琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】国会女子の忖度日記 議員秘書は、今日もイバラの道をゆく ☆☆☆

国会女子の忖度日記: 議員秘書は、今日もイバラの道をゆく

国会女子の忖度日記: 議員秘書は、今日もイバラの道をゆく


Kindle版もあります。

内容紹介
先生がたの無茶ぶり、セクハラ、スキャンダル対応、支持者からの有り得ない陳情、エリート官僚の激しい指摘、お局女性秘書からのやっかみ、合コンでのモテなさ…。その存在は知られていても仕事や生態は全く知られていない議員秘書は案外、日本一ツラい職場だったりする。ストレスにも黒い噂にも負けず、最強の伏魔殿で働き抜いてきた修行と忖度と秘密の日々を描く。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきたノウハウは結構一般にも使える処世メソッドにも。


 議員秘書って、こんな仕事なんだ……「お仕事もの」が好きな僕にとっては、大変興味深いものがありました。
 その一方で、この本が本物の議員秘書によって書かれたものかどうかは、なんかちょっとはっきりしないな、とか疑ってもしまうんですよね。
 現役の議員秘書であれば、実名で、というわけにはいかないでしょうし、そんなに広い世界ではなく、だいたいの年齢と独身で政策秘書であるということだけでも、かなり限定されてくるでしょうから、あんまりあれこれ書き過ぎると「あの人か……」と特定されるリスクもあるんでしょうけど……
 まあ、「本物なら、ここまで書いて大丈夫なのか?」と感じてしまうくらい、けっこうギリギリのところまで攻めている、とも言えますね。

 予備知識ゼロだった私がこの仕事に対してイメージしていたのは、やはり「えらい先生」たちがやっている政治活動をサポートする立場だけに、けっこう知的な業務に携わることになるんじゃないか、といったものでした。
 でも待っていたのは、先輩秘書たちからの罵詈雑言の嵐。
「お前の脳は使うためにあるんじゃない!」
「言われたことだけしてろ!」
「ホント、お前は無能だなッ!」
「お前はバカかーーーッ!!」
 入ったばかりの新人時代は、それこそありとあらゆる言葉でさげすまれたものでした。2017年6月には「安倍チルドレン」の一人、豊田真由子議員の暴言と暴行が発覚しました。さすがに「このハゲーーーッ!!」とか外見の中傷まではなかったですが、似たようなものかもしれません。
 ただでさえ新卒で慣れない仕事ですから、「無能」呼ばわりは事実でもあるので受け入れられましたが、何かにつけて「バカバカバカ」はいくらなんでもひどいなあと思うわけです。秘書になって10年間は、ほめられたことなど間違いなくありません。もちろん、事務所による扱いの差はありますが、おおよそどこの秘書も、こんなものだと思います。


 国会議員の秘書たちがこんな環境で働きながら「働き方改革」とかを進めていこうとしても、難しいのではなかろうか……
 著者は秘書歴20年以上で、難関の試験に合格して政策秘書の資格を持っているそうなのですが、それでも、陳情の席などで、「男の秘書を呼んで」などと言われることが少なからずあるそうです。
 政治の世界、あるいは、政治家を支援する地方の組織の世界って、いまでもけっこう「男尊女卑」の傾向が強く、現代の日本ではかなり「遅れている」ように感じます。


 政策秘書はけっこう高給なのですが(この本に資料が載っているのですが、経験20年の政策秘書で、月給57万円くらいです)、国家1種試験に匹敵するほどの難関にもかかわらず、雇われている議員の当落で自分の身分も左右されるということで(優秀な人は、同じ党の他の議員のところに再就職しやすい、とはいっても)、かなり不安定な仕事ではあるんですよね。
 しかも、先生ともてはやされて研究室のなかで論文を書いていればいい、というわけではなく、選挙となれば、「ドブ板」みたいなこともやらなければなりません。
 著者によると、「ものすごく優秀な秘書は、議員になるか、他業種にすぐに引き抜かれてしまうし、全然ダメな人もすぐに辞めてしまうので、議員秘書をずっとやっているのは『微妙な人』ばかり」になるのだとか。
 

「このハゲーーーーーッ!!」と秘書に怒鳴ってすっかりおなじみになってしまった豊田真由子衆議院議員埼玉4区・騒動後に自民党を離党)ですが、実は永田町では、豊田事務所は以前から「秘書たちが就職したくない事務所ナンバー1」でした。
 そして、またも自民党の「魔の2012年当選組」です。辞めた豊田議員の秘書は初当選からの4年半で100人近く変わっていても不思議ではないとも噂され、困窮した秘書が、最後にドアを叩く事務所といわれていたのです。もはや”ネタ”と化していました。
「就職活動してるんだけど、どこか公設秘書の枠が空いている事務所があったら教えて」
「豊田事務所があるじゃん(笑)」
「えーーーーー! やめてーーーー! 死んじゃうよ」
 というやり取りを何度かしています。
 豊田議員については、川村建夫元官房長官が「あれはたまたま彼女が女性だから。あんな男の代議士なんかいっぱいいる。あんなもんじゃ済まない」とフォローして問題になりました。たしかに暴行は論外ですが、理不尽に怒鳴るだけの議員であれば、ほかにも大勢います。
 神澤も、「このハゲー!」「違うだろー!」という音声を聞いて、「なんか、なつかしい」と思ってしまいました。自分の新人時代やアホな議員の下で働いた時期を思い出し、「自分にも怒鳴られてばかりのつらい時期があったな」と振り返ったのです。すっかり感覚がマヒしています。


 一方で、議員をかばうわけではありませんが、「週刊新潮」によると、告発した秘書は支持者宛のバースデーカードの宛先と封入したカードの名前を間違えていたそうで、こんなミスは言語道断です。
 議員が支持者のお名前を間違えたら、「もう投票しないぞ!」と𠮟られてしまいます。そのため秘書たちは非常に気を遣っています。それを47通も間違えていたなんで、「秘書失格」「豊田議員でなくてもキレる」というのが永田町の住人たちの意見です。
 もちろん悪いのは豊田議員です。自分の人望のなさや日ごろの行ないの悪さを是正すべきでした。


 あの事件は、ここまで評判が地に落ちた事務所にでも就職したいという、他事務所からは声がかからないような秘書と、あまりにもキレやすい豊田議員との不幸なマリアージュが生んだ悲劇、とも言えるのかもしれません。
 これって、自分が優秀だと思い込んで、「仕事ができない部下」をスポイルしていったら、評判が落ちて、次に来る人の質がどんどん下がってさらに状況が悪化する、という悪循環の典型例でもありますね。
 

 著者は、蓮舫さんについて、こんな話もしています。

 でも、読者の皆さんは意外に思われるかもしれませんが、蓮舫さんの評判は、国会議員にも、秘書にも、官僚にも、そして党職員からもよくありません。霞ヶ関界隈のタクシーの運転手さんの一人は、
「(蓮舫さんは)とにかく威張ってるからニガテ。運転手の仲間内では『乗せたくない議員ナンバーワン』だよ」
 と言っていました。蓮舫さん本人にはそんなつもりはないと思いますが、一般には、なんか「威張っているだけ」の印象なんですね。
 かつて蓮舫さんは事業仕分け知名度を上げましたが、代表になって以後は正直、実績はないですよね。「2位じゃダメなんですか!?」と官僚を怒鳴りつけていた当時の様子も、今となってはただのヒステリーなおばさんのようにも見えてくるわけです。あの勢いで私たち秘書にも当たり散らすので、「永田町からいなくなってくれるなら万歳」と言っている秘書仲間もいたくらいでした。
 だいたいどこにでも秘書を同行させるので、永田町では「芸能人か!」と呆れられています。実際、元芸能人でもありますし、そういう気分はまだ残っているのかもしれません。でも、秘書が同行すれば交通費や宿泊費は単純に倍になりますから、予定の2倍の経費を請求された地域の事務局からブーイングが出るそうです。連れていくなら自腹でお願いしたいものです。


 匿名で書かれているものでもありますし、豊田議員や蓮舫議員はこんな人なのか、と鵜呑みにするのも危険な気はしますが、なんというか、けっこう「リアル」ではあるんですよ、この本。
 議員秘書という仕事に興味がある人は、読んでみて損はしないはず。
 読んでいると、この人(著者)が政治家になったほうが良いんじゃない?とも思うんですけどね。
 政治家に向いている人と、政治家になれる人と、政治ができる人って、たぶん、違うんだろうな……

アクセスカウンター