琥珀色の戯言

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【読書感想】生涯現役論 ☆☆☆

生涯現役論 (新潮新書)

生涯現役論 (新潮新書)


Kindle版もあります。

生涯現役論(新潮新書)

生涯現役論(新潮新書)

内容紹介
今の自分は10年後の自分より10歳若い。老け込んでいるヒマなどない──。プロ野球史上最も長く現役を続けた「球界のレジェンド」と、投資ファンドの代表、航空会社の経営者、大学教授の3足の草鞋を履く最強ビジネスマンが語り合う。下積みを厭わない。地道な努力を続ける。「好き」を追究しつづける。異なる世界で生きてきた二人の姿勢は驚くほど共通していた。人生100年時代に贈る、勇気と希望の仕事論。


 中日ドラゴンズひとすじで50歳まで現役を続けた山本昌さんと、大企業に就職史ながら30歳で司法試験の勉強をはじめ、転職後に当時の日本では殆ど専門家がいなかったM&A(企業の合併・買収)の世界に飛び込み。現在は投資ファンドの代表、航空会社(スカイマーク)の会長、一橋大学の教授と「三足のわらじ」を履いている佐山展生さん。
 このおふたりが、「ずっと努力と現役であることを続けること」をテーマに対談したものをまとめたものです。
 読んでいると、お二人はともに「勉強、研究、自己研鑽マニア」みたいなところがあって、僕には真似できないな、とは思うのですが、「自分の価値を高め、ずっと必要とされるために、どんなことをしてきたのか?」というのは、いま40代半ばの僕にとっても、これからどうやって生きていくかのヒントになりました。
 でも、このおふたりの話、本当は、10代から20代くらいで読んだほうが良いというか、読めるのであれば、なるべく若いうちに触れておいたほうが参考になりそうです。
 若い頃に、それなりの貯金というか、習慣づけをしておいたほうが、有利だと思いますし。


 山本昌さんの話を読んでいると、「プロ野球で、しかも、名球会に入るくらい活躍した人でも、『天才少年』じゃなかった人もいるのか……」と驚かされました。

山本昌いえ、小学校も中学校も補欠の投手でした。小学校6年生の時に横浜市から茅ヶ崎市に引っ越したのですが、そこには「怪童くん」と呼ばれる投手がいたのです。
 普通、プロ野球に入るような選手は、子どもの頃から投げるのも打つのもうまいから、たとえ投手として出られなくても。どこかのポジションで試合に出られる。でも私は不器用だったから、ずっと球拾いでした。中学の最後まで背番号は10番(控え投手の番号)でした。


佐山展生:そうですか。では、どうやって上達していったんですか。


山本:「あいつに勝ちたい」という一心で、中学2年の時から、夕食後に毎日4キロ走りました。ついでに素振り100回もこなした。ピッチャーなので本当は必要ないのですが(笑)。要するに熱血少年だったのです。
 すると、中学最後の大会の直前に、「怪童くん」が腰を悪くして、私に登板機会が回ってきたんです。結果的にあれよあれよという間に勝ち上がり、茅ヶ崎市で優勝して、学校として初めて県大会に出場できた。そこで活躍したことで、強豪の日大藤沢高校から声がかかったのです。


 この対談を読んでいると、山本昌さんというのは「努力の天才」だったんだな、ということがわかります。
 自分が興味を持ったことは、野球だけではなく、凄腕で有名なラジコンやクワガタ飼育をはじめとして、ものすごく熱心に研究し、ステップアップしていくのです。
 プロ入りした際には、当時の中日のローテーション投手たちが投げるボールの凄さに圧倒され、こんなところでやっていくのは無理なんじゃないか、と感じたそうなのですが、アメリカ留学で修得したスクリューボールや打者心理を読む「考える野球」をすることで、頭角をあらわしていきます。


 お二人は、「チャンスをつかめる人とつかめない人の差」について、こう語っています。

山本:チャンスが来ているときに「今がチャンスだ」と気づくことは、まずありません。多くの人は、後から「あのときはチャンスだった」と気づきます。だから私は、いつチャンスが来てもいいように、ほとんどのことに手を抜きませんでした。
 当時、プロ野球選手の間では、「ちょっとぐらい不真面目なほうが成功する」「真面目にガツガツやるやつは伸びない」という風潮があったんです。私も先輩から何度も「どんなに真面目にやっても上達しないぞ」と言われました。でも私は、「そんなことない」と思って練習していました。だって、準備不足で目の前のチャンスを逃すなんて嫌じゃないですか。
 私はあくまでも幸運に恵まれただけで、60歳になってもチャンスが来ない人もいると思います。でも、だからといってぼうっとしているよりも、チャンスを期待して準備をしていたほうが人生は充実します。
 あと、一生懸命やっていると誰かが見てくれます。私の場合は星野監督やアイクさんに助けられましたが、人から可愛がってもらえる存在になっておくことも大事ですね。


