琥珀色の戯言

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【読書感想】息子が人を殺しました 加害者家族の真実 ☆☆☆☆

息子が人を殺しました 加害者家族の真実 (幻冬舎新書)

息子が人を殺しました 加害者家族の真実 (幻冬舎新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
連日のように耳にする殺人事件。当然ながら犯人には家族がいる。本人は逮捕されれば塀の中だが、犯罪者の家族はそうではない。ネットで名前や住所がさらされ、マンションや会社から追い出されるなど、人生は180度変わる。また犯罪者は「どこにでもいそうな、いい人(子)」であることも少なくない。厳しくしつけた子どもが人を殺したり、おしどり夫婦の夫が性犯罪を犯すことも。突然地獄に突き落とされた家族は、その後どのような人生を送るのか?日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた著者が、その実態を赤裸々に語る。


※引用中に出てくる人名は仮名です。


 テレビやネットで報じられる事件をみている人は、ほとんどの場合、被害者側に感情移入しているのではないかと思います。
 もちろん、僕もそうです。
 「介護疲れによる殺人」のニュースをみると、加害者側に同情することもあるとしても。


 ただ、現実問題として考えると、自分や家族が被害者になる可能性がある一方で、加害者になることだって、ありえない話ではないのです。
 もちろん、そんなことは想像したくもないけれど。

 
 この本は、「加害者家族支援」のためのNPOを立ち上げた方が書いたものなのですが、紹介されている事例をみると、加害者は、必ずしも「いかにもそういうことをやりそうな人」とは限らないのです。
 あらためて考えてみると、家族が自分がいないところで何をしているかなんて、大部分の人は「知らない」あるいは「わからない」はずです。
 でも、そこは「信頼」しているという(あるいは「関与しない」という)前提がないと、日常生活は送れません。
 

 浅野恵(30代)は、その日、いつもと同じ朝を迎え、子どもたちを幼稚園に連れていく支度に追われていた。夫は最近疲れているのか、今朝もなかなか起きてこない。
 テレビには、行方不明となっていた人が遺体で発見されたという報道が流れていた。その場所は、自宅と同じ地域だったことから、昨夜から近辺は捜査員や報道陣らしき人たちの出入りで騒々しかった。どうやら殺人事件のようで、犯人はまだ逮捕されていない。早く犯人を捕まえてもらわなければ、子どもたちを外で遊ばせるわけにもいかない……
 そのとき、突然、チャイムが鳴った。午前7時半、こんな朝早くから誰だろうか。恵は、もしかして事件についてのインタビューではないかと思い、鏡の前でさっと髪型を整えた後、玄関に向かった。
 扉を開けると、ふたりの男性が門の前に立っていた。ひとりが警察手帳を出し、夫に事情を聞きたいので、署まで同行願いたいという。
 恵は慌てて夫のもとに向かい、警察が来ていることを伝えた。夫の表情は一瞬凍りついたように見えたが、すぐにいつもの様子に戻り、会社でトラブルがあったと説明した。
 大したことではないので、いつも通りに夕飯までには戻ると言い、警察官の車に乗り込んだ。
 殺人事件とは関係ないのだろうか……。ふと、不安がよぎったが、まさかそんなことがあるはずがない。恵はすぐに不安を打ち消した。
 しかしその日、子どもたちに「行ってきます」の一言も言わずに家を出ていった夫は、それから二度と戻って 数日後、夫は近所で起きた殺人事件の被疑者として逮捕された。


 加害者の家族は、こんなふうに、いきなり家に警察がやってきて、そこで事件への関与を知る、あるいは、報道ではじめて知る、というケースも少なくないそうです。
 ごく一部の「家族ぐるみの犯罪」とかでなければ、家族もその事実を知らない。
 そして、事件が明るみに出ると、加害者本人は留置され、取り調べを受け、罪が確定すれば刑務所に収監される。
 結果的に、世間に対して、矢面に立たされるのは、加害者の家族なのです。
 

