琥珀色の戯言

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【読書感想】ユニクロ潜入一年 ☆☆☆☆

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年


KIndle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
ワンマン経営に疲弊する現場!サービス残業、人手不足、パワハラ、無理なシフト、出勤調整で人件費抑制―「うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」。柳井正社長の言葉に応じ、ユニクロの店舗で一年以上にわたり働いたジャーナリストが克明に描いた潜入ルポルタージュの傑作!


 『ユニクロ帝国の光と影』の著者による、「ユニクロで実際に働いてみた」体験記。
 ユニクロは、文藝春秋を相手に『ユニクロ帝国の光と影』を名誉毀損として訴えたのですが、その裁判はユニクロの敗訴で結審しました。

 もともと、名誉毀損裁判は、日本では訴える側が圧倒的に有利な裁判といわれる。しかし、ユニクロはその圧倒的に有利なはずの裁判で完敗を喫した。
 つまり、ユニクロは自ら起こした裁判において敗訴することで、自らに”ブラック企業”という烙印を押すという、自殺的な行為をとったことになる。
 その一方で、ユニクロが『ユニクロ帝国』に対して裁判を起こし、最高裁まで争ったことはまったく無駄であったかというと、そうとは言い切れない部分もある。
 ユニクロのような大企業や政治家などの”社会的強者”が起こす高額な賠償金を求める名誉毀損裁判は、<SLAPP裁判>と呼ばれ、日本語では、<威嚇裁判>や<恫喝裁判>、<高額嫌がらせ裁判>などと意訳される。
 訴える側の大企業にとっては、自分たちの社会的な評価を低下させる表現を見つけ、後は訴訟を弁護士に依頼すればいいだけだから、うるさいメディアを黙らせるには、低廉なメディア対策といえる。
 ユニクロは裁判に負けたが、しかし文春との裁判終了後、新聞や雑誌において独自取材によるユニクロ記事をほとんど見かけなくなったという点では、ユニクロは言論の萎縮効果という、実質的な”果実”を手に入れたように私にはみえた。多くのマスコミは、SLAPP裁判も辞さないというユニクロについて、調査報道をしようという気にはなかなかならないものである。私の目には、ユニクロは、あれこれと同社のことを詮索するマスコミの口を封じることに成功したように映った。


 ユニクロのような大企業になると、こういうSLAPP訴訟だけでなく、「もう、広告出しませんよ」というだけで、マスメディアも「遠慮」してしまうのです。
 マスメディアも企業ですから、そういう制約のなかで、事実を伝えるのは、本当に難しい。


 著者は、柳井社長の「うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」という言葉に、それならば、と実際にユニクロの3つの店舗でアルバイトをして、そのときの経験を書いています。

 
 読んでみて感じたのは、「あれ?僕が想像していたほど、『超絶ブラック』でも無いんじゃない?」ということでした。
 著者が比較的要領よく仕事をこなせていたからなのかもしれませんが、たしかに勤務時間の長さとか、直前になって出勤を要請されるシフトのアバウトさ、一部に問題のある社員がいる、などの問題点もあるものの、「極めてブラック」とも思えなかったのです。
 アパレル産業での就業経験がない僕としては「口が裂けてもホワイト企業とは言えないが、同業他社に比べて、そんなに突出してひどいものなのだろうか?と。
 これを読んで、積極的に「ユニクロで働きたくなった!」という人はいないと思うのですが、働く店舗によっては、ちゃんとした上司やサポートしあえる同僚もいたようですし。
 奴隷のような労働環境では、さすがに今の世の中でやっていけないのでしょうし、「給料は安いし、忙しいけれど、この仕事を通じて自分を高めよう!」という「やりがい搾取的」な構図もみえてくるのですけど。
 中国やカンボジアの取材では、劣悪な労働条件で、製品がつくられていることが報告されています。
 ただし、これに関しては、ユニクロはあくまでも縫製工場への「発注先」にしかすぎない、という立場であり、最近まで、その責任は曖昧にされていました。
 率直なところ、ユニクロの商品をあの値段で売って利益が出せるのは、低賃金でつくれる国の労働力を「搾取」している面があり、とにかく安い商品を求める消費者が、外国での安い賃金や劣悪な労働環境を生み出しているのも事実なんですよね。
 それを続けていくと、中国のように労働者の賃金が上がり、環境改善を求める声も高まってくるはずです。国や地域の格差がなくなったら、どうなるのだろう?
 その後は、同じ国のなかでの経済格差が、さらに広がっていくことになるのでしょうね。


 ちなみに、話題になった「社内での英語公用化」については、現在はこんな感じだそうです。

 ユニクロは2012年、社内での英語公用化を掲げたはずだった。
 柳井社長は当時、「日経新聞」の取材に「世界中どこでも仕事ができる人だ。アジアで出店を加速する中、現地で日本人の店長が働くには英語が必須。(TOEIC700点も)半年から一年後には多くの社員が達成できると思う」と答えている(2012年3月11日付)。
 しかし、ネットメディアのMyNewsJapanが2017年7月に報じたところによると、店長クラスの社員は、「英語学習は、完全になくなりました。あれは、数年間だけの、『一時のブーム』で、自然消滅という感じ。今では、店舗の社員が英語学習を求められることは全くなくなり、昇格の際もTOEICの点数基準はありません」と語っている。
 私が働いている間、英語を自由に操るユニクロの社員に出会わなかった理由が、これでわかった。


