透明カバー自体もすごく高価で、このカバーの1枚と、本文(約400ページ分)の値段がほぼ同じだそうです……。


 紙が安いのか、このカバーが高いのか……(両方なんだろうとは思いますが)
 村上龍さんの本ですし、大部分の読者は、装丁が良いから買う、というわけじゃないと思うんですよ。
 それでも、鈴木さんは、こんな凝った装丁をやってしまうのです。
 もちろん、ある程度売れる本であることがわかっているからこその贅沢ではあるのでしょうけど。


歌うクジラ(上) (講談社文庫)

歌うクジラ(上) (講談社文庫)

歌うクジラ(下) (講談社文庫)

歌うクジラ(下) (講談社文庫)

(ちなみに、高価なカバーが使われていたのは単行本のほうです)


 そして、ちょっと懐かしい『完全自殺マニュアル』の装丁をした際の、こんなエピソードも。

1993年、自殺幇助の悪書として話題になり、最終的にはR18指定で都の有害図書扱いを受けたにもかかわらず、大ベストセラーになったという異例の本です。
 こうして形になったものを見ると、そんなにヤバい感じはないと思いますが、依頼された当初は、自殺のやり方を延々解説した本など、正直やりたくなかったです(笑)。
 そうして仕事を受けるかどうか決め倦(あぐ)ねていると、「まあ、とにかく著者連れて行きますから」とやたらとポジティブな編集者にうまく乗せられてしまい、それで実際、著者がいらっしゃって、おもむろになにやら取り出して、「これ、使えますかね?」と言いながら死体のいっぱい載った法医学写真集を見せられたときにはさすがに引きました(笑)。

完全自殺マニュアル

完全自殺マニュアル


 もう20年前になるんですね、『完全自殺マニュアル』。
 興味本位で買ってきて、「熊」の項でドン引きしたり、アパートの本棚でこれを見つけた親が、ものすごく心配してくれたのを思い出します。


 この本を読みながら、電子書籍を選びがちな僕にとっては、「紙の本と書店で出会うことのすばらしさ」について考えていました。
 電子書籍には電子書籍としての「ブックデザイン」のやり方があるのでしょうけど、少なくともいまの時点では、紙の本の表紙の画像を取り込んだだけ、というような電子書籍が大多数です。
 書店の平台に、さまざまな装丁の本がずらっと並んでいて、それを端から丁寧に眺めていく、ああいう面白さは、いまのところ、電子書籍では味わうことができません。

 装丁というものは、ストレートに褒められることはほとんどありません。仮に「装丁がいい」と褒められたとしても、素直には喜べない。なぜならその装丁の根拠は、あくまでその本の内容にあるわけで、装丁そのものは内容とともにしかありえない。だからどこか面映ゆい。
「装丁がいいから読んでみたけど面白くなかった。装丁に騙された!」となったら、それは装丁がいいのではなく、むしろ装丁が悪い(笑)。
 理想としては、「装丁がいい」なんてことに気づかれずに手に取られて売れていくことです。その本が、すでに最初からそうであったかのような顔をしているのが理想ではないでしょうか。


 あらためて考えてみると、本の「装丁」って、不思議ですよね。
 そこに使われている絵とか写真って、作品の内容と「つながっている」ようではあるけれど、「作品の内容そのものを描いている」ものって、ほとんどありません。
 小説の場合は、とくにそうですよね。
 ほのめかしというか、なんとなくイメージに合っているというか、そういうデザインがよく使われているというのは、「そのものを描く」よりもなんらかの効果がある、と出版関係者、あるいは読者がみなしているということなんですよね。
 これって、実際はどうなんでしょうか。
 もしかしたら、白地に大きくタイトルだけ、みたいなほうが、売れたりするんじゃないかな……
 もちろん、書店で選ぶ側とすれば、いろんなデザインの本があったほうが、楽しいに決まっているんですけどね。


装丁を語る。

装丁を語る。

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