 相原真由美(30代)は、数カ月前に生まれたばかりの娘と5歳の息子と暮らす専業主婦で、夫は自営業者だった。
 ある日、夫が近所の家電量販店から電子機器1台を盗み、窃盗罪で逮捕されたという連絡を受けた。あまりに突然の出来事で信じることができず、警察署に電話をし、連絡をくれた担当警察官の名前を確認した。すると、夫は警察署に拘留されており、逮捕は間違いないことがわかった。
 電話を切るやいなや、報道陣が殺到するのではないかと不安が襲ってきた。窓のカーテンを閉め、隙間から外の様子をうかがっていると、テレビ局の車と思われるワゴン車が1台停まり、中から大きなカメラを担いだ男性とスーツを着た男性がアパートに近づいてくるのが見えた。
 真由美は急いでテレビを消し、子どもたちをお風呂場に連れていった。玄関のチャイムが鳴ったが、息を殺すようにして、留守を装った。すると、不在だと思ったのか、取材陣の足音は一瞬遠のいた。外を確認すると、テレビ局のものらしきワゴン車はまだ停まっている。
 おそるおそる玄関に近づくと、遠くからチャイムを鳴らしている音が聞こえた。どうやら、取材陣は近所に取材を始めたようだった。
 微かに夫の名前が聞こえた。真由美は、アパートの住人まで巻き込む事態となっていることを知り、関係のない人への取材をやめてもらうべく、外に出ていこうと思った。
 しかし、恐怖で足が震え、外へ出ることはできなかった。躊躇している間に、いつの間にか外の報道陣らしき車や人影は消えていた。
 その日の夕方、真由美のアパート近くに住んでいる大家さんが事情を聞きに訪ねてきた。真由美は、夫の事件によって迷惑をかけてしまったことを深く詫びたが、大家さんは、一刻も早く立ち退いてほしいと言って聞かなかった。
 昼間に現れた報道陣は、真由美が留守を装っていたことから、アパートの101号室から順番にチャイムを押していき、部屋を特定しようとしていたようだった。大家さんのところには、突然の取材に驚く住人からの苦情が殺到し、対応に追われたという。


 被害者へのマスコミの取材攻勢のひどさは、かなり問題視されてきているのですが、加害者家族への取材に関しても、こういうことが行われているのです。
 お前たちの家族が悪いことをしたのだから、しょうがないだろ、と言うのが妥当なのか?
 相原さん親子は、行くアテもないままアパートを退去させられてしまったのです。
 「家電量販店から、電子機器1台」って、そのくらいの罪で、ここまで大きな話になるのか……報道で名前が出るかどうかで、かなり大きな違いもあるようです。
 僕も他人事としては「それくらいの罪」と言えても、自分の身近なところで起こった話であれば、泥棒と同じアパートに住むのは怖い、子どもが心配だ……と思うだろうし、大家さんだって、「トラブルの原因になる人には、退去してもらいたい」のは当たり前の話なんですよね。
 「罪を犯したのは家族ではない」のだけれど、それを「割り切る」のは、なかなか難しい。
 

 翌日、外に出ると、ドアに「犯人の家ココです。」という紙が貼ってあった。郵便受けには、「ふざけんな泥棒」「出ていけ」「死ね」と書かれた紙が投げ込まれていた。真由美は恐ろしくなり、引っ越しを決意した。


 そんな男と結婚したのが間違いなのだ、と言いきれれば、気楽なのだけれど、人って、わからないから……
 被害者側、加害者側、どちらとも縁がない人生がいちばんよいのだけれど、そこに「絶対」はないのです。
 ただ、これを読んでいると、「それでも、被害者家族でさえ、救済されているとは言い難いのに、加害者家族を擁護されてもなあ……」とも思うんですよね。
 両側とも家族はサポートされるべきで、被害者家族へのサポートが行き届いていないことが加害者の家族まで責めることの理由になってはいけないのは、理屈ではわかるのだけれど。

 ふたりの命を奪った、ある殺人犯の両親は、報道陣を心待ちにしている息子の言動に困惑していた。事件が起訴された後、加害者は取り調べもなくなり、拘置所の中で自由な時間を過ごすことになる。何もすることがなく、精神的苦痛を訴える人もいる。このようなとき、新聞記者や著名なジャーナリストに取材を求められ、話を聞いてもらうことに喜びを感じる人もいるのだ。
 その殺人犯の両親は、息子が反省しているとはとても思えない内容の記事が出るたびに、抗議や嫌がらせが増し、苦しみ続けていた。
 このように重大事件を起こす犯人の中には、社会的承認欲求に飢えている人もおり、報道陣から関心を向けられることで、その欲求が満たされる場合もあるのだ。

 秋葉原無差別殺傷事件から6年後、加藤氏の弟が自殺した。その事実はある週刊誌が小さく報じただけだった。
 メディアでは、厳罰化を叫ぶ人と、加害者の人権を唱える人が対立するが、その挟間で加害者家族の苦しみに耳を傾ける人はいないのである。


 加害者の家族に「責任」はあるのか?
 「全くない」と言い切る自信も僕にはありません。
 それを直接相手にぶつけるかどうかは別として。
 刑務所の中にいる加害者本人には嫌がらせは届かないのに、社会の中で生活している家族は、抗議や嫌がらせから逃れることはできないのです。
 
 ただ、こう書きながらも、「それでも、被害者やその家族のことを考えると……」という気持ちになってしまうのだよなあ。
 

fujipon.hatenadiary.com
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加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)

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