 正直、ユニクロの実店舗の仕事の大部分は商品の出し入れやレジ打ち、接客であり、それだけでもう、スタッフは一杯一般、という感じなんですよね。
 あとは、本部の指示に従うのみ。
 英語を自由に操れるようなハイスペックな人材も、もちろん一部には必要なのでしょうけど。
 この本を読んでいると、柳井正社長のワンマンっぷりや朝令暮改の連続に啞然としてしまうのですが、これに関しては、どうしても著者に肩入れしてしまう、という面もあります。
 なんのかんの言っても、柳井社長はこのやり方でファーストリテイリングをこれだけの企業にしてきたわけですから。
 経営者としての経験がない著者や外野の読者である僕があれこれツッコミを入れるのは、テレビの前でプロ野球選手に「アドバイス」する野球ファン、みたいなものです。
 ある意味、このくらい現場で起こっていることから離れていないと、トップというのは、「無理難題を現場に押しつけて、業績を上げる」ことができないのかな、とも考えてしまいました。
 ものすごく成長している、とか、ものすごく儲かっている、というのは、「普通じゃない」ことだから。


 この本のなかでは、アルバイトから「地域正社員」になろうとして、2015年の秋からユニクロで働き始めた女性の話が紹介されています。
 彼女は当時、乳児を抱えていました。

 当初は週に「一日4時間×3日=週12時間」という契約で働きだした。しかし、一年以上働いた中野さんは、ユニクロの雇用実態に対して憤りをあらわにする。
ユニクロでの勤務は、日雇い以下の雇用形態でした。店舗のご都合主義に振り回されました。度重なる、直前の出勤要請を受け、ストレスだらけの一年間でした。ストレスが高じて、母親にも負担をかけているし、生まれてきたばかりの我が子のわがままを聞いてやる気持ちの余裕すらなく落ち込む日々がつづきました」
 中野さんは入社すると店舗の従業員が参加していたLINEへの招待があり、すぐに参加した。それ以降、LINEを使っての緊急の出勤要請や、店舗での連絡事項の共有などが流れてくるようになった。


(中略)


 通常、ユニクロの店舗では、一ヵ月以上前に月次の出勤スケジュールを提出する。それによって、シフト担当者が月次のスケジュールを作り、それから週次のスケジュール、日次のスケジュールに落とし込んでいく。しかし、中野さんの働く店舗では、大前提となる月次のスケジュールの部分で大きく削られるのだという。
「月次では週4、5日出勤できるというシフト表を出しても、結局、週に2、3日ぐらいでシフトが組まれるんです。あとは、直前に出勤要請が入り、それに応えて10日ぐらい出勤する感じですね。結果的には、月に20日前後の出勤となることが多かったんですが、いつくるのかわからない出勤要請に振り回されて、家事や育児が二の次になってしまいました。閑散期になると、朝の7時15分から12時までのシフトが入っていても、9時の開店前になると、もう上がってください、って声がかかることが何度もありました」
 そう語る中野さんの口調に、悔しい気持ちから涙声が混じる。


(中略)


 中野さんの話を聞きながら、私は大いに呆れていた。
 店長やシフト担当者は、人件費を削るだけ削ってシフトを組んで、人手が足りなくなると出勤要請をかけ、人手を集める。自分たちのマネジメント能力のなさを、LINEを使ってスタッフに押しつけている。繰り返される出勤要請からは、スタッフの負担を軽減しようという思いやりはほとんどみえなかった。
 いつ出勤要請があるかわからないというプレッシャーから、中野さんは、
「真っ暗なトンネルの中を一人で歩いているような気持でした」
 と語る。
 月の給与は、4万円台から、10万円台までで、繁閑差に合わせて上下した。2016年の年間の給与は、額面で80万円にも届かなかった。それでも、中野さんの生活が、成り立ったのは、正社員として働く母親と同居していたからだ。


 この本には、実際の出勤要請のLINEの画面も掲載されているのですが、これを見ると、LINEそのものが嫌いになりそうです。
 便利なのは間違いないんだろうけど、これじゃあずっと「自宅待機」させられて、招集を待っているようなものだよなあ。
 本当に「効率よく、なるべくお金を払わずに人間を使うためのシステム」ばかりが、進化しているような気がします。
 この店長だって、会社の方針とか、自分の評価をあげるために、こんなことをやっているのだろうけど……


 この本の題材は『ユニクロ』なのですが、ユニクロというのは、これから日本企業が向かおうとしている場所に、一足先にたどり着いてしまっている企業なんですよね、たぶん。
 

ユニクロ帝国の光と影

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