琥珀色の戯言

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【読書感想】ねてもさめても とくし丸 移動スーパーここにあり ☆☆☆☆

ねてもさめても とくし丸 移動スーパーここにあり

ねてもさめても とくし丸 移動スーパーここにあり

内容紹介
徳島発祥の移動スーパーで、テレビや雑誌でも話題のとくし丸。そのとくし丸と出会い、販売パートナーとして活躍する事を決めた、40代の主婦であり、母親でもある水口美穂さんが綴る、笑いと涙、冷や汗と感動の一冊。地域をまわり、商品を売り、おじいちゃんやおばあちゃんを見守る。シンプルなように見えて、実はとっても大変な道を、水口さんはこれでもかというポジティブさで駆け抜ける。


 Amazonで買えば、いいんじゃない?
 ネットではそういう意見が目立ってしまいがちなのだけれど、世の中には、「ネットに慣れていない」人もいる。
 そもそも、日本には、日用品や生鮮食料品をネットで買える地域ばかりではありません。
 むしろ、そういうサービスを必要としている高齢者が多い地域のほうが、サービスの空白地帯になりやすい。
 そして、高齢者のなかには、買い物が数少ない他者とのコミュニケーションの場だという人もいるのです。


 著者が『とくし丸』をやることになったきっかけは、こんな感じだったそうです。

 2014年の夏でした。私が住む京都府丹後地方にあるスーパー「フクヤ」に設計で関わった友人から、LINE(ライン)でメッセージが届きました。
「このあいだ、フクヤさんの会合に出席したんや。そのとき、『とくし丸』っていう移動スーパーの話が出たんやけど、その話を聞いていて美穂ちゃんの顔がパッと浮かんだんや。美穂ちゃん、向いてそうやで、やってみる気ない?」
 このラインにはあまりくわしいことは書いていなかったのに、なぜか私は軽率にも、すぐに「やりたい!」と思いました。そして、そう返事をしました。


 この本を手にとったとき、「この御時世に、移動スーパー?」って、思ったんですよ。
 でも、同じ日本でも、ちょっと田舎に行くと、近くに買い物をする場所もなければ、買い物に行く移動手段もない、という高齢者の集落が、少なからず存在しているのです。
 そういう地域を契約したスーパーから商品を預かる形で定期的に訪問し、日用品や生鮮食品などを販売するのが「とくし丸」なのです。
 「預かる」ので、仕入れに必要なお金がかからないのが大きなメリットですが、売り上げは契約しているスーパーと分け合うことになります。
 ちなみに、著者は、スーパーで取り扱っているもの以外の買い物も、可能な範囲でお客さんから受けて、訪問する際に持っていって実費を請求しているそうです。
 「ビジネス」優先ではなく、良好な人間関係をつくっていくことを大事にされているんですよね。
 ただ、小さなコンビニを毎日ひとりで車を運転しながらやっているようなものですから、扱う商品を決めて積み込んで並べるのはかなりの力仕事だし、朝早くからかなり遅い時間まで、日曜日の休み以外は、かなりハードな仕事のようです。
 現状では、大人数でやるほど稼げるわけでもない。
 日曜日以外は、まとまった休みもとれない。

 毎朝、7時前にフクヤ男山店に入ります。そこから、積み込みに3時間。泣きそうになるほど激しい作業の始まりです。
 日配(牛乳や豆腐など)、青果、海産、精肉、パン、総菜……。全部で700〜800個程度、とくし丸に積み込みます。その日の朝にスーパーの朝にスーパーの店頭に並ぶ、入荷したばかりの新しい商品を持って行くので、そこは胸を張って「どの商品も新鮮です!」と言い切れます。
 季節によって、天気によって、気温によって、コースによって、毎日、自分なりに考えながら内容をアレンジして積み込んでいきます。
 同じくとくし丸の車でも、人によって積み込み方が異なり、几帳面な方、ダイナミックな積み込みの方、種類も数もまったく違います。そこが、同じとくし丸であっても、個人事業の面白いところです。
 自分で積み込み内容をアレンジできるのは面白いのですが、10時出発という時間の縛りがあるなかで、700〜800という数の積み込みを行うのは本当にハードです。じつは毎日「もう無理!」と、心で叫びながらやっています。
 でも、商品をピッキングしながら、
「あの人はこれが好きやったな」
「この前はこのお豆腐買っておられたな」
「この商品、あの方がお好きちゃうかな?」
などと、あれやこれや考えながら積み込むのは、楽しい時間でもあります。
 それから、積み込みと同じくらい(いや、さらに?)大変なのが.月に一度の棚おろしです。
 生鮮食品は毎日積み替えしますが、一般食品や調味料、お菓子などは月に一度、賞味期限チェックをし、積み込み数を確認していきます。作業量が多く、かなりの重労働ですが、「ひとりでは絶対無理だから」と言って旦那さんが毎回手伝ってくれます。子供たちも用事のないときには手伝ってくれます。


 正直、これはけっこうキツい仕事だなあ、と思うのです。
 でも、著者はこの仕事にすごくやりがいを感じていて、楽しみながら、日々試行錯誤しつつお客さんと触れ合っているようにみえます。
 ああ、体力的にキツくても、休みが少なくても、自分に向いている仕事だったら、けっこう楽しいのかもしれない。
 当たり前のことなんですけど、「働くこと、他人に必要とされることの喜び」みたいなものが、すごく伝わってくる本なんですよ。
 そういう仕事ができているのは、著者がこの移動スーパーに向いている、というのもあるのでしょう。それに、周囲の人たちも、著者に協力してくれている。
 仕事のやりやすさ、楽しさを大きく左右するのは「人間関係」なんですよねやっぱり。

 毎日1200点くらいの商品をトラックに積んで販売してまわっていますが、それで積み込みきれない商品や、売り切れてしまう商品も出てきます。
「○○ある?」
と聞かれ、その商品がない場合、胸がキュッとなって、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。そんなときは、
「申し訳ないです。全部出てしまって……今度でもよいですか?」
と言います。各コースを週に2回ずつまわっているので、3日後か4日後にはお届けできるのですが、「そんなん待てるわけないやんなあ……」と、心の中でつぶやきながらお聞きします。でも、ほとんどの方が、
「ええで、ええで。次で大丈夫やで」
と言ってくださるのです。
 それが、すぐに必要でないものならわかります。でも、例えば、ごぼうとか大根とか、きっと今日のメニューに使おうと思われていた商品だとしても、同じように「ええで、ええで」と言ってくださるのです。
 待てん! 絶対待てん!
 私なら、我慢できないなぁ〜。
 きっと、いまの世の中が便利になって、なりすぎて、我慢することが極端に減っていると思うのです。携帯電話のおかげで、待ちぼうけなんてこともなくなりました。コンビニのおかげで、欲しいものが24時間いつでも手に入る時代です。


 僕が子供の頃、家の近くにパン屋さんの移動販売が来ていたのを思い出します。
 いまは日用品で必要なものがあれば、24時間、コンビニで買うことができる。
 便利になりましたよね、本当に。
 現在の僕には、売る側と買う側の濃い人間関係というのも、ちょっと煩わしい感じがします。
 その一方で、ネット通販やコンビニや郊外の大型ショッピングモールが買い物の中心になったために、「買い物ができる場所の空洞化」も起こっているのです。
 そして、買い物が他者との大事な接点だという人たちも、まだまだ大勢いるのです。


 「ああ、仕事って、キツいこともあるけれど、生きがいにもなるのだな」と、あらためて教えられた一冊でした。

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