琥珀色の戯言

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【読書感想】声優に死す 後悔しない声優の目指し方 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
キャリア25年、講師歴10年。クズなりに伝えておきたいこと。自分は声優を目指してもいいのか。勝算はあるのか。養成所や専門学校には入るべきなのか。何を学ぶのか。プロになったのになぜ仕事がないのか。どう生き残るのか。志望者・後輩に遺す声優論。“いつも”の関智一な、おまけ袋とじ付き!!


 最近、ベテラン声優が書いた「声優という仕事についての本」が、けっこうたくさん出るようになりました。
 大塚明夫さんの『声優魂』が、このブームのきっかけになったのではないかと思いますが、関智一さんといえば、2017年1月にテレビ朝日系列で放送された『人気声優200人が本気で選んだ!声優総選挙3時間SP』で5位にランクインした、押しも押されぬトップ声優です。
 いまの『ドラえもん』でのスネ夫役で、僕もほとんど毎週、関さんの声を聴いています。
 関さんって、舞台でも長年活動されていて、モデラ―(プラモデルの製作者)としても知られている、多才な人でもあります。
 その一方で、下ネタが得意(?)な「ゲス声優」としても知られているそうです。
 この本、本文はけっこう真面目というか、正直、あんまり面白みがないな、と思ったのですが、おまけの「袋とじ」には「らしさ」が詰まっています。


「若者人生相談」のコーナーでは、

Q1:声優の世界でもあると言われている枕営業。本当にあるのか今から心配なのですが、関さんはそんな噂を聞いたことがありますか。本当にある場合、どうすればいいのでしょうか。(声優志望Iさん)

なんていう質問にも、関さんは直球で答えておられます。


むしろ、この袋とじの内容のボリュームがもっとあればよかったのに。
正直なところ、本文は、大塚明夫さんや岩田光央さんの著書とそんなに変わらないというか、関さんがこれまで演じてきたキャラクターや周囲の声優さんの具体的なエピソードも少なめで、ちょっと物足りない感じではあったんですよね。
 もちろん、大塚さんや岩田さんの本を読んだことがなければ、新鮮な内容がたくさん含まれているのでしょうけど。

 ただし忘れてはならないのは、養成所は人材発掘の面はありますが、事務所の経営を安定させるためのビジネスでもあるということです。当たり前ですが、生徒が集まれば集まるほど利益が出る仕組みになっています(専門学校も同様です)。
 その結果、多くの一般応募の生徒が養成所のビジネスの糧になっている現実は否定できません。実際、一般応募から声優になって売れている人は、業界全体としてレアケースなのです。僕は最近、この点も生徒に正直に伝えることにしています。


 声優というのは、本当に「狭き門」であり、養成所や専門学校に入っても、プロになれる人はごくひとにぎり、プロになれても、ずっと食べていける人は少ないのです。
 「あの声優さんはこの養成所出身です!」という宣伝のために、「推薦枠」みたいな形で所属する「逆指名枠で入団したドラフト1位」みたいな人もいるんですね。
 ということは、一般入試からの人には、さらに狭き門なのか……
 大学予備校の合格実績づくりのための「特待生」みたいな感じのようです。


 関さんは、「いい声」であることは、声優にとって有利ではあるけれど、必要条件ではない、と仰っています。
 この本を読むと、関さんというのは、すごく頭が良い、そして、その場の雰囲気を読むのに長けていて、勘がいい人なのだな、というのがわかります。

 何が言いたいのかというと、もし声質に特徴がないと悩んでいる方がいたら、それで声優を目指すことを諦めたり、自信をなくしたりする必要は全くないということです。
 大事なのは、声質ではなく口調です。
 実生活の中でも、顔が良くて生き方もかっこいいのに、音声的にちょっと変な声の人はいますよね。
 でも、彼らは自分に自信があるからそれが口調にも反映されて、総じてかっこよく見えたり聞こえたりするわけです。
 逆に、アニメの主人公をやりそうな雰囲気の高い声をしている男性でも、口調や話し方がなっていなければ、全くかっこよくなんか聞こえません。
 声がいいとよく言われるからといって声優に向いている、一歩近づいたと思うのは大間違いとも言えます。


 それよりも、なんでこいつはかっこいいのか。何をもってこいつは主人公として選ばれているのか。表面的な部分を羨ましがって真似するのではなく、本質的なところに興味をもったほうがいいでしょう。
 別な言い方をすれば、いい声は精神的な部分で補える要素が多いということです。
 例えば二枚目でもてはやされている人物は、それなりに自信があるから蚊の鳴くような声ではしゃべりません。
 悪として君臨している人物であれば、まわりを抑圧しているような口調になるでしょう。思考で巧みに相手を操るような人物はしゃべり方もきっと巧みなはずです。
 それを相手に届くように演じるのです。
 彼が内包しているものをきちんと口調として芝居に乗せることができれば、声質に特徴がなくても十分だし、幸運にも声質が良ければより良くなります。
 あまり特徴のない地声だったとしても口調に注意を払うことで、うまく表現することができるのです。


 実際に、僕がやってきた役の音声だけを取り出して聴き比べれば、「同じ声じゃん」というものも多いはずです。
 例を挙げると、『のだめカンタービレ』の千秋真一と、『フルメタル・パニック!』の相良宗介は、声の雰囲気でいったらあまり変わりがありません。
 何が違うのかといったら、口調、話し方が違うのです。


 「声優」の才能というと、「声質」ばかりを意識してしまうのですが、関さんの話を読んでいると、「演じる力」が最も大事なのだということがよくわかります。
 声質といえば、以前、谷村有美さんというアーティストが「自分は子供のころ、ずっと『変な声』って言われていて、それがコンプレックスだった。でも、こうして歌う仕事をすると、その声が『クリスタルボイス』と評価されるようになったのだから、人生、何が幸いするかわからない」と話していたのを思い出します。
 同じ材料でも、料理人の腕によって、美味しくもなれば、不味くもなるのです。


 もう少し、関さんの「ゲス」「クズ」な面を読みたかった、という気はするのですが、ファンの人には、楽しめる本なのではないかと思いますよ。


fujipon.hatenadiary.com
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声優魂 (星海社新書)

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