琥珀色の戯言

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【読書感想】米澤穂信と古典部 ☆☆☆

米澤穂信と古典部

米澤穂信と古典部


Kindle版もあります。

内容紹介
新作短編も収録!人気作家とともに歩んだ〈古典部〉のすべてがここに!


ある日、大日向が地学講義室に持ち込んだのは、鏑矢中学校で配られていた「読書感想の例文」という冊子。盛り上がる一同に、奉太郎は気が気でない――。
書き下ろし新作短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」の他、古典部メンバー四人の本棚、著者の仕事場や執筆資料も初公開!
氷菓』以来、米澤穂信と一五年間ともに歩み、進化を続けている〈古典部〉シリーズについて「広く深く」網羅した必読の一冊。


【CONTENTS】
Interview 〈古典部〉シリーズ15年のあゆみ
古典部〉書き下ろし短編 「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」
対談集――北村薫恩田陸綾辻行人大崎梢
著者による〈古典部〉シリーズ全解説
さらにディープな〈古典部〉隠れネタ大公開!
米澤穂信に30の質問 読者編/作家、声優、漫画家編
あなたの本棚見せてください! 古典部メンバー4人の本棚大公開
お仕事場拝見 2017年
『いまさら翼といわれても』刊行密着レポート!
米澤穂信マイルストーン
講演録 物語のみなもと
門外不出の〈古典部〉ディクショナリー


 僕は米澤穂信さんの作品全般も「古典部」シリーズも好きなのですが、この本に関しては、「大ファン、もしくはマニア向け」という感じがしました。
 古典部シリーズって、小説では、僕がこの本を読んだ時点(2017年11月)で、6冊出ていて、アニメ化もされており、実写映画も公開されています。
 アニメはかなり好評で、実写映画のほうは微妙、というのが一般的な評価のようです。
 この本を読みながら、僕がもっと「古典部」シリーズ好きだったら、あるいは、米澤穂信さんの大ファンだったら、もっとこの本を楽しめたんだろうけどなあ、と考えていたのです。
 新作短編が1本収録されているものの、文庫で6冊分のボリューム、かつ、アニメや実写映画版への言及はほとんどされていない、という条件でつくられたファンブックなので、全体的に中途半端な感じがします。
 古典部シリーズそのものも『いまさら翼といわれても』で、千反田えるさんの「立場と意識の変化」で、これから大きな転換点を迎えそうなところで、いま、「総括」するような時期ではなさそうですし。
 奉太郎と千反田さんの関係がどうなっていくのか、というのは、僕のようなオッサンなりに、けっこう気になっているんですけどね。
 米澤さんへの「奉太郎は千反田さんのこと好きですよね!」というストレートな質問もあったのですが、さて、それに米澤さんはどう答えたのか?


 各登場人物の本棚、というのも、アイディアとしては面白いんだけど、こういうのって、「いかにも」な本棚だと面白くないし、「意外すぎる」とイメージと違ってしまうし、考える手間の割には、読んでいる側には響きにくい企画じゃないかなあ。

 
 米澤さんへの質問や講演録には、読者として、背筋が伸びるところがありました。


 読者からの「ミステリーズ!新人賞の選考委員として、どのような点を重視していますか?」という質問に対して、米澤さんは、こう答えておられるのです(回答の一部)。

 まずは、曲がったことをしていないかです。実在の人物や歴史に対して敬意に欠ける取り扱いをしたり、読者を侮ったり馬鹿にしたりしていないかを見ます。これは小説の出来映えだけを見ていると意外と見落としがちですが、新人賞を授賞するということは、過去の受賞者と並ぶことを世間に公表することであり、賞の性格を明らかにすることであり、出版社にこの人はプロデュースに値すると告げることですので、あまりおかしなものは警戒するのです。


 それでも、「小説が優れていれば、警戒を取り払って推すことになる」とも仰っているのですが。
 小説・創作物だから、何を書いてもいい、という、アナーキーであれ、というのではなくて、ここまで作者と賞そのものの価値を踏まえて選考しているのか。
 米澤さんって、「日常の謎」を扱う、「軽め」のミステリを書いている人だというイメージをしばらく持っていたのですが、『さよなら妖精』や『王とサーカス』のような、社会派、あるいは、伝える側の姿勢を問うもの(米澤さんにとっては「自戒していること」なのかもしれません)などの作品も多いんですよね。
 ものすごくいろんなミステリを読んでいて、マニアではあるのだけれど、「謎解き」よりも「物語として、小説としての質」のほうに重きを置いていると僕は感じています。
 正直、ミステリとしては「拍子抜け」みたいなトリックだったり、「これは、ミステリじゃないんだろうけど……」と言いたくなることもあるのですけど。


 北村薫さんとの対談のなかで、米澤さんはこんな話をされています。

米澤:先日駅に向かっていたら小学一、二年生の子どもと母親が歩いてきたんですが、すれ違いざまに母親が「ワシントンなら行ってもいいよ」と言ったんです。アメリカのワシントンというのもおかしな話だし、近所にそういう名前の店もないので、なんだろうとずっと考えてしまいました。


北村:「行ってもいいよ」ではなく「言ってもいいよ」かもしれないしね。


米澤:確かに……!


 ヒントは、こんなふうに日常に転がっているものなんですね。
 僕が気づいていないだけで。
 これ、「ワシントン」って何なのか、気になるんだけど……


 米澤さんのファンブックなのか、「古典部」のファンブックなのか、ちょっと中途半端な感じですが、大ファンには欠かせないアイテムではないかと。
 Kindle版はスマートフォンでは読みづらかったので、タブレット端末じゃない人は、紙の書籍を買ったほうが良さそうです。


氷菓 「古典部」シリーズ (角川文庫)

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愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ (角川文庫)

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