琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】月の満ち欠け ☆☆☆

内容紹介
新たな代表作の誕生! 20年ぶりの書き下ろし
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。


 第157回直木賞受賞作。
 なのですが……
 

 ファンの人には申し訳ないのですが、僕はこの小説の「世界観」みたいなものが全く受け入れられませんでした。
 佐藤正午さんの小説って、ディテールがものすごくリアルに描かれていて、そうそう、と頷いているうちに、作品全体の「大きなフィクション」に取り込まれていく、というのが僕のイメージだったのです。
 これも、すごくディテールには気を配られているし、他の人の感想を読むと、登場してくる「るり一族」の相関図をつくってみた、という「深く読む人たち」には、けっこう好評なんですよね。
 でも、僕はどんなにリアルっぽく描かれていても、こんなオカルトじみた世界に親近感は抱けないし、ロリコンおやじの妄想小説のように思えて、最後のほうは、「長いなこれ、つまんないというか、腹立ってきた。直木賞とか獲ってなければ、絶対に途中で読むのやめたな」と愚痴をこぼしながら、なんとか最後までたどり着きました。
 正直、読み終えて、ホッとしたよ。やっと終わった、って。


 そもそも、なんで「るり一族」にとって、彼が「運命の男」だったのかよくわからないし、単に若い頃の初恋、みたいなものを美化したいだけのオッサンたちが支持したから直木賞なのでは、とか思ってしまうんですよ。
 いまの直木賞の審査員たちは、「生まれ変わりの物語」みたいなものを、あまり読んだことがない世代なのだろうか?
 ちなみにこの回の選考委員はこの方々です。

浅田 次郎、伊集院 静、北方 謙三、桐野 夏生、高村 薫、林 真理子、東野 圭吾、宮城谷 昌光、宮部 みゆき


 うーむ、最も若い宮部みゆきさんが56歳、次の東野圭吾さんが59歳。最高齢の宮城谷昌光さんが72歳。宮部さんや東野さんは、この手の「生まれ変わりもの」って、少なからず読んできているはずなんだけど。佐藤さんの筆力で読ませるし、ディテールも凝っている、という評価なのか。
 それとも、今回の他の候補者の年齢と、佐藤正午さんが最高齢の61歳で、次が、佐藤巌太郎さんの55歳、あとは木下昌輝さん42歳、宮内悠介さん38歳、柚木麻子さん35歳だったので、突出した作品もなかったため、「年功序列」的に佐藤さんに授賞したのか。
 朝井リョウさんや辻村深月さんみたいに、「この若さで!」みたいな人もいるから、常に年功序列じゃないんでしょうけどね……
 マンガやライトノベルなどでも「転生もの」を腐る程読んできた世代にとっては、「これが直木賞かよ!」なのではないかなあ。
 ただ、長年受賞作を読んでいると、「この作家にあげるのは良いとして、なぜこの作品?」というケースは頻出しています。「1作遅いよ!」みたいな。


 この小説、頭の中で映像化しながら読むと、ものすごく気持ち悪いんだよ本当に。
 「純愛」とか言うけどさ、大元は退屈している人妻と童貞男の火遊びみたいなものなのに。
 ませた女の子にオッサンが「自分にとっての運命の女性の生まれ変わりだ」とか言い寄っている姿は、読んでいてキツかった。もしかしたら、世の中には本当に「こういうこと」があるのかもしれない……とは、やっぱり僕には思えませんでした。
 

身の上話 (光文社文庫)

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鳩の撃退法 上下合本版

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