佐山:同感ですね。さらに言えば、チャンスはボーッとただ単に何かいいことないかと待っている人のところには来ない。貪欲に狙っている人のところに来る。「何かやってやる」という姿勢を持ち続けることが大切だと思います。現に山本さんも、同僚がキャッチボールをしている様子を見て、「何かに使えるかもしれない」と投げ方を聞いたからこそ、武器を手に入れたわけですから。
 アクションの頻度も重要です。チャンスだと思って挑戦しても、空振りすることがほとんど。しかし「どうせ当たらないから」と思って動かなければ、成功確率はほぼゼロ。挑戦した場合、100回に1回は当たるかもしれませんから。


山本:ただ、それだけ真剣にやっていれば、失敗したときの落胆も大きい。私もプロで通用しないことが悔しくて、アメリカに行く前はずいぶん泣きました。


 多くの場合、「今がチャンスだ」というのを自覚するのは難しいもののようです。だからこそ、「チャンスを逃さない」ためには、「常に今がチャンスだと思って、失敗を恐れずに挑戦し続ける」ことが大事なんですね。
 チャンスが来たら頑張ろうと思っているうちに、そのチャンスに気づかないまま、人はどんどん年を取っていく。
 山本さんは、「なかなかチャンスをもらえない」と愚痴ばかりこぼしながら腐っていき、能力はあるはずなのに成功できなかった選手をたくさん見てきたそうです。


 山本さんは、こう仰っています。

山本:エリートとしてやってこなかったからこそ、自分の伸びしろを信じているんです。一つ自信を持って言えるのは、私が日本の野球史上、「もっともプロに入ってから伸びた選手」だということです。
 先日、二十数年ぶりにドラゴンズの先輩選手にお会いしたのですが「俺は世界の七不思議よりも、お前が不思議だ。入ってきたときのお前を見たときは、プロで勝てるなんて絶対に思わなかった」と言われました。私は常に「もっと上があるんじゃないか。これが本当に精いっぱいなのか」と思っています。投手の究極形態は、1点も取られないで全焼することだと思いますが、そんなピッチャーはいません。
 しかも実際の私はずっと下の方でやっていましたから、まだまだ上がる余地はいくらでもあると思える。だからいつまでも、上達を探求しているのだと思います。


 この「向上心」こそが、山本昌さんの最大の武器だったんでしょうね。
 「自分の可能性を信じろ」って言うのは簡単だけれど、本当に信じ続けられる人は、そんなに多くはありません。
 向上し続ければ、中学時代に補欠だった選手でも、名球会に入れる可能性があるのか……もちろん、万人に当てはまるとも思えないけれど。


 この対談でいちばん面白かったのは、山本昌さんの「星野仙一監督に関するエピソード」の数々でした。

山本:星野監督にはよく「お前はノーアウトからランナーを出す」と𠮟られました。ただ別の試合では「せっかくワンアウトとったのにランナーを出しやがって」と𠮟られ、また別の試合では「ツーアウトからランナーを出すな」と𠮟られた(笑)。


佐山:要するに、ランナーを出すなということですね(笑)。


山本:ええ。ただ、口すっぱく言われていたので、「寸分たりとも気を抜かない」ことが身体中に染み渡りました。前にも言いましたが、星野さんにとって私は、いつまで経ってもハナタレ坊主なんです。だから若い投手が何か失敗しても、私が代わりに𠮟られました。「お前がノーアウトから打たれるから、若い奴らが真似して同じように打たれるんだ」と言って。
 でも星野監督からすれば、怒る相手がいて楽だったんではないでしょうか。「とりあえずマサを𠮟っておけば若い奴らがビシッとする」と思っていたりして。だんだんと皆、こうした構造が理解できてきたから、私が監督に呼ばれるとニヤニヤしだす先輩もいました。「あいつ、また𠮟られるぞ」と。


佐山:でも、期待していない人を𠮟らないでしょ。


山本:そうですね。だから今でも、星野監督には何かあると真っ先に相談します。100勝のときも、150勝のときも、200勝のときも、引退するときも、最初に電話をしました。もしコーチの話をもらったとしても、最初に電話するでしょうね。
 ただ若いころは、監督が怖くて、よくベンチと戦っていました。フォアボールを出したときにベンチをちらっと見ると、監督が椅子をどーんと蹴っている。それが怖くてしょうがなかった。


佐山:それは怖い(笑)。


山本:でもいつのまにか、ベンチの方を見なくなりました。ひょっとしたら経験を重ね、自信がついたのかもしれません。打者ではなくベンチと戦っていたら、100%の力は出せませんから。


 星野監督、こんなに無茶なことを言っているのに、多くの選手から慕われてもいるんですよね。
 山本昌さんも、「もう1回やれって言われたら、正直やりたくない」と、この後、笑いながら仰ってはいるのですけど、やっぱり「恩師」なのだよなあ。
 実際に星野監督トークを聞いているかぎりでは、なんて理不尽で怖い人なんだ……って思うんですが、人間の魅力っていうのは、不思議なものです。


 この人たちを真似するのは難しいなあ、と思いつつも、少しずつでも「やる気」を出していこう、と感じる新書だと思います。
 それにしても、「もっともプロに入って伸びた選手」だと自分で言えるって、すごいよね。


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