琥珀色の戯言

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【読書感想】ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか? ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
「貧しい時代から苦労を共にして来た妻」──糟糠(そうこう)の妻。名だたるミュージシャンの多くが苦労時代を支えた妻を捨て、やがて「トロフィーワイフ」に乗り換える。それがメディアで報じられるたびに批難轟轟となることも多いが、そんな彼らミュージシャンは果たして本当に薄情で不義理な人物なのか? GLAYのTERU、布袋寅泰桜井和寿小室哲哉矢沢永吉。大物ミュージシャンのそれぞれの人生を辿りながら、彼らが糟糠の妻と別れることになった事情と思いを読み解くことで、そこに浮かび上がるものとは? 巻末に精神科医香山リカ氏との対談収録。


 ミュージシャンは、なぜ売れると無名時代から支えてくれた妻を捨て、他の女性のもとに行ってしまうのか?
 もちろん、みんながみんなそういうわけではないし、他所で遊びまくってはいるけれど、離婚はしていない、というケースも少なからずありそうです。
 著者は、この「糟糠の妻を捨てたミュージシャン」として名前が挙がることが多い5人の実例を、さまざまな角度から詳細に検証することによって、その「理由」を探ろうとしています。


 「売れたら、いいオンナがたくさん向こうから寄ってくるんだから、そりゃ目移りするよな」とか、せっかく成功したのに、「昔のあなたはこうだった。私のサポートで成功できた」なんて言われ続けるのはつらいのではないか、とか、いろんなことを考えてしまうのですが、そういうのは、外野の想像でしかないわけで。
 

 筆者は糟糠の妻と別れた、名だたる人気ミュージシャン五名を列挙し、そのときの経緯を一から調べることで、改めて考察を加えてみた。
 生いたちから、音楽の世界に足を踏み入れるまでを前史とし、結婚したときの状況から、成功を収め、離婚したときの様子まで、できうる限り把捉した。
 多くの人たちは、糟糠の妻を捨てた彼らミュージシャンを責める側に回る。特に女性はその傾向が顕著であろう。そのこと自体は致し方ないと思う。
 しかし、筆者はあえて冷静に、公平な立場を心がけて筆を執った。
 どのタイミングで悲劇は避けられたのか、本来ならどうすればよかったのか。それらを、僭越ではあるのだが、筆者の主観で検証してみた。また、一般人の名前は、引用文献を除いて、なるべく活字にはしないで伏せることも心がけた。
 これらのことを進めていくうちに、あらゆることが判然となった。深刻な問題も露呈した。
 とにかく――、本書を手にした多くの方々が、これを最後まで読まれることで、
「糟糠の妻を捨てたミュージシャンのすべてがすべて、同じ理由ではない」
 という見地に立ってほしいと思う。そして、その一助となれば筆者も幸いである。


 著者は、GRAYのTERU、布袋寅泰桜井和寿小室哲哉矢沢永吉という名だたる「糟糠の妻を捨てたミュージシャン」を、音楽をはじめたきっかけから、デビューするまで、デビュー後、売れるまで、そして彼らの恋愛遍歴や結婚生活について紹介しています。
 ただし、布袋寅泰さんと結婚していた山下久美子さんのように、妻の側も積極的に発信する立場にいた人を除けば、妻側の肉声はほとんどないのが実情です。
 そういう意味では、「あくまでも男性側からの視点」ではありますし、布袋さんと山下さんの出会いについても、それぞれ著書で書いていることが違っていることも紹介されていて、結局のところ、「人間の数だけ、真実がある」ということなのでしょう。
 矢沢永吉さんの事例のように、売れたことによって、ファンが自宅に押し寄せてきて、生活に支障をきたすようになり、妻は精神的に参ってしまう、ということもあるのです。


 布袋寅泰さんと前妻の山下久美子さん、今の妻である今井美樹さんとの愛憎劇が描かれている章では、山下さんの友人だった今井さんと布袋さんとの出会いから、某所での今井さんから山下さんへの「宣戦布告」、そして、今井さんと再婚後も布袋さんのスキャンダルが続いていることが紹介されています。
 布袋さんと今井さんの仲が「公然の秘密」となってからも、なかなか布袋さんは山下さんと離婚しなかったのです。
 離婚を切り出したのは、山下さんの側でした。

 負けを覚悟したところで、突如勝利が転がってきた。布袋寅泰山下久美子と離婚したのだ。理由はよくわからない。ただ、向こうもぎりぎりのところを戦っていたことだけは判った。持久戦だったようだ。ボクシングのボディーブローのように、後でじわじわ効いてきたのだろう。
 後年、布袋寅泰が残した今井評が、このときの勝因を分析しているようで興味深い。
「僕は一、二、三、五、十って飛んで行くけど、君は絶対一つずつ潰していかないと十まで渡っていけない人。行動も話も」(『週刊文春』2007年11月1日号)
 かくして、今井美樹は傷つきながらも、あきらめずにダメージを与え続け、薄氷の勝利を拾ったのである。


 山下さんの側が、さらに持久戦を続けることを選んでいれば、今井さんのほうがもたなかったかもしれません。
 不倫って、ボクシングみたいなもので、一方的な試合ばかりではない。
 お互いにボコボコになるまで殴り合って、ダメージを受けまくっている状態になりながらも、最後までリングに立っていたほうが、どんなにポイント差が少なくても、勝者としてすべてを受け取れる。
 もちろん、そのリングで勝つことが、必ずしも人生の勝利につながるとは限らないのだけれど。


 「糟糠の妻を捨てた男」として、僕のなかでは最初に思い浮かぶMr.Children桜井和寿さんは、所属レコード会社社員の年上の女性と結婚していました。彼女は、デビュー後のミスチルのプロモーションにも大きく貢献していたのです。

 桜井さんの結婚と妻の妊娠は、写真週刊誌のスクープ記事になりました。
 失望を露わにしたファンに対して、ラジオ番組で、桜井さんは、ラジオ番組で、自ら、こんなメッセージを発しました。

「僕たちは普通の男と女が、普通に出会うように出会って恋をして、すごく自然な成り行きで結婚しました。近々、僕の間には子供も生まれます。僕がこういうことを言ったことで悲しむ人がいるかもしれませんが、どうかわかってほしいと思っています。なぜなら、僕はこれからも音楽を通して、喜びや優しさ、愛情を伝えていこうと思っているし、そのために、僕には僕の生活というものが必要なのです」


 同性・同世代としては、この桜井さんの言葉に「カッコいい!」と、けっこう感動したのを覚えています。
 まあ、僕が桜井さんの「ファン」というわけじゃなかった、というのも、大きいのでしょうけど。


 ところが、その何年後かに、「桜井和寿不倫!お相手はもと『ギリギリガールズ』!」という見出しに、僕は椅子からずり落ちてしまいました。
 あんなカッコいいことを言ってファンに理解を求めたはずの「糟糠の妻」を捨てて走ったのが、そんなに売れていたとはいえない、『ギリギリガールズ』の元メンバー?
 せめて『C.C.ガールズ』くらいなら……いや、それでもちょっと……
 ギリギリガールズ、というネーミングは、本人のせいじゃないとは思うんだけどさ……

「社会的地位の高い女と付き合いたくて、苦労を共にした妻と別れた」
 という一辺倒の仮説は、桜井にはまったく当たらないことになる。
 ではなぜ、桜井和寿は糟糠の妻を捨てて、吉野美佳の下に奔ったのか。
 そこで考えられるのが、冒頭で挙げた、
「巣立ち」
 である。
 桜井和寿も、有能な妻のお陰で理想的なスタートが切れたことは、当然承知していたに違いない。しかし、自身がメジャーとなってからも、妻の功績が付いて回るのは決して有り難い話ではない。大いに悩んだはずだ。
「このままでいいのか」
「ファンにどう思われようと構いやしない」
 桜井がそう思っても不思議はない。なぜならロックミュージシャンにとって、
「それってロックか、ロックじゃないか」
 --は、彼らの存在意義に関わる、重要な問いかけだからである。
「あくまでも自分の才能で成功を手にしたと信じたい。もしそうなら、妻に手ひどい裏切りをしても、売れ続けるはずだ」
 才能を恃んで、右のような気持ちが芽生えたとしても、なんら不思議はない。
 そんなとき、浮気相手のセクシーアイドルと写真を撮られてしまった。
 痛手だったし、みんなに迷惑をかけた。当然、別れるべきなのだが、これを奇貨として一勝負してみたらどうなるだろう。
 いかにも、才人の考えそうなことではないか。
「有能な妻からの巣立ち」
 が、糟糠の妻を捨てる契機を生んだと、筆者は睨んでいる。


 本人にそういう自覚があるかどうかはさておき、「自分の力で成功したのだと証明したい」という気持ちは、たしかにあったのかもしれませんね。
 有能すぎる妻というのは、それはそれで、息苦しさを生むものなのだろうか。
 だからといって、一般的な通念としては、合理的な不倫の理由にはならないと思うのだけれど。
 「善い人」だと見なされてしまうことへの反発も、あったのかもしれないなあ。
 別に悪いことじゃないのだから、反発する必要はなさそうなのに。
 

 これを読んでいると、自分が置かれたポジションによって、向いているパートナーの性質って違っていて、多くの人がその転換期の悩みに直面せずに済むのは、大成功や大失敗で環境が劇的に変わることがないから、というだけの理由なのかな、とも思えてくるのです。
 昔、困っていたときにお世話になった恩人と、友人として長い間付き合っていくことよりも、家族として一緒にいるのは、ずっとハードルが高いことだろうし